さよなら、バイバイ。
「俺と付き合わねえか」
突然の告白に、私はただ言葉を失った。
「そ、それでなまえちゃんはなんて言ったの…?」
頬を赤らめて、でも興味津々な瞳で見つめてくるヒナタに私は小さくため息をした。
「断ったよ。だって、私彼氏いるし」
「だ、だよね」
「それに、奈良だって彼女いるんだよ」
「ええ!そうなの…?」
「知らないの?山中さんの妹だよ。ほら、今年の学祭ミスグランプリに選ばれた」
「ああ!」
「彼女いるくせになに考えてんだか、」
「なまえちゃんのことが好きなんじゃ…」
「彼女は?好きじゃないっての?」
「…あ!別れたとかはないかな」
「ないない」
「え、」
「聞いたけど、「別れてないでも付き合いたい」って、なにそれ意味わかんない」
「奈良君って…、不思議な人だね」
「不思議を通り越して不気味よ」
「だれが不気味だって?」
「っ!」
「あ…」
不意に後ろから声をかけられて背筋がピンと伸びた。
向かいに立っているヒナタは私の肩越しに見える人物に驚いていて、そんな反応でそこに誰が立っているのかすぐわかった。
「な、奈良…、」
「よっす」
「……なにか用?」
「俺の話してんのに、素通りできるか?」
「……」
なんとも当たり前なことを突いてくる奈良に私は小さく睨んだ。
「わ、悪かったわね。行こう、ヒナタ」
ヒナタの腕を引っ張って足早にその場から離れようとした、けど、ヒナタが微動だにしないので後ろを振り向くと、奈良がヒナタの腕をがっしり掴んでいた。
「あ、あんた!ヒナタに触ってんじゃないわよ!」
「なんだよ。そんな怒ることか?」
私の剣幕に驚いた奈良はパっとヒナタから腕を離した。
「ヒナタはねあんたと違って穢れない純粋な子なの!」
「じゃあお前は触っていいわけ?」
「な!」
「ああ、彼氏いっからケガれてるもんな」
「さ、最低!セクハラ!最低!野蛮!」
「そんな怒るなよ」
「この無神経野郎!もう顔もみたくない!」
「…それは困るんだわ、」
「え、ちょ!」
頭に血が上って叫び散らす私をヒナタは怯えた顔で突っ立っていて、
そんなヒナタの腕を再び掴んで歩き出そうとすると、
今度は私が動けなかった。
奈良に腕を掴まれたから。
「離してよ!」
「今から帰るんだろ?一緒に帰ろうぜ」
「……はあ?」
「つーことで、日向。コイツ借りてくわ」
「え、」
「え!ちょ、!」
有無を言わさずそのまま引っ張っていく奈良に私はただ驚くしかなかった。
「な、奈良!いった…い!」
「あ、悪い。」
案外すんなり腕を離し詫びれたような顔をするので、これまた私は驚かされる。
なに、こいつ…。
学校から随分離れた、三角公園の前で私たちはやっと離れた距離を保つことができた。
「悪かったな、もう帰っていいぞお前」
「………はあ?」
「なんだよ、そのほうがいいんだろ?」
「…あんたほんと不気味」
「不気味って……まあ確かにな」
奈良は深いため息をして、その場にしゃがみ込んだ。
束ねた髪をなぞるように乱暴に触れて、自分の靴の爪先をただ見つめていた。
その瞬間何故か私は孤独感に襲われて、寒気を感じた。
今私がいないかのようなそんな空気に、
「あんた、本当は私のこと、好きじゃないでしょ」
「―――!」
「ホラ」
「……、」
「あんたねえ…、」
「うるせー。いいから俺と付き合えよ」
「はあ?意味わからない。自分のこと好きじゃない男と付き合えっていうの?だいたい私たちお互い恋人いるんだし、付き合うって、」
「お前すでにそうなんだよ、」
「…え?」
「………なんでもねえよ。」
「ちょ、待ちなさいよ。意味わからないどういうこと?」
立ち上がってその場を去ろうとする奈良の肩を慌てて掴んだ。
勢いのままこちらに振り向かせても、奈良は私と目を合わせようとしない。
「奈良。ほんとよくわかんない。なんか理由があんの?」
