16、いのの場合
「はーいお前ら席着けー」
今日も相変わらずやる気なさそうに教壇に立つカカシ先生。
そして私の席に目をやっては「ハイみょうじ黒板消して」って言う。
その時のなまえってまだ私の席で私ときゃっきゃとお話してるから、
いやなまえも毎回パシられてんだから学習すればいいのにカカシ先生の授業前だってこと忘れてんのが運のつき、
結局そうやってパシられてやんの。
そんなおバカなことしてるからカカシ先生に目なんか付けられるんだよねえ、
私はごめん!
カカシ先生、顔はいいけど性格がオヤジくさいもん。
「おい山中」
「ハ、ハイ!」
そんなことを考えている最中にカカシ先生から名前を呼ばれたもんだから、
ものすごく焦って声が裏返ってしまう。
クラスの皆にクスクスと笑われて、たまらず恥ずかしくなって舌をぺろりと笑ってごまかした。
「みょうじは?」
「あ、えっと風邪だそうです」
「ふーん、」
「めずらしいこともあるもんだ、明日は雨か」なんて呟きながらカカシ先生は出席簿にペンを走らせた。たぶん欠席って書いてるんだと思うんだけど…、
でも確かにあの子が休むのって珍しいよねえ。
3年間皆勤じゃなかった?
あーあ、かわいそうに。卒業式に皆勤賞もらえなくなったわね。
「んじゃあ山中、お前が消してくれない?」
「…はあ?何をですか?」
「何って黒板」
「…………。」
なまえのバカー!カカシのアホー!
「はあぁあ。今日はツイてなーい!」
一人ぽつんと教室。
本来日直であったなまえの変わりに私が日誌を書いている。
だいたいなんで日直に限って風邪引くかな!休むかな!
おかげで今日サスケ君に会えなかったし。いつもなら終礼終わった瞬間に教室を出てサスケ君とこにいくのにー!
ほんと、なまえめ。なにしてやろうか。
それに私こういうの嫌い。
なに書いていいかわらかないもん。もちろん『本日の様子』の欄なんてのは「今日も寒かった」てテキトーに書いて担当のイルカ先生に渡しにさっき職員室に行ったけどさ、
「もうちょっと他にあるだろう、書き直してこい」なんて言われちゃうし…。
「うーん、…よし。」
本日の様子
今日はみょうじさんがお休みでした。風邪のようでした。皆勤賞がとれなくなりました。かわいそうですね。でも同情なんてしません。なぜなら私は今日みょうじさんのせいで被害を被っているわけです。カカシ先生にはパシられるはこうやって日直任されるわサスケ君には会えないわ散々です。先生もかわいそうだと思いますよね?私に同情しますよね?なら内申点下さい。山中いの。
「これでよーし!」
ふふんと日直をパタンと閉じて立ち上がった。
「さ!職員室に行って、なまえの見舞いにでもいくかー!」
ふんで文句たらたら言ってやるんだから。
「山中ぁ……、なんだこの日誌は」
職員室に着き、イルカ先生に笑顔で日誌を渡す。
イルカ先生も「お!書けたか!」と爽やかな笑顔で受け取って日誌をぺらぺらめくったけど、私が書いた日誌を読むと表情が一変した。
もうこれはいろいろとお疲れじゃないですか、イルカ先生。顔、怖いですよ。
「なんですかあ?なんか文句あるんですかあ?」
「大有りだ!なんだこれは。内申点下さいってこんな理由であげれるわけないだろう!」
「もううるさいなー。ジョークですよ私なりのじょ、お、く」
「……もういい帰んなさい」
「はーい、失礼しまーす」
イルカ先生は脱力した顔で手をヒラヒラと私に帰るように即した。
私もテキトーに返事をしてそそくさに職員室を出る。
職員室の扉を閉めてふいに顔を上げると向かいの階段から上がってくるカカシ先生と目が合った。
「おお、山中」
「さよならー」
「はいさようなら。…って、あ、」
「…なんですかあ?」
なんか嫌な予感がして顔を苦らせると、カカシ先生は少し困った顔で笑った。
「お前もね、失礼なヤツだね」
「ええ?なんかしました?」
「ん、顔。」
「あ」
人差し指で私の顔をツンツンと指差されて、そこから自分がすごい顔してることに気が付いた。
慌てて愛想笑いをしてみる。
そうするとカカシ先生はさらに苦笑いを浮かべていた。
「お前これからみょうじんとこ行ったりする?」
「まあ一応はそのつもりですけど…、」
「じゃあさ、これ渡してきてよ」
と渡されたのは今日カカシ先生の授業で配っていたプリントだった。
