13、雨の日の告白




走っている足を止めた。
随分と遊園地の奥まで来てしまったみたいで、出口に出たくても地図はキバが持っていたのでわからない。
とりあえず近くのベンチに座ってため息をついた。



自分の今の姿がやけに滑稽に感じてまた涙がこみ上げてきた。
頑張って頑張って堪えてみるけど、鼻がツーンとして痛くなってくる。
これで泣けば少しは楽になるんだろうけど、この涙はなにか違う気がする。


だって、悪いのは私なんだもん。



勝手に怒って勝手に飛び出して…、今の私ただの自業自得。





わかってる。キバは悪気があったわけじゃないことぐらい…、わかってたのに。
ひどいことした…、

こんなところまで連れてきてくれたのに…、それなのに私は始終不機嫌で。

最悪。





落ち着きたくてギュッと目を瞑って息を吸ってみる。だけどどんどん私の顔は歪んでいく一方だった。







すると、カバンから微かに振動を感じた。カバンを覗くと携帯がピカピカ光っていて、携帯の画面を覗くとディスプレイにキバの名前が表示されていた。

慌ててボタンを押して耳に押し当てる。



「キバ…?」

「あ、やっと繋がった!バカヤロウ!お前今どこにいんだよ!」

あまりの剣幕さに思わず縮まる。

「ごめ…、」

「とにかく今からそっちいくからどこいんだよ」

「わかんない…」

「たく!そこに何が見えるか言え」


慌てて回りを見渡してみる。だけど特徴のあるアトラクションなんてなくてどこかの休憩ポイントなのだろうか自動販売機とベンチしか見当たらなかった。


「わかんないよ…、自動販売機しかない」

「まじかよ…、」

「ごめんなさい…、」


キバの脱力した声に急に寂しさがこみ上げてきた。自分が迷子になったことをそこで自覚した。



「たく、いいからそこ動くなよ!いいな!」

「わ、わかった…」


そう言うとすぐにブツリと電話を切られた。しょんぼりしながら携帯をカバンに仕舞う。


ホント、自分のバカ加減につくづく涙が出る。
私はいつも人に迷惑をかけてばかり…。









――ポツン。

急に頬に冷たいものが当たった。反射的に上を見上げると空は灰色に曇っていてポツポツと雨が振りだしてきていた。




「嘘…、」



呆然としてる間に雨は強くなる一方で、どんどん私を濡らしていく。

どこかで雨宿りしなきゃなんて思考はすぐ消えた。
だってキバが……、

それにこの雨は自分に対しての報いなのかと思うと自然と動く気になれなかった。





















「なまえ!」

「…キバ、」

名前を呼ばれて顔を上げると雨に打たれてずぶ濡れになっているキバが息を切らして立っていた。


「こんなところでなにしてんだよ!ずぶ濡れじゃねえかよ!なんでどっかに入んねえんだよ!」

「だってキバが探してくれてるし…動かないほうがいいと思って……」

「アホか!とにかくどっか入んぞ!」


腕を掴まれて引っ張られる。
走るキバの後ろを引っ張られるまま追っていく。その後ろ姿がなぜか無性に心強かった。





「ふー、」

「……」


少し走ると屋根の着いたベンチがあって、私たちはそこに入った。




「……キバ…あの…、」

「このバカ!」


案の定怒鳴られてビクンと肩が揺れる。


「バカアホボケ!この雨の中あそこに居るアホが居るか!」

「ごめんなさい…、」

「たく、ずぶ濡れじゃねえかよ、風邪でも引いたらどうすんだアホ!」

「キバだって私のせいでずぶ濡れじゃん………、」

「俺はいいんだよ!でもお前は女だろ!体力もねえのに無理しやがって」

「だって…、」

「だいたいなあ!」

「…………、」


眉を吊り上げて怒るキバに思わずシュンとする。
すごく心配をかけてしまった。
だってキバ…、さっき電話かけてくれた時、携帯を見たらディスプレイ画面に着信履歴が表示されてた…、しかもすごい数で。
それは、全部キバからだった。


キバは私が駆け出してからずっと探してくれていたんだ。
雨の中、ずぶ濡れになりながらも…、


それなのに、私…、



「ごめんなさい…、」

「……え、なまえ?」



申し訳なくて、涙が込み上げてきた。必死に唇を噛んで食い止める。


そんな私の姿を見て、キバは慌てて私に手を伸ばした。ガシと肩を掴まれて私の顔を覗いてくる。



「悪ぃ、怒りすぎたよ…な?」

「………」

「泣くのか!?えーと悪かったよ。なまえ…?あーやべえ!」

「う、…く」

堪えきれなかった涙はついに私の目から溢れ出す。ポタポタとアスファルトに滲みが付いていく。


「よしよし!泣き止め俺が悪かったからな?な?あーどうすんだよ、えっと…」

「ごめんな、さ……、」

「あーわかったわかった!もう怒ってねえよ、な?」

「うう…、ひっく」

「まじか!えーと…、あー!俺ハンカチ持ってねえし!って持っててもどうせずぶ濡れで使いもんになんねえよな…、」

「…………ハンカチ…、」

「へ?」

「う"う"……」






「あああ、ねーぞ。あー俺ハンカチ持ってねー!そういや。…、ティッシュもねえし…、えーと、」


「ご、ごめん…、ひ、な、さい……うっく」


「ああ?なに謝ってんだよ、謝らんでいいから頼むから泣き止んでくれよ」



「うっく…、とまらな、…うう、…、い」




「あーもう、」


そう言って奈良シカマルは自分の制服のセーターの手首の裾をグイっと引っ張って、私の顔に押し当てた。






「吸収力わりーけど我慢しろよ」

「ううっく…、」

「あーだから泣き止めって」

「ご、ごめんん…ひっ、く」










こんな時に思い出すなんて……、
こんな時にまで奈良シカマルを思い出すなんて…、

差し水のように涙があふれ出てきた。もうダメ…、止まらない…っ。








「俺が悪かったからな?許してくれよ、な?泣き止んでくれって頼むからさ」

「………ううっ」


「なまえ…」


「な、奈良くんが…っ、」

「…シカマル?」


「奈良くんも…、ハンカチ…、慌ててっ…、」

「………」

「ごめ…、止まんな……っ、うっく」


ずぶ濡れになった服の裾で涙を必死に拭うけど全然拭ってくれない。むしろ私の顔は涙か水かわからないぐらいぐちゃぐちゃになった。



「……奈良、く……っく」


「………っ、」


必死で拭っている手を急に掴まれた。
驚いでびっくりしていると掴まれていた手は引っ張られて、気が付くとキバの腕の中に居た。


「キ、キバ…?」

「………」


名前を呼ぶと、腕の力が強くなった。ギュウと抱きしめられて身動きが取れない。
それよりも、キバの行動に驚いて息が止まった。



「……そんなにシカマルが好きかよ、」

「…え?」

「………」

「…キ、」









「好きだ」



「………え」




「シカマルなんか忘れろ」

「キ、キバ!何言って…、」



「俺じゃ…、ダメか?」





耳元から聞こえるキバの苦しそうな声が耳の奥を支配した。






雨の日の告白







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