11、垂直落下
「暗えし、送ってく」
「へ?」
教室に着いた私たちはカバンを持ってすぐに教室を出た。扉を閉めて歩き出した、直後。
そうその直後に、私にとっては大事発言を当たり前のように言われたもんだから、またバカの一つ覚えみたいにおろおろしてしまった。
すると、奈良シカマルは「あー、」となにか考えるように頭を掻きだした。
「ど、どうしたの?」
「あー…、いや、そーいやキバまだグランドにいるし、キバに送ってもらえ。俺頼んでやるし」
「え、」
おろおろしてたわりに期待を少ししてた単純な私は、その言葉にあからさまにガッカリしてしまった。
そんな態度に奈良シカマルも少し驚いていて、慌てて言葉を繋いでいく。
「えっといや、だから、その…、なんでキバ、かなぁって、」
「あー、いやだってお前………、」
「?」
「…キバと同じ方向だろお前」
「……そうだけど…、」
「頼みずれーなら俺が言ってや、」
「奈良くんがいい!!」
「……………え?」
グランドのほうに足を向け始めた奈良シカマルの服を、思わず掴んで大声を出してしまった。
私の言葉に驚いたのか、大声に驚いたのかわからないけど、奈良シカマルは眉を寄せポカーンと私を見ていて、
なんていうかもう私の額からはすごい汗なんか噴出して、今にもたらーんって流れそうで、
とにかく私は、昨日の教訓を生かせてないみたいで、
昨日とは比べ物にならないくらいの、バカなことをまた口走ってしまった。
「あ、え、あー…だからその…、」
「………悪ぃ」
「え、」
断られた…、とチクリと胸が痛くなった瞬間、
ドッカーンと奈良シカマルが腹をかかえて笑い出して、
「いてー、だめだ。死ぬまじ。」なんて言いながらガハガハと涙溜めながら笑っている。
あ、れ。
奈良シカマルってこんな豪快に笑うんだ…、なんて冷静をかましてる場合ではなく。
とにかくまた私は失態をおかして、また奈良シカマルに笑われていて、なんだかもう恥ずかしい通り越して固まるしかなくて、
でも奈良シカマルまだ「アンタもう面白すぎだっての、あ、いてー死ぬー!」ってまだ腹抱えているし。もう…、
「そんな笑わなくったって…、」
「だから、ハハ、悪いっつっ、たろ」
「…………」
恥ずかしいのを隠すように、ぶすーとした顔で奈良シカマルの顔を見る。
すると奈良シカマルはやっと落ち着いたようで目じりから流れる涙をグイっと拭って「はー、笑った」と深くため息をついた。
「もう、」
「つーかお前が笑かすから」
「私のせいなの!?」
「ったく、恥ずかしいやつ、」
「………」
確かになにも言えません。あんなでかい声で「奈良くんがいい!」なんて。……もう思い出すだけでも火山噴火です。
思い出して赤面していると、奈良シカマルが私の頭をゴツンと小突いた。
「まあ俺でいいんなら、」
「…あ、全然いい!」
「………だから恥ずかしいっての」
ちょっと頬を赤らめ眉間を寄せて渋い顔をしてる奈良シカマルに思わず笑みが漏れた。
「んじゃ帰りますか、」
「う、うん!」
歩き出す奈良シカマルのあとを追っかける。
またからかわれないように、少し奈良シカマルの後ろを歩いて、バレないようにニヤニヤした。
私ってホント単純。
昨日の告白を流されて私のことそんな対象として見てない!なんて落ち込んで1、2時間前までカカシ先生の前でうわんうわん泣いたくせに、
今じゃすっかりこんな緩みっぱなしの顔してる。
だって、だって……、
奈良シカマルがあんないろんな顔するんだもん、
いつもの無愛想な顔とは違う、ぶすうとした顔。
お腹を抱えて、涙流しながら豪快に笑う顔。
少し頬を赤らめて照れかくして眉間を寄せた顔。
………、いろんな奈良シカマルが見れたよ。たくさん、今日。
こんな幸せなことがあるのかな?
