バラのある花屋




「ごめんね、急に入ってもらっちゃって」

「いいですよ」

いののお母さんは申し訳なさそうに言うので私は笑ってみせて、その後「どうせ暇なんで」と小声で呟いた。



どうせ暇ですよ。こんな日でもなんの予定も入ってないんだもん。小さな(いや、かなりの)虚しさが私を包んだ。


今日は私の誕生日でもある。この歳にもなって誕生日もないが…。よく誕生日になると小さい頃を思い出す。友達を沢山呼んで、プレゼントももらって、いろんな人にお祝いしてもらってケーキ食べて遊んで笑って。

それが歳をとるにつれてなくなって、一人で祝うことが多くなって。誕生日なはずなのに、特別な日でもなくなった。


いや、いいんです。家にいるよりはここに居るほうがいいんです。花屋にバイトしてよかった…。花に囲まれていたら、少しだけ癒されるよ。って私はおばさんか!



一つため息をして私は花たちの手入れを始めた。こんな陰気くさい私がここにいたら、枯らしてしまうかも。なんて考えていると、店の外に人の気配を感じた。

「いらっしゃいませ」

と顔を上げると、「あ」と声が漏れた。



「よ」

「どうしたの?」

「花買いに来たんだよ、」

「だよね。」


そこにはシカマルが立っていてなんか居心地悪そうにお店に入ってきた。
確かにそんな顔もしたくなる、シカマルが花屋って、うける。


「いのは?」

「今日はデートだってさ。だから私が代わりに」

「デートって、あいつサスケ好きじゃなかったか?」

「ボーイフレンドはたくさんいるんだってさ」

「ボーイフレンドねえ」

「ところでシカマル、花、どうする?」

「あ、花なあ………、」

そう言ってシカマルはよそよそしく辺りを見渡していく。


「俺あんまよくわかんねーんだよな、」

「プレゼント用?」

「まあ」

「そうだなあ……」

「できればよ、豪華ででっかくてすげーのがいいんだけど」

「豪華ででっかくてすげーの?」

「おう」

「あ、なにそれ。もしかして女性に?」

「別にいーだろ」

「うそ!シカマルって彼女いたの?」

「彼女じゃねーから」

「彼女じゃない。じゃあ好きなひ、」

「いいからさっさと選べっての」

「はいはい」

私はクスクスとお店を見渡してお花を見繕っていく。


「その人きっと喜ぶよ。私花束とかもらったことないから羨ましいな」

「ふーん」

「あ、結構お金いくけど大丈夫?」

「それは構わねえから」

「オッケー!」

そう言って私は迷わずバラを数本付け加えた。


「バラ?」

いろんな花が束っている中、真っ赤で浮いてしまいそうなバラを手に取ったもんだからシカマルは首を傾げた。


「ああ、コレ?意外といい作戦なんだよ」

「なんだそれ」

「女はバラに弱い!」

「へー」

「これでその人はイチコロだから間違いなし!」

自信満々に言う私にシカマルは「そりゃどうも」と可笑しそうに笑った。



「どう?」

「おお、すげーな。」

「あとはカードに一言メッセージを書けばOK!」

「メッセージ?」

「私は包んでる間に書いといてね」

「まじかよ、メッセージって…」

「いいからいいから!きっと喜んでくれるよ?」


そう言ってカードとペンと渡して、私はお店の奥の机で花束をラッピングした。

ラッピングを終えて、シカマルのところに行くとシカマルは書き終えた二つ折りのカードを私に渡した。
受け取ったカードを花束の間にクイと差し込んでいく。


「ハイっと。できた」

「ありがとな、」


会計も済ませて私たちはお店の外に出た。
花束を渡して、シカマルに店員らしくお辞儀をする。


「ありがとうございました」

「じゃ、店頑張れよ」

「うん。」

「じゃあな、」

シカマルは花束を軽く上げて帰ってった。


お店の中に戻った私は小さくため息。
シカマルからあの花束をもらうその子に少し羨ましくて、なんだか胸が小さくズキズキした。



















「おつかれさま!なまえちゃん今日はありがとうね」

「いいですよ」

「じゃあ気を付けて帰ってね」

「はーい!」


4時間が過ぎて、私はバイト先から出た。外はすっかり夕方色に染まっていて、家に帰っても一人か…。せっかくだからショートケーキでも買って帰ろうかな。

って虚しい。




本日何回目かになるため息をこぼした。誕生日だと思うから悲しくなるんだ。今日は私の誕生日じゃない誕生日じゃないただの日ただの日。

呪文のようにブツブツ言っていると、目の前に誰かが立ちはだかった。



「あ、」

「よう。お疲れ」

「あれ、シカマルどうしたの?」


お店を出た曲がり角でシカマルは人の家のレンガにもたれ掛りながら立っていて、私に気づいて手を上げた。
ビックリしているとシカマルの手にある先ほどの花束が見えて、


「あれ?まだ渡してないの?」

「まあ、」

「あ、もしかして持ち合わせ?」

「待ち合わせっつーか」

「そっか。喜んでくれるといいね!」

そう言って「じゃあ」と告げて歩き出そうとすると、「お、おい」と腕を掴まれた。
驚いて振り返ると、眉間がグッと寄せて渋い顔をしているシカマル。


「だからだな。コレ…、やるよ」

「え?」

「お前の」


シカマルは豪華ででっかくてすげー、その花束をバサリと前に差し出した。

「え、え?」

よくわからなくて、ただ私は言葉に詰まっていて、



「お前今日誕生日だろ、だから、」

「知ってたの?」

「いのから聞いた」

「え、」




「誕生日、おめでとう」

「……―――。」



ぎこちなく笑うシカマルに少し涙ぐんでしまった。それはもちろん嬉しすぎて。


「本当に私に…?」

「だからそう言ってんだろ、」

「で、でも…なんで?」

「そ、れはだな…」


急に私から視線を逸らして黙り込むシカマルに私はふと花に挟まっているカードが目に入った。
そっと手に取ってカードを開いた。



「あ――…、」



そこには、一言。


「好きだ。」


の文字。




「う、嘘…、」

「嘘で言うかよ」

ちらりと見上げるとシカマルはテレ隠しなのか眉間が余計に寄っていて、耳が真っ赤だった。
そんな姿を見て、すごくシカマルが愛おしく感じた。


「嬉しい…」

「マジ?」

「うん」

「それってよ、」

「私も好き」



そう言い終わると同時にバサっと音が聞こえて、次の瞬間私はシカマルの腕の中に居た。
シカマルと後ろに回された手にある花の匂いがなんだかくすぐったくて、幸せがすごく支配した。



「すっげー、緊張した」

「ふふ、」

「は゛あ゛ー」

「そんな緊張したの?」

「当たり前だっての、振られたらどうすんだよ」

「ちょ、シカマルも意外に女々しんだね」

「うるせっての、」

「えへへ」

「よし。行くか」

「え?どこに」

ゆっくりと体を離したシカマルがニカっと笑ったので私は首を傾げた。


「皆待ってんだよ」

「みんな?」

「今からお前の誕生日会すっから、」

「え?」

「いのもいるぜ、」

「あれ?デートは」

「あれ嘘。お前の誕生日会の準備するためのな、」

「え!そうなの?」

「ナルトん家ですっから急ごうぜ、」

「う、うん」

「まあナルトやキバ辺りはもう待ちきれなくて始めてっかもな」

「ありえる!」










バラのある花屋










手を繋いでナルトの家に上がった私たちを見て、
皆からの歓声があがった。













→あとがき

誕生日を迎える全ての方へ



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