10、アドレス、Nのページ
「……ただ、私に告白されるなんてこれっぽっちも思っちゃいないんです………」
「落ち着いたか、」
「………………すんません」
奈良シカマルにとって私は恋愛対象ではないと自覚してしまった今、悔しいのか悲しいのかなんなのかわからない気持ちが爆発してしまって、
そのままカカシ先生の前でうわんうわんと泣いてしまった。
自分でも情けないほど、嗚咽が止まらなくて、とてもぶさいくでかなり汚い泣き方であったと思う。
この通り、私が座らされた机の上には鼻水と涙を吸収したティッシュが散乱しているのだから。
でもカカシ先生と言ったら何も言わず静かに放っておいてくれた。
「ズーー、」
最後のひとかみをし、私はチラリとカカシ先生を見みるとどうやらすでに採点は終わっているようで、
「……すいません、教科書全部開いてなくて…」
「まったくね、なーんのためにキミ連れてきたかわからんねこれじゃあ」
「………う、」
「ま、でも」
「…………」
「ちょっとはスッキリしただろ」
「…………かかちてんて、ありはご……」
「ハイハイいいから、鼻かめ」
カカシ先生は眉を下げながら呆れた顔で私の近くに置いてあったティッシュを指さした。
確かに鼻の中からツーと垂れてくるものがある。
私は慌ててティッシュをつかみ「ズー」と鼻をかんでから改めてカカシ先生を見上げた。
「せんせ、ありがと」
「どういたしまして、」
「……………先生って優しい人だったんですね。」
「んーみょうじってホント、失礼なヤツだね」
ハハハと笑ってカカシ先生は私の頭をポンポン叩いた。
大きな手に思わず、頬が赤くなる。
「ま、頑張れよ。」
「………………先生、」
「ん?」
「お父さんみたい、」
「……………そうか、」
眉を下げて「せめてお兄さんにしてよ」と笑ってるカカシ先生に私はニカリと笑った。
「じゃ、先生、さよならー」
教室のドアを閉める前に先生に一言告げる。教室の奥にいる先生は「はい、気を付けて帰るんだよ」と手を振ったのを、ニコリと笑い返して扉を閉めた。
廊下を歩いて、窓の外を見上げる。
気が付けば、外はまだ紅色ではあるけれど黒色が混ざった空をしていて、
思わず慌てて、自分の教室へカバンを取り行こうと足を速く進める。
しかし向かいの曲がり角から現れた人物に、驚いて足を止めてしまった。
「てめ………!」
「なななななな奈良く、………!?」
驚いて見つめていると、奈良シカマルはすんごい怖い顔をしてドスドスと私に近づいてきた。思わず後ろに後ずさりしてしまう。
「お前なあ……!」
眉間をグググと寄せて私を睨む奈良シカマルに思わずギュっと目を閉じて縮こまる。
なにが一体どうして怒っているのか、瞬時に脳みそが回転を始める。
ま、まさか、昨日私が怒ったことにたいして怒っているのか……!?
で、でも!私は悪くない!
悪くないが、奈良シカマル、今かなり怖い!!
なにかとんでもなく怒られる!と怯えてれば、数秒間沈黙が続いた。
「………?」
あれ、と思いそーと目を開けてみると、眉間は寄せてるもののもう怖い顔はしてなくて、少しホっとしているようにも見えた。
「な、奈良く…?」
「お前どこいたんだよ、」
「え?」
「教室行ったらお前いねえし、帰ったのかと思ったらカバンはあるし、とりあえず待ってみても全然こねえしで!」
「あ、」
そこで初めて、奈良シカマルが私に怒っている理由がわかった。
さすがのちんちくりんな私でもわかる、彼の顔を見たら…、
「探してくれたの…?私を…?」
「………ふつー心配すんだろ」
「……ごめんなさい」
「ったくよ、」
盛大にため息をして奈良シカマルは渋い顔で私を見る。
「で?俺が納得する理由があんだろうなおい」
「あ、え……、っと」
ぶすうとしている奈良シカマルに少し慌てる。
でも、見たことない奈良シカマルの顔を見て少し胸が高鳴ってしまった私はやっぱりアホで。
でも、なんか嬉しくて、
「カ、カカシ先生に…、作業手伝わされてて……、」
まあ結局うわんうわん泣いて手伝いという手伝いはしてないけれども…、
ちらりと奈良シカマルの顔を覗くとまたいつもの呆れた顔をされた。
もうちょっとあの顔を見てみたかったのに…、なんて思わずしょぼくれる。