「わかりました。渡しときます」
「んじゃ、よろしくー。」
カカシ先生はそう言うとすぐに職員室へと入っていた。
未だに苦手なカカシ先生。
あんな先生とよく仲良くできるよねなまえは。すごいわ。(あ、仲良くではないか…、)
私はカカシ先生から受け取ったプリントをカバンに仕舞おうとファスナーを開けた。するとカバンの中で乱暴に転がっている携帯が目に入った。
「一応行ってもいいか聞いてからにするか、」
重症だったら邪魔になるだけだしね。
電話帳を開いてなまえのところでボタンを押す。
――プルプル、プルプル、
呼び出し音の間にプリントをファイルに入れてカバンのファスナーを閉めた。
そしてまた再び玄関へと歩みを進める。
――プルプル、
「あっれー?出ないな…。寝てたりして」
一回携帯を切ろうと耳を離したとき「いの…?」と声が聞こえた。
その声は本当にしんどそうで思わず息を飲んだ。
「え、なまえ…?だ、大丈夫…?」
「いの……、どうしよう、私…」
「へ?ど、どうしたのよ!風邪は?風邪はどうなの?」
「風邪もしんどいけどそれ以上に…っ…、うっう、く。」
「え、泣いてんのあんた!?」
「…う、うう」
「なにがあったのよ…?」
「…ひっく、」
「泣いてちゃわかんないわよ、どうしたの?」
「うううう、いのが優しくてこわいいい…っううっく」
「あんたね!」
「もう…、わかんない、よ…」
「……なまえ。今からそっち行くよ。いいね?」
「うん…、ありがとう、ごめんね」
「いいのよ。じゃあ後でね」
「うん…、」
プツンとボタンを押す。
相当重症のようで、
泣くほどのことがあったってことよね…、
それにしても、あの子があそこまでパニクることなんて言ったら―――、
すると、グランドから玄関に入ってくるシカマルが目に見えた。
「そうシカマルだ!」
大声でそう叫ぶと、シカマルがビクっと肩を揺らしてキョロキョロと当たりを見渡した。
私はドスドスとシカマルに近づくと、アイツも私の存在に気づいて後ずさりをした。
「い、いの!?な、なんだよ…」
「あんた、なまえになにしたのよ!」
「はあぁ?なにがだよ、なんのことだよ」
「おっとぼけるな!」
「だーから!なんのことだかさっぱりわかんねーよったく!」
今度はシカマルにぶすっとした顔で睨まれた。
私も負けじと睨み返すとシカマルは首を引いて困ったようにため息をした。
「つーか。何のことだかわかんねえけどよ。アイツなんかあったのか?」
「え…?」
ちょっとびっくりしてきょとん、とシカマルを見た。
あれ、なんか。
「シカマル…となまえは、もう友達のような位置にいるんだ…?」
「はあ?」
「や、だって、なんか…、心配してるから」
「そりゃあ心配すんだろ。アイツ今日風邪だって?休みだろ」
「う、うん。そうだけど…、」
「大丈夫なのか?」
「…………。」
「なんだよ、」
「気になるの?」
「き、気になるっつーか、だから心配ぐらいすんだろってつったじゃねえかさっき、」
「あ、そうだよね。友達だもんね、」
「友達なあ。まあそっか、友達になんのかね、」
「友達じゃない。だって心配してんだからさ、」
「あーそうか。なんつーか友達か。考えたことなかったな。女友達ってあんまいねーから、改めてよ」
そう言ってシカマルはなんだか楽しそうに笑っていた。
なんだろう。こんな顔もすんだ、シカマルって。
なんだろう…、なんかすごく引っかかる。
「友達」でこんな顔するっけ…?
「もしかしてあんたさ…、」
「あ、悪ぃ。」
すると、シカマルがポケットから携帯を取り出した。
ブーブーとバイブ音が聞こえる。
「あ、電話だわ。じゃあな」
「あ、うん」
そう言ってシカマルは玄関から出て行った。
当分シカマルの背中を眺めて、思わず笑みが漏れた。
私はなまえからしかシカマルとのこと聞かされてなかったから、
シカマルから直接なまえとの間柄を実感できて、すごく現実味が増してきて、
それと当時に、いつも見ているだけだったあのシカマルとなまえがこんなに仲良くなっているのかと嬉しくなった。
もしかしたら、
なんて、そんな気持ちでなまえの家に向かったの。
いのの場合
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