20、月曜日、雲はいずれ晴れる
「みょうじ、お前本とか読むの好きだったりする?」
「…げ、カカシ先生。ってか開口一番それですか、おはよう。じゃないんですね、」
「それそっくりそのままお前に返すよ」
ホント失礼なヤツだな〜と、それでもどうでもよさそうに横目で私を見るカカシ先生。
下駄箱で上履きに履き替えているところ、偶然通りかかったカカシ先生が相変わらず私にどうでもいい会話を投げかけてくる。
この人、私しかお話する人がいないんじゃないだろうか…なんだか心配になってきた。
「先生さ、友達いないの?」
「ん?いるけど、なんでよ」
「私にちょっかいばっかりしてくるから」
「可愛い可愛い生徒だから構いたくなるのが教師ってもんじゃないの」
「心こもってません」
「う〜ん、心込めてるはずなんだがなあ」
「もういいです、先生の話に付き合ってるほど私暇じゃないんです」
「お前暇でしょ」
「う…、」
「部活も委員も入ってないのになんでいつも早いんだろうな…」
「詮索無用です!」
「あっそ。俺も暇じゃないけどこうやって大事な生徒とのコミュニケーションをしてるんだからさ、そんな邪険に扱われると傷つくよ」
コミュニケーション!これが!?
ただいじめられてるようにしか思えないんですけど!
「暇じゃないなら職員室へどうぞ!」
「それが今日も当番でさ、あ〜めんどくさいったらないよ」
「……」
「教師のやることじゃないでしょ、花壇の水遣りに鍵の開け閉め、会議に使う資料のコピー…ああ公務員は大変だ。そんなもん生徒にやらせりゃいいと思うんだがな〜」
「先生、最後らへんは生徒にやらせちゃダメでしょ」
「お、そういえばこんなところに暇人が」
「おい!聞け!ってか暇じゃないってば!」
「水やりしてきてくんない?」
「やっぱりね!そう言うと思った!」
「じゃ、」
「ちょ!私病み上がりなんですけどお!」
「ん?大丈夫でしょ」
「………」
「まあそういうことで」
「あ、コラ!待っ……」
今度こそ断固反抗してやる!と腕を捕まえようとしたけどスルリと抜けられてあえなく撃沈。
カカシ先生はそのままスタスタと階段を上がってしまった。
こうなったら、もともと私に水やりをやらせようと待ち伏せしていた可能性も出てくる。なにが大事な生徒とのコミュニケーションだ。
下駄箱に取り残された私は、その場で地団駄を踏んだ。
「アホカカシーーー!!」
裏庭のロッカーから持ち出したホースを片手に私はグラウンドの花壇へ向かう。
その足取りは近づくたびに重くなっていった。
この時間は確実に奈良くんたちが遊んでいる。
当然キバもいるってわけで…
こんな状況になっても朝早くきて教室で奈良くんをのぞき見しようと思ってたわけじゃなくて…(いや2割はそうだけど)
3年もずっとこの時間に登校してきたからなんか遅く出るのがとても違和感で、まあもういいや本でも読んで時間潰そうって思ったけど…
「ん、そう言えばさっきカカシ先生、本好きか聞いてきたけど…」
なんで知ってんだろ、いやその前になんであんなこと聞いてきたんだろ…あ、やめた。先生の考えてることなんて宇宙だもん。考えない考えない。
渡り廊下を曲がると、一面のグラウンドが広がる。
やはりその中央で奈良くんたちは遊んでいた。
とりあえずいずれ気づかれるだろうと思いつつも、でもどうにか目立たないようにこそこそと蛇口にホースをつなげた。
蛇口をひねりホースの先端を摘んで花壇のほうへ目を向けた、はずだったのだが、
「よ、」
「ひぃぃぃぃぃい!」
「うわ!」
目の前にキバが立っていて、こんな早くに気づかれたのかとか急に目の前に人がいたとか確かに驚いたけど、
それよりもなによりも、花壇に水をかける勢いになっていたこの手というかホースをどうにかしまいと必死に抵抗してみたものの、少しだけキバにかかってしまった。
「ご、ごめん!キバ、大丈夫?」
「靴がちょっと濡れただけだ。へーき!」
そう言いながらキバはニカっと笑ってみせた。
ホッと胸にを撫でおらして、私は蛇口をひねって水をとめた。
「もう急に出てこないでよね、ビックリしたー!」
「悪い悪い!」
そう言いながらもキバは楽しそうに笑っている。つられて私も笑顔が出そうになった、時。
「好きだ」
「俺じゃ…、ダメか?」
あの雨の日の出来事が脳にフラッシュバックしてきて、おもわず私はうつむいた。
なんで、なんで今思い出してしまったんだろう…
このまま知らないフリして楽しく笑い過ぎれば良かったのに、だけど私にはそれがすごく難しく思えた。
そんな様子に気づいたのか、俯いた先に見える、真っ直ぐに下ろされたキバの両手はギュと強く拳が握られていた。
私が言うのも変なのかも知れない、
幼馴染だから今キバがどんな顔をしているのかすごくわかる。
わかるから、私はキバの想いをどう答えればいいのかわからなかった。
傷つけたくない…。
傷つけたく、
「辛気臭えんだよ!」
「…え」
重い空気を払拭したのはキバだった。
払拭?違う。吹き飛ばした、怒鳴り声という台風で。
「うぜーんだよ!うぜー!うぜうぜうぜー!」
「…な!」
「たかが告っただけでなんだその顔は、ここはお通夜かお葬式か!」
「…キ、」
「俺は別に悪いことは言ってねえ。告白って悪いことか?ちげーだろ!」
「……ちょ、キバ、そんな怒らなくて、」
「うるせー!お前がそんな顔するからだろ!嬉しいだろ!告白されてよ!」
「へ、ちょっと意味わ、」
「普通嬉しいだろうが。自分のこと好きだって言われたらフツー嬉しいと思うだろ」
私の言葉なんて届かないぐらいに撒き散らすこの台風キバ号。
だけどなぜか素直にキバの言葉が胸に入ってきた。
「まあ確かに、…………お、お、お、俺にしろとか……い、言った………ような気がするけど!でもだからってお前を困らせたかったわけじゃねえからよ。つ、付き合いてえ、とか!別に思ってねえから、…多分。それにシカマルのこと好きなの知ってっから。俺のこと好きじゃないのも知ってっから」
「…キバ」
「だからそんな顔すんな。俺はお前が笑ってるのがすげー好きだからさ」
「…………!」
真っ赤な顔をしてニカっと笑うキバはとても大人に見えた。眩しくて見とれてしまった。
近すぎてわらかなかったけど、キバはこんなに大人になっていたのか。
それなのに私は、キバの気持ちから逃げようとばかり、傷つけたくなくて向き合うことをしなかった。
「…ごめんね、」
「うるせーよ、謝んな!…告白してくれてありがとう、だろ」
くしゃくしゃに私の頭をなでるキバの優しさに私は涙が出そうになった。でも我慢した。泣くのは違う、そう思った。それが私の大人になることだった。
私が笑ってこれたのはずっと傍にキバがいてくれたからだよ。
親がいない私にお母さんとお父さんしてくれた。お節介で口うるさいけど優しいキバがいたからだよ。
月曜日、雲はいずれ晴れる
「――好きになってくれて、ありがとう」
「どういたしまして、だ!」
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