22、タイムストップ




「だぁーーー!!めんどくせええ!」

「奈良くん、まだ30分しか経ってないよ…頑張ろう!」

「整理しても整理しても床から湧き出てくんだぜプリントが!やる気も出ねえ…」

「うーん…、確かにそうだよね…」

「キリねえわ。いっそ全部捨てちまうか」

「ダメダメー!奈良くんさっき自分が言ったんじゃん『捨てるわけにはいかねーしな』って」

「めんどくせ。もう捨てるしかねーよ」

「ダメだよ!」

「……だ、よな…。はー、気が滅入りそうだぜ」


私の説得に少し冷静になったのか、乱暴に握りしめていたプリントを丁寧に持ち直した。
少し胸をホっとさせて、私は奈良くんの気が晴れるような話題を頭の中でぐるぐる巡らせた。

「えーっと…、あ!そうだ、あの後ナルトくんたちは間に合ったのかな!?」

「んー?あー、大丈夫だったんじゃねえ?」

「カカシ先生の授業だったみたいだけど間に合ってたらいいね!」

「そうだな」

「……」

チーン。会話終了。
チラリと奈良くんを見ると、特に気が晴れてるようには見えずまた眉間に皺が寄ってプリントを整理している。
イライラしているのか貧乏ゆすりがひどい。


「ええ…っと、あ、ホラ!見て!」

困り果てて目を窓の方に向けるとグランドが見えた。キバたちがグラウンドで遊んでいる。


「ったくいいよなあいつら…」

「あ、チョージ君大丈夫かな?」

キバとナルト君がなにやら追いかけっこしている。いやよく見るとキバがナルト君を追いかけてるように見える。またケンカでもしたのだろうか?
そのだいぶ後ろをへろへろになりながらチョージくんが追いかけていた。


「ハハ、」

その光景を見て奈良くんが可笑しそうに笑った。私もおかしくて笑う、奈良くんが笑ったことがなにより私を笑顔にさせた。


「奈良くんは、チョージくんと幼馴染なんだよね?」

「おう」

「ナルト君も?」

「あいつは小学校で一緒になって遊ぶようになったな、」

「じゃあキバは?キバは私と同じ小学校だったから中学から?」

「あーいや、俺の母ちゃんとキバの母ちゃんが仲良くてよ、よくキバの母ちゃんがキバ連れて俺んち来てたからそれでだな」

「へー!キバとナルト君とチョージ君とはそんな前から一緒にいたんだね」


…腐れ縁ってやつだな、と奈良くんは呟いたけどその顔はどこか腑に落ちないような顔をしていて眉間が少し皺が寄っている。
急にどうしたんだろう、私なにかしてしまったのだろうか。
少し不安になっていると奈良くんが「どうでもいいけどよ」と言う。



「お前さ、なんで俺が奈良くんが、あいつら下の名前なんだよ?」

「…………へ、」

「あーいや、別にマジで、どうでもいいかそんなもん」

「…あ!!な、慣れ慣れしいよね!そんなに仲良くもないのに下の名前って…!ご、ごめんね!あの、みんなナルトとかチョージで呼んでたからつい。ごめんね!」

「あ、おい、落ち着けって。ちげーから。そんなんじゃなくてだ、な…」


奈良くんはぶすうとした顔をしているのに耳が何故か赤くなっている。それが余計に理解できなくて私の不安が積もっていく。
おどおどしている私に気づいたのか、奈良くんは大きなため息をして、


「今から恥ずかしいこと言うぞ」

「え、ええ」

「いいか引くなよ」

「え、え?」


「『俺の方があいつらよりお前と仲良いのになんで俺はまだ奈良くんって呼ばれてんだよ。』って思った」










ズキュ――――――ン。
打ち抜かれました。

今私の心臓は穴が開いていることでしょう。
なんということでしょう。私は今顔が真っ赤っ赤だろうがきっと頭から湯気出てるだろうけど、そんなの…そんなの…!。




「ださすぎるな俺。忘れろ今の」

「だ、だだだださくないよ!絶対忘れない!」

「…お前すげー顔してんぞ」

「え、」

慌てて両手で顔を隠した。すると、上から笑い声が聞こえる。指の隙間から覗き見するとお腹を抱えて笑っている奈良くん。


「顔真っ赤だぜお前!」

「奈良くんだって!…耳赤いもん」

「…!」

「………」

咄嗟に両耳を手で塞ぐ奈良くんに可笑しくって笑い声が出た。それにつられて奈良くんもまた笑う。


「ったく俺らなにしてんだって感じだな」

「ハハハ、本当にね…!」


二人でこれでもかって笑う。恰好なんて気にしないくらいバカ笑いがカカシ先生の準備室に響く。
なんだかお互い照れくさくて、可笑しくて、笑い続けた。



このまま時間が止まればいいのに。そう思った。

私の思いが届かなくてもいい。このままでいいから。この時間がずっと続けばいいと。










タイムストップ












ガラガラガラガラ―――――


「キミ達やかましいですぞ!」

「…………すんません」

「ごめんなさい!」


教室の前を通りすぎたエビス先生に怒られてしまったのは言うまでもない。







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