「…ねえよ。」
「あるでしょ」
「………ねえつってんだろ。じゃあな」
「ちょっと!言いかけたならいいなさいよ。私が関わってるならなおさら!」
すると、奈良はゆっくりと私の目を見た。
先ほどまでの迷った目とは対照的に、覚悟を決めたそんな目で。
ドキドキと急速に心臓が脈打った。
これからこいつが言うことは、きっと、
私には耐えられないことなのだろうと、悟ったからだ。
「泣くなよ」
「な、かないわよ」
「お前の彼氏、浮気しってぞ」
「―――っ」
「俺の彼女と」
「………!」
「…」
「…つまり腹いせいってこと?」
「…え?」
面食らった顔で私を見る奈良に思わず笑ってしまう。
「当たりか、」
「お前…」
「私の彼氏とあんたの彼女ができてるから私たちもあてつけにって?奈良、あんた一応頭いいんだし、もっと他になかったの?」
「うるせーよ」
「まあ恋は盲目っていうもんね、奈良にもそんなとこがあったなんて意外」
「……お前、平気なんだな」
「…………知ってたもん。」
「!」
「まさかあんたの彼女と、とはさすがに知らなかったけど。浮気してたのは、うすうす」
わざとらしく苦笑いをしてみせた。
奈良は、そんな私から視線をはずして頭をかいた。
浮気されてる、男女ふたり、
まさに滑稽だ。
「ごめんね、うちのバカが」
「…、」
「あいつ、浮気性なの。治らないのずーと、ずーと…」
「お前…」
「私もバカじゃないよ。そのたびに言ってる「別れよう」って。でも「ごめん、もうしないから」って謝ってくんの真剣な顔してさ」
「……」
「違うか。結局許して今まで別れなかったんだから、私はバカなんだよね」
「みょうじ、」
「彼女、山中さんだっけ?その子はきっとアイツに騙されてんだよ。許してやってよ彼女」
「………ちげーんだわ」
「え?」
「俺の彼女、最初から俺のこと好きじゃねえからよ」
「…え?」
「ただ俺の告白断れなかっただけなんだわ。」
「……」
「俺と、アイツとアイツの姉、幼馴染でよ。断ったら姉ちゃんにも迷惑かかるからって、気まずくなりたくねえって、」
「そう言われたの…?」
「そう言ってるの、たまたま聞いちまってよ」
「……なにそれ」
「だからアイツ、ほんと…お前の彼氏のこと好きなんだと思うんだ、」
「………奈良…、あんた」
「ちげーんだわ。ちげーの、本当は腹いせいじゃねえんだ。悪い…でも結局お前を騙したことになる」
「………」
「幸せになって欲しかった。だから、お前に別れてもらおうと思った。ソイツと別れてもらおうと……悪ぃ」
「だから自分と付き合えっていったの?私に」
「……マジで、俺バカだな」
「バカだね」
「…だな」
「私もバカ…っ、」
「………、」
私は今更になって、涙があふれてきた。
奈良の純粋に彼女を思っている気持ちが、私のアイツに対する思いとどことなく似ていたから。
今までのアイツとの思い出が走馬灯のように流れ出して、涙が止まらなかった。
すると、次の瞬間腕をギュウと掴まれてそのまま奈良の腕の中に収められた。
驚いて、ぐちゃぐちゃになった顔で見上げようとしたその頭をグイと奈良の胸に押し当てられた。
「見るんじゃねー…っ、よ、」
「……な、ら…っ」
ただ、泣きじゃくった。二人で。抱き合いながら。
失恋した痛みを、分かち合うように、ただ、ただ…。
さよなら、バイバイ。
「もう別れよう。私知ってるから…。今までありがとう。さようなら…、」
「俺から振ってやるよ。じゃあな、幸せになれよ…、」
→あとがき
1万HITアンケートにて、
「奪略愛」「純粋な恋愛」
のシチュ内容を元に書きました!
アンケートご参加誠に有難うございました^^!
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