19、キミの優しさ
キバの怖い視線を背中に浴びながら私はカカシ先生の背中を押して職員室に入った。
チラりと後ろを振り向くと、困った顔を残した奈良シカマルと目が合った。
急いで外そうとしたけど「なあ」と話しかけられてしまい逃げ場をなくした視線はまた奈良シカマルに戻る。
「な、なに?」
「キバとなんかあったのか?」
「え!?」
「昨日からあいつ様子が変なんだよな。それにさっきのお前らすんげーおかしいつーか」
「………そ、そうかな」
「…あー、いや立ち入ったことだったな。悪ぃ、今のなしな」
なんて答えたらいいのかわらかなくて俯いてしまった私を安心させるようとしてくれたのかポンと私の頭に手を置いて、奈良シカマルはカカシ先生の後を追って行った。
一瞬だったけど触れられた頭にそっと手を置いてみて、気づかされる。
その優しさは、特別ではないということ。
「さてと。キミ達5分以内に来なかったから俺の部屋掃除しといてね」
カカシ先生が自分の席に着いた第一声。
あまりにも唐突で理不尽な言葉にただ返す言葉が出なかった。
部屋ってあれよねカカシ先生の準備室のこと言ってんだよね、この前採点付き合わされたあの部屋のことだよね。
本やらプリントやらが溢れかえったチョーク粉臭いあの部屋のことだよね。
「ふざけんなっての、」
呆れた物言いで怒る奈良シカマルの声に我に返り、私も煽るように頷いた。
「だいたいあそこ掃除できませんよ。ちょっともの動かしただけでプリント、本のなだれが私たちを襲います!」
「そんなことなったら俺ら死ぬぞ」
「死にゃーしないよ。だいたい約束だったでしょ」
「え?」
「課題提出しなかったら俺のパシリになるって言ったじゃないの」
「……あ、」
「みょうじ出してないしね」
「そ、それは昨日風邪で休んで」
「ふーんじゃあ今出せるんだな」
「う…」
「ホラ、やってきてないでしょ」
「……そ、れは…」
「言い訳しなーいの」
「だったら私一人で…!」
「確かに奈良はちゃんと持ってきたけどね、”連帯責任”って言ったじゃないの、」
「2人でやれば忘れずにできるでしょ、さすがに。
あ、それ連帯責任だから期限守れなかったらまたキミたち色々俺のパシリになるから、よろしくー」
「………で、でも」
「もちろん一緒にやるっスよ」
「な、奈良くん…!」
「そのつもりでしたんで。」
「ん、そういうこと。じゃよろしく〜」
そう言ってカカシ先生はこれ以上私の言葉を聞く気がないようで、いつものいかがわしい本を開いてシッシと私たちに向かって手を動かした。
「行くぞ」
その言葉に私は慌てて振り返ってスタスタ出口に向かう奈良シカマルの後を追った。
「ご、ごめんね!私…あの…、」
「気にしてねーし、そんな顔すんな」
「ほんとにごめんなさい…」
「謝るなっての。ほんと、怒ってねえし俺」
「でも……」
「〜〜〜…あ。だったらよ、俺の言うこと一つ聞いてくんね?」
思いがけない言葉に私は勢いよく頷いた。これでちょっとでも彼の役に立てることができるかもしれない!
「いいよ!なんでも言って?」
「言ったな、」
「うん、もちろん!なんでもいいよ、私なにすればいい?」
「…とか言いつつ、なーんも浮かばねえわ」
「え!」
「ま、考えとく」
「わかった!」
「約束だからな、忘れんなよ」
「うん!」
笑顔で頷くと、奈良シカマルも何故か嬉しそうな顔で私の頭をポンポン撫でた。
気を使ってあんなこと言ってくれたんだろうなって、バカな私でもわかった。
わかるよ、奈良シカマルのことなら、だってずっと見てきたもん。
わかる。彼は優しいんだ。
彼の笑顔を見た私の心臓はまたドクドクうるさいけれど、それでも彼のこんな笑顔が見れて私はすごく嬉しかった、それが特別じゃないとしても。
忘れなきゃ、わかってる。
わかってるけど、もうちょっとだけ彼を好きでいてもいいだろうか―――…。
キミの優しさ
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