アドレスもだし、それに一緒に帰ったり、
こんな幸せなことがあっていいのかな。
どんどん近づいていってて、どんどん奈良シカマルのこと知れて、
どんどん、好きになってる。
いつか、その目に私が映ってくれたらいいなって、願っていたあの頃が……、遠い昔のように感じてしまう。
……………私、彼のことが昔よりもっと――――。
ブーブーブー。
玄関を出たところで急にバイブ音が聞こえた。
その音になんとなく胸が疼いてしまって、
その感情に一人不思議に思っていると、少し前を歩いていた奈良シカマルが足を止めてポケットから携帯を取り出した。
「ちょっと悪い」
そう言って奈良シカマルは携帯を開いてボタンを押していく。どうやらメールが来たようだった。
奈良シカマルがメールを見ている間、なんだか私の胸はドクンドクンと急速に高鳴りだしていて、なんだろうこの嫌な感じは…?と思えばまた余計に胸は高鳴りだした。
するとパチンと携帯を閉じる音が聞こえて、なにかわからないけどすがるように奈良シカマルの顔を見上げれば、
どうやら私の思いは当たってしまったようで、彼は申し訳なさそうな顔をしていた。
「…悪い、ちょっと用事できた」
「……そうなんだ、」
「お前一人で、」
「大丈夫だよ!」
口元を上げて、気を使わせないように笑って見せる。
でも奈良シカマルはまだ眉を寄せて私の顔を見たままなにか言いたそうにしてて、その口が開いた瞬間、向こうから声が聞こえた。
「シカマルー!」
二人して声がしたほうに顔を向ければ、笑顔で近寄ってくるキバ。
「あれ、なまえもいんじゃん」
「キバ、」
「いいところに来たぜキバ」
「え?」
「お前もう帰んなら、こいつ送ってってくんねえか」
「なまえを?」
「もう遅えし」
「そうだな、おう、別に構わねえぜ」
「良かったな」
少し安心したように笑顔を私に見せる奈良シカマルに、小さく笑って頷いた。
「じゃあ、頼んだぜ」
「おう」
「あ、お前課題提出は月曜日だからな、土日にやっとけよ」
「あ、う、うん!そうだったね。うん、頑張るね」
「わかんねーとこあったらメールしろ、電話とかで教えてやるから」
「あ、ありがと、」
「それとお前のアドレスは登録してねえから後で空メール送れよ」
「うん、わかった」
「じゃ、キバも、またな」
「おー、また月曜日な!」
「バイバイ、」
二人して手を振ると、奈良シカマルは口元を上げて笑った後、すぐ走って行ってしまった。
「急ぎの用事でもあんのかね?」
「なんだろうね、」
「ま、とりあえず俺らも帰るか」
「うん」
取り残された私たちもまたゆっくり歩き出す。
奈良シカマルと一緒に帰れなくなった残念さというよりもこの感じ…、なんかすごく嫌な予感がする。
こういう時、女の勘は当たるっていうけれど…、なんだかなあ…、なんかわかんないけど、私のこの胸の疼きが止まってくれない。
「一緒に帰るなんて久しぶりだよなあ、小学生ぶりか?」
「ね、」
「つか結局3年間同じクラスなれなかったな俺たち」
「だね、」
「今じゃクラスも離れて全然話す機会もなくなったしよ、」
「うん」
「なまえ?」
「な、なに?」
「元気ねえな?どうしたよ?」
「……そ、そうかな?」
「なんかあったか?」
「ううん、なんでもないよ」
心配そうに私の顔を覗いてくるキバに、安心させるように笑顔を見せる。
それでもキバはまだ眉を下げていて、なんだか私の勝手な嫌な予感でキバに心配をかけさせていることに嫌気を感じた。
「ごめんね、キバ。大丈夫だよ、ほんとなんでもない!」
ニコリと笑ってみせるとやっと安心したのかキバも笑顔を見せてくれて、私はホっとした。
「あ、そうだ!赤丸は元気?」
「おう、元気だぜ。今度また遊びにこいよ!」
「いくいく!久しぶりに赤丸に会いたい!」
「赤丸も喜ぶぜ、赤丸のやつなまえのこと大好きだったからな!」
「へへへ、そうだったの?」
「え、あ、おう」
「え、なに急に顔真っ赤にしてんの?」
「べべ別に好きなのは赤丸であって俺は別に、」
「はい?」
ひとり顔を赤くしてあたふたしているキバに思わず笑ってしまう。
「変なキバー、」
「うっせ!」
ガハガハ笑ってキバを指さすと、キバは怒って私を追っかけてきた。
「キャー!」なんて言いながら私は逃げるように走って、ふと後ろを振り向くと、
追いかけるキバもいつの間にか笑っていて、なんだかこの感じが懐かしくて思わず嬉しくなる。
昔はよく遊んだなこうやって。赤丸もいれて3人で追っかけっこしたりして、
あの頃の記憶がフラッシュバックして、すごく気持ちが楽になった。
だから、私は無視をした。この、胸の疼きを。
するとキバが急に足を止めて、私を追い越して校門の前に目を向けた。
「あ、シカマルじゃね?」
「え?」
その言葉に、私はゆっくりと振り向く。
「なんか、雰囲気悪くねえか?あれ、」
振り向けば校門の前に奈良シカマルがいて、向かいには金髪の綺麗な女の人が立っていた。
なんだか口論になっているっぽくて、二人の顔がすごく辛そうで険しかった。
すると、その女の人は目の前にいる奈良シカマルを突き放して、背を向けて歩き出そうとしてて、
奈良シカマルは背を向けたその女の人の手首をすぐさまつかんで、グイっと自分の方に引っ張った。
奈良シカマルの腕の中に入った女の人はすごく抵抗していたけど、
その女の人は、
奈良シカマルのキスによって、
すぐ大人しくなった…………。
垂直落下
→あとがき
これで1部と2部に繋がる種は撒けた!
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