25、水曜日、居心地
寝坊した。昨日はなんだか泣きつかれたらしくて帰ったらすぐ寝てしまったのに、寝坊した。
なんとか朝のHRには間に合ったけどお弁当は作ってこれなかった。
しかし昼休みの時間に購買で買うとなるとあの奪略戦争には勝つ自信がない。
確かに昼に比べると品数はだいぶ少ないし、特売品として割引される商品もないけどあの人だかりの負け戦に臨むぐらいなら負けるが勝ち。挑まないのもまた勝ちだと思うのだ。
私は1時間目が終わった時点で急ぎ足で購買に向かったが、購買に着いた時点で朝ごはん用として売られれているパン類がもうすでに無くなっていた。
「………」
すっかりガラガラになった棚を私は呆然と立ち尽くす。
レジをちらりと見ると大量のパンを購入してる背中を少し恨めし気に見ると、その見慣れたシルエットに私は迷わず声をかけた。
「カカシせんせー」
「おー」
カカシ先生の近くに寄ってパンパンに膨らんでるビニール袋を覗き込む。
「もう買いすぎ!私のお昼……」
「あれお前いつも弁当じゃないの?」
「今日寝坊しちゃって……」
「自分で弁当作ってるの?」
「んー?ちょっとおばあちゃん体調悪いみたいで、最近は自分で作ってんだけどね。寝坊しちゃったから」
「ふーん」
カカシ先生はちらっとパンパンに膨れてるビニール袋に目をやった。まさか…!と目をキラキラさせていたのがバカ。
「あげないけどね」
「……」
ぐぐぐぐとそりゃあもうぐぐぐぐと拳を握りしめた。
「鬼!悪魔!大魔神カカシ!」
「なんとでもどーぞ。お昼に行けばお昼用にまた陳列あるんだしそこで買えばいいでしょ」
「先生は知らないんだ!あの仁義なき戦いを…!」
「知らないねぇ」
「…………先生なんて嫌いだ」
「ふーん」
「嫌い!もう先生の言うことなんか聞いてやんない!」
「ふーん。みょうじは今まで全部善意でやってくれてたのね。オレはみょうじにお願いしてやらせてたってことね、なるほどねー自分の日頃の行いを棚に上げてまるでオレがお前に何もないのにいろいろやらせてたみたいな言い方をするんだな」
「………」
「ほら何も言えないでしょ」
「……あるもん!花壇の水やりとか!」
「そりゃあオレに迷惑ばかりかけてるんだからそれぐらいしてくれてもいいでしょ」
「よくないわい!」
鼻息荒く怒っているのにカカシ先生はどうでもよさそうな顔で私の顔をじっと見た。
「な、なんですか…」
もしかしてちょっと逆らいすぎたのか!少しひるんでいるとカカシ先生はニコリと笑ってすぐ前を向いた。
「怖い!なに今の!」
「失礼だなー、これでも昨日のこと心配してたんだけどオレ」
「…………どうも」
確かにあれだけ号泣していたらいくらカカシ先生も気にはするだろう。待てよ私最近カカシ先生の前で泣きすぎじゃない?いやなんか居心地がなぜか良―――
「お前泣くとすごい鼻水出るよね。女の子なのに、ちょっと引いたわ」
―――くなかったわ!
「うるさいわい!」
恥ずかしくって顔が赤くなっていくのがわかる。みょうじなまえ一生の不覚!!死にたい!