「まぁたカカシか?…………ま…、しゃーねーか。カカシは断れねえわな」
「う、ん…、ご、ごめんね?」
「まあ別にいいけどよ」
「………ごめんなさい、」
またちらりと奈良シカマルの顔を盗み見れば、やっぱり怒ってるというよりは本当に私のことを心配してくれていたようで、
私の胸はチクリ、チクリと痛くなる。
遠くから見ていた時には見れなかった奈良シカマルをたくさん見れて感じれて、どんどん惹かれていってしまう。
こんなに私は大好きで、
でも彼は私のこと全然好きとかじゃないのに、
なのに、私のことを心配してくれて探しにきてくれる。
本当どうしよう…、めちゃくちゃ嬉しい。
好きじゃないってわかってるのに、期待してしまう。
もう、どうしよう………。
「なあ」
「あ、な、なに?」
ふいに声かけられて慌てて奈良シカマルを見ると、
高鳴りっぱなしの胸のせいで、余計にドキリと頬が赤くなってしまう。
慌てて俯いて返事をした。
「ちょい携帯貸せ」
「え!」
予想外の言葉に俯いた顔はまた奈良シカマルを見上げる。
意味がわからなくて思わず首を傾げてしまう、けど奈良シカマルはみるみる眉間を寄せていくので、私は慌てて携帯を渡した。
「ど、どうぞ!」
「ちょいイジんぞ」
「え!」
驚いたところで時はすでに遅しのようで、奈良シカマルは私の携帯を開いてパチパチボタンを押していく。
その姿をただ驚いて眺めていると、あっという間に携帯を返された。
目をパチパチさせて携帯を受け取ると、奈良シカマルはパチンと自分の携帯を閉じてポケットにしまった。
「俺のアドレス登録しといたからよ」
「へ、」
「今度なんかあるときはメールしろよ」
「え、え?え?」
もうなにがなんだか着いていけなくてとりあえず「え?え?」とおどおどしていると、奈良シカマルは私の頭を軽く小突く。
「慌てすぎ」
「だ、だって…、」
「んだよ、イヤだったかよ。そりゃー悪か、」
「イヤじゃないよ!!」
奈良シカマルの言葉に思わず力んで叫んでしまった。「あ」と手で口を煽って目を閉じる。もう恥ずかしい…、
顔が熱くなっていくのがわかる。
思わず泣きそうになっていると、上から「ぷ」と笑い声が降りてくる。
「ハハハ、お前ほんと変なヤツだな」
「……………」
ぷしゅーと落ち込んでしまう。なにも言えません、本当に。空いた穴があるなら入りたいです。
まだ隣では一人「ハハハ」と眉を上げて笑ってる奈良シカマルに思わずむくれてしまう。
けどふいに、手のひらで握っている自分の携帯を眺めてみた。
奈良シカマルのアドレスが私のアドレス帳に登録されている………、
そう思うだけで私の心臓はすごくドキドキうるさくて、
ただ見てるだけだったのに、
ただ見てるしかなかったのに、
私の存在なんて知られないまま卒業して、この恋は終わりをつげるんだと思っていたのに、
今、目の前には奈良シカマルがいて、
眉を上げて笑っていて、
私を探してに回ってくれたり、
心配してくれたり………、
ああもうなんかもう―――、
「なにニヤニヤしてんだよ、」
「え、」
気が付けば眉を上げ笑っていた奈良シカマルの顔はどこへやら、眉を寄せ怪訝そうに私を見ている。
どうやら私はまたやってしまったらしい、
「……ニヤニヤしてました?」
「ああしてたぜ、こんな顔な」
そう言ってわざとらしく「ニヤニヤ顔」をする奈良シカマルに顔がむくれてしまう。
「ハハ、じょーだん!ま、ニヤニヤはしてたけどな、」
「う、」
「……まあ機嫌は直ったみてーだな、」
「え?」
「なんでもねえ。行くぞ」
奈良シカマルは私のおでこをピンと跳ねて、廊下を歩き出した。おでこをさすり、すぐさま奈良シカマルのあとを追っかける。
「ど、どこ行くの?」
「どこ行くのって…、お前なあ、いつまでも廊下で突っ立ってるわけにもいかねーだろ、カバンだよカ、バ、ン」
「あ、」
「俺とお前のカバン取りに教室戻んねーと、帰れねえだろ」
「だ、だよね」
確かに先ほどまでの紅空とは違いもうすっかり夜空に近づいていて、グランドに建ってある蛍光灯がたくさん点いていたのが見えた。
私たちはそのまま足早に教室へと向かった。
アドレス、Nのページ
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