「束縛」で繋いだキス




なんとなくただ、家に入りづらい。さっきから数時間前の光景が頭から離れない。






「お酒好きなんですか?私もですよ!」

「へー、そうなんだ」

「じゃあ今度一緒に飲みに行きましょうよ」

「言っとくけど、俺本当にお酒うるさいよ?」






ふん。なにが「お酒うるさいよ?」だ!めちゃくちゃ弱いくせして!




………いやいや、わかってる。深い意味がないことぐらい。でもヤツのことだから二人で行きかねない。






たまに思うときがある…彼女の役割ってなんだろう、と。

確かに、彼女がいるからと女の子と食事に行っちゃダメなんてそんな法律はない。お互い趣味が合うんだから意気投合するのは当たり前だし。




だけどなにか面白くない。これを俗に”嫉妬”と言うヤツなのか。







前からそうよね。カカシは私と付き合ったからって特別変わったわけでもない。今までと変わらない生活をしてたもの。

オフの日は私との時間に使うわけでもない、自分の好きなように過ごしていた。




いやいや、いいんだけど。それはいいんだけど。
「今何してんの?今どこに居んの?誰といんの?」なんて干渉されたいわけじゃない。




ただ、ただ。




これじゃ、私…彼女の意味がない。

付き合ってる意味がないって思う。


友達だったときの方が、もっと楽しかったような気もする。






同棲はしているものの、気持ちはもう充分すれ違っている、のかな。











「やめよ…」




考えるだけ無駄かな。そういえばこういうこと前にも何回かあった。それでも今まで付き合ってきたんだもん。今はただの倦怠期…。







チラっと腕時計を見ると、もう深夜の2時を回っていた。
玄関の前で立ち尽くしてかれこれそんなに経っていたのか。

多少びっくりして、カカシは寝ているだろうと静かに鍵を回した。







扉を開けると案の定、家は真っ暗で、静けさが私の耳の奥をピーンとさせた。



ゆっくりと奥に進み、寝室の扉を開ける。
廊下の電気の光が寝室を小さく照らして、ベッドにはカカシが私のスペースを空けて眠りについていた。






起こさないようにゆっくりとベッドに腰かけて、カカシの顔をじっくり眺めてひとつため息。




私はこんなしょうもないことでモヤモヤしてるっていうのに、コイツはのん気に寝てんのね。

私がいつも取りこし苦労をするの。ホント、ムカツク……、






「カカシ…」



薄く口を開いて呟く。

当然カカシは起きる素振りもなく深く眠り続けていて、私はそっとカカシの頬をなぞった。





たくさんの愚痴ばかりが溢れてしまうけど、私はまだカカシの傍にいる。
それはつまり、なんだかんだ私がカカシと別れたくないだけで、その気持ちだけがかろうじてこの関係を結びつけているような気もする。




カカシの気持ちなんてのはわからないけれど、



手放したくない。ただ、それだけ。



いつもどこからかそんな独占欲が芽生えてくる。









頬をなぞっていた指先が無意識にカカシの唇に移動する。
気持ちよさそうに寝ているカカシが無償に憎らしくなった。どうして彼は私だけを見てくれないんだろう。






私は指先を離して、小さな怒りをぶつけるようにカカシの唇を自分の唇で塞いだ。











「束縛」で繋いだキス











「…ん……なまえ…?」

「ごめん。起きた?」

「…どうしたのよ、寝込み襲うなんて」

「ムカついたから」

「……は?」














→あとがき

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