23、火曜日、蒸し返す寒さ





「悪ぃ、遅くなった」

火曜日の放課後。
私がカカシ先生の準備室に着いてから1時間も遅く来た奈良くん。


「今日は来ないかと思ったよ。なにかあったの…?」

「進路のことで担任に呼ばれた」

「担任ってアスマ先生だっけ?」

「よく知ってんな」

「う、うん…」

ドキーッとしてる自分を必死に隠して笑顔を作る。奈良くんの周りは調査済みなんて…言えない!


「た、大変だったね」

「めんどくせーよな、ジュケンセイはよ」

「なにか言われたの?」

「あー志望校変えろって」

「え、志望校?」

「もっと上目指せるだろ、だってよ。ったくめんどくせー」


………?
奈良くんは確か進学校の木の葉高校が志望校のはず。
ここらへんで木の葉高校より頭のいい学校ってあったっけ…?


「どこにしたの?志望校」

「砂隠高校」

「…え、」


砂隠高校って隣の市の学校じゃん。
しかも、なんで……、そりゃあ確かにそこそこ頭のいい学校だけど。
アスマ先生の言うとおり奈良くんなら木の葉高校だって余裕で合格するのに。


「なんだよ、そんな顔して?」

「もったいないよ、頭いいのに」

「こだわりとかねーし」

「そうなの?」

「別に頭いい学校行ったってやりたいことねーしよ」

「…じゃあなんで砂隠高校なの?」

「え、あー……まあ、なんだ、あれだな」

急に慌てた様子でそこらへんのプリントをかき集める奈良くんに、私は直感した。





「……もしかして、」





これ以上、踏み込みたくない。って思ってるのに。






「か、彼女がいるから………と、か?」






――――……ホラ。
こんな顔する奈良シカマル。知らない。



「……顔真っ赤だよ」

「お前が急に変なこと言い出すからだろ」

「そんな顔もするんだね、奈良くんって」

「バカにしてんのか?」

「違うよ。だって、あまりにもわかりやすい反応するから…」

「うるせーな、」

「………やっぱり、彼女だったんだ……」

「え?」

「え、ああと、だからね!だからね、その……この前見たから。女の人と一緒にいるところ、学校の前で………」

あー…泣く。
だけど頑張って笑顔を作る。引きつったっていい泣かなければそれでいい。


「もしかしてお前も見た…か?」

「み、見ちゃったよ。ちゅーでしょ!ちゅーちゅー、いで!」

「ナルトみたいにちゃかすな」

「ご、ごめんね。ああ…アハハ、ああ!そっか。砂隠高校って彼女がそこ受けるからとか?」

「受けるっつーか、在学中だからよ」

「年上な、の?あー…ハハ、奈良くんやるなー!」

「オヤジくさいぞお前。ったく恥ずー…」

「恥ずかしくないよ。ごく普通のことだよ、好きな人と同じ学校行きたいなんて…」


乙女なことしちゃってさ…、似合わないよ。奈良シカマルにそんなこと、


「ったく、お前に不意打ち食らうなんてよ、」

生意気だぞって照れ隠しなのか私のおでこをピンと跳ねてきた。
それが痛くて涙が出た。痛くて痛くてしょうがなくて私はおでこを両手で煽った。



「あ、悪い。痛かったか?」

「違うの、目にゴミが…?」

「ゴミ?」

「あいたた!目がぁ目がぁ!」

「だ、大丈夫か?」

「ちょっと洗ってくるね」

「おう行ってこい」

「すぐ戻るからね。あー痛い痛い!」



――――ビシャン。

扉を閉めた瞬間。我ながら下手な演技に笑みが出た。けどバカみたいに涙もあふれた。やばい、止まらない…

自分で地雷を踏むなんてどこまでバカなの私は。笑っちゃうよ。


「あはは…うえ…うう…ハハ……うっく」

もう…こんな顔で戻れないよ…顔洗わなきゃ。ああ涙で前が見えな、


「ストップ!」

「……っ」

いきなり腕を掴まれた瞬間少し足がガクっと落ちた。驚いて少し冷静になると目の前はまさに階段で、もしこの腕を掴んでくれてなかったら、確実に階段から踏み外して転げ落ちていた。
そう考えるとゾッとして気が付けば涙がピタっと止まっていて、


「アブナイでしょーが」

耳元で聞こえる声に何故か安心してまた涙が出た。


「ガ、ガガガガガガジ先生………怖かっ…」

「…ったく。ハイハイわかったからとりあえず落ち着け」

「………び、くりし…」

「ハイハイ、息すってー吐いてー」

言われたとおり息を吸って吐いてを繰り返すと徐々に気持ちが落ち着いてきた。



「……みょうじのバカっぷりには呆れるね」

「す、すいません………」

「とにかく言いたいこと沢山あるから準備室行くぞ」

「ま、まままままま待って先生やだ!」


おもいっきりカカシ先生の腕を掴んでグイっと引っ張る。
こんな顔で奈良君がいる準備室に戻りたくない。
それだけはイヤで、私は必至で抵抗した。

カカシ先生はそんな私をすごく困ったような顔で、


「…んじゃ、こっち」


そう言って先生は反対の方向を歩き出した。








火曜日、蒸し返す寒さ






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