「まー元気そうでなにより。じゃ」
スタと手を上げてそこの階段を駆け上がろうとするカカシ先生の膨れ上がったビニール袋を慌てて掴んだ。
「…なにすんの?」
「……1個だけでもちょうだい。お金だすから!」
「無理。オレ昨日から何も食ってないの」
「は?」
「新しく出た本読んでたら止まらくてさ」
「また本ですか!」
「昨日の夜と、今日の朝と昼と夜の分だから無理」
「…1個だけ!」
顔をぐしゃぐしゃにしてカカシ先生にすがりつくように覗き込んだ。わかってるけどね、こんなことしてもこの鬼で悪魔で大大大魔神のカカシは哀れんではくれないのは。
「そこまで言うならあげてもいいけどさ」
「うっそだ!!」
「…………あげないよ?」
「嘘です!すいません!ごめんなさい!」
なんだこいつどうしたんだろうか、、まさか本当にくれるとは……
心の中で悪口を言ってしまったことに少し罪悪感を覚えたのは初めてだ。
「じゃあ昼休みに準備室集合ね」
「ん?」
「チャイム鳴って5分以内にこないとあげないから」
「え、ちょいちょい」
「そういうことで。ってかお前大丈夫なの?休憩時間終わっちゃうけど」
「あ!」
「遅刻するなよ」
「あ、ちょ、」
そう言うとカカシ先生はスタスタと階段を駆け上がっていった。
その場に取り残された私はさっきのカカシ先生の言葉を思い出してはうなだれた。
何年私はあの大魔神カカシと付き合っているというのだ!入学式からだぞ!入学式が終わって帰ろうと下駄箱から出ようとした私を呼び止めて花壇の手伝いをさせた男だぞ、
あーほらあるじゃん!入学式の日のは確実にボランティアじゃんか。
………まあ要するに絶対準備室で私は大魔神からなにか仕事を押し付けられる。絶対そうだ。それ以外ありえない。
バカは私だ。お金出すからパン1個ということではない。アイツは一つのものに沢山の対価を突き付けてくる男だ。忘れていた!バカ野郎何年の付き合いだ!私のバカヤローー!
「失礼しまーす」
「2分遅刻ね」
「…………」
目を細めてカカシ先生を睨みながら私は昼休みに準備室の扉を潜った。
そんな私を眉を垂らしながら笑って空いてる席を指さす。
「まあ座れよ」
一体どんなものを押し付けてくるんだろうと警戒しながらカカシ先生の顔を窺って席に座る。
そんな私をカカシ先生はまた困ったように笑って迎え入れる。
私が今どんなことを考えてるかお見通しな態度もまたなにか反発したくなるんだけど、
「とりあえず好きなの選べよ」
ビニール袋をそのまま私の前にポンと置く。
「え、いいの?」
「いいよ」
ニコリと笑うカカシ先生に一瞬自分の目がキラキラしていたのに気が付いた。
恥ずかしくて俯いてビニール袋に手を突っ込んだ。
「お前なにが好きなの?」
「…メロンパン」
「残念、メロンパンなかった」
「あんぱんだ!あ…でも焼きそばパンもある……」
二つ手に取って交互に眺めていると放置されていたビニール袋がひょいとカカシ先生の手によって引き戻された。
カカシ先生を見るとなんだかニコニコそりゃあなんだか本当に気持ち悪いほどに穏やかでなんだか恥ずかしくなった。
「ふたつとも食べたら?」
「……いいの?」
「太っていいなら」
「………」
ギロリと睨むとまた困った顔をして「うそうそ」と笑った。
「好きなだけ食べたらいいよ」
「…今朝はあれだけあげないって言ったくせに」
「みょうじからかうと面白いからな」
「先生さ変態だよ今の発言。気持ち悪いよ」
「ハハ、すまんすまん」
そう言って先生はまだ私の顔を微笑んでるように眺めていて、なんだろう照れくさいっていうか…、そうカカシ先生があまりにも優しいから最近。照れくさい。
「先生ってさ、なんだかんだ私に優しいね!」
照れかくしで少し早口になった。
「優しいよ。俺はいつだって優しいじゃない」
「……それ本気で言ってるなら引くわ」
「失礼だねみょうじは。俺はお前にすごく優しいよ」
「……知ってる」
ぷいっとそっぽ向きながらあんぱんを一口かじった。
カカシ先生がくすくす笑ってるのなんか気づかないふりして。
水曜日、居心地------------
最後までありがとうござます!
よろしければポチっと。→
●*●
[←戻る]