これでおしまい
「よ!」
「おー。おせーぞ」
私たちは友達だった。ずっと大事な友達だった。隣に居るのが当たり前で。一緒に居てすごく楽で。
「あんたねー。自分から呼び出しといてなにその態度」
「いいからいいから、ほれ早く座れって」
「もう」
恋人とかそんな薄い枠には収まりきれない。私たちは家族以上の絆があると思っていた。
「アハハ。なにそれ。本当?」
「ああ、マジだぜ。だってよあの時、」
「ばかじゃないのー!」
だけど――…。
そんな絆なんて、薄っぺらで、脆くて、壊れやすい。それに気づいてしまった。
――私は彼の事が好きだったから。心の底から。だけどそんな気持ち気づかない振りをしていた。満足だったからだ。この関係に。それ以上を私は望んでいなかった。
あの時までは――。
「え」
ただなんとなくアスマ先生と喋っていた。他愛のない会話に笑い声が飛び交いながら。だけどその他愛のない類の流れで聞かされたアスマ先生の言葉に私はフリーズした。
「あれ?聞いてねーの?」
「聞いてないですね、」
「あー、でもアイツ彼女できたの最近だからタイミングなかったのかもな。近々聞かされるかもよ」
「そ、そうなんですか。うわー。なんかのろけ聞かされそうで嫌!」
笑った。必死で。
私の言葉にアスマ先生も笑った。他愛のない会話には笑い声が飛び交う。この流れを必死で守った。
だけどちゃんと笑えているだろうか。笑顔が引きつってはいないだろうか。そんな不安だけが残った。ちゃんと彼の友達でいられているだろうか。
彼女。そうだ。彼にいてもおかしくない、できないほうがおかしい。そんなのわかっていたこと。私はこのままでいいと諦めた女。どうこう言う資格ない。
けど、どうしてこんなに…。心がギシギシと痛むんだろう。手のひらで握り潰されているように苦しいんだろう。ジワジワと涙が…溢れでてくる。私は、彼の友達…。
「友達…な、んだから…」
だから嫌なんだ恋愛なんて。こんな邪魔な感情…今すぐ捨ててしまいたい。
けど、好きで好きで好きすぎて…。どうすることもできない。私の一方的な感情なんて彼の前ではなんの意味を持たないのに。
「悪ぃな。急に呼び出したりして」
「なによ。あんたが呼び出すなんていつものことじゃん」
そう笑って、喫茶店の席に着いた。確かに昼に会うのは珍しい。いつも夜の居酒屋がだったりなんだけど、
それに…聞かされてることもわかっている。それにどう対応するかも私はシュミレーション済みだ。
「実はなまえに報告したいことがあんだけどよ、」
「え、なになに?」
シカマルは少しテレたように頬をかいていて、私もその気持ちを煽るように笑顔で聞き返した。大丈夫。自然にできている。
「俺、彼女できたんだわ」
一瞬だけではあるけれど胸がズキっとした。構えていたお陰でそれだけですんだけど、もう心は悲鳴をあげそうで……、
それでも私は必死に笑顔で驚いてみせる。
「え、まじで!すごいじゃん!」
「すごくねーよ、」
シカマルはまだテレたように笑っている。
そんな顔を、私はちゃんと見れているのだろうか…、
それにやっぱりキツイよこれ…………。
シミレーション通り笑えているはず、けど、実際目の前で彼がこんな顔をしていると…。気が緩むと絶対泣いてしまいそうだ。
「自分で言うのもあれだけどよ、すごくいい子でさ」
「そうなんだ」
「今度なまえにも会わせてやるよ」
「そうだね」
「なんか恥ずかしいけどな」
そう言ってまた照れて笑う。あ、だめかも。これ以上ここに居たら私………。
そう簡単にはいかないのかな。この状況を想像した私はちゃんと笑えていたのに。今の私は?ちゃんと笑えているの?
もうわからない。今私はどんな顔をしているのかすらわからなくなっていた。
横を向くとお店の窓ガラスに反射してる自分の顔と目があった。なんてひどい顔…。私の笑顔ってこんなイケてなかったっけ?
「つか、お前も早く彼氏作れよ」
「…バカ。あんたに言われなくてもわかってるわよ」
「ハハ。あ、でも俺お前の彼氏は絶対いいヤツじゃないとダメだぜ」
「なにそれ」
「やっぱお前、いいヤツだから」
ふと、思った。彼はどうして私のことを好きにはならなかったのだろう。
私は自然的に近くにいる彼を好きになったのに…。彼は私を好きにならなかった。
それはきっと、彼の中で私は"親友"のなにものでもなかったから。
そして私が…”いいヤツ”だったからだ。私だけ好きだった。ここ何年もずっと。
けどどこかで諦めていたのも私。この関係で良いと満足したのも…。
そんな私を…彼が好きになるわけない。
「俺、お前好きだしな」
「――………!」
その言葉に私は彼を見つめた。
彼は彼女のことを話す時に照れていたような顔ではない照れ方をしていた。
私はここまで残酷な”好き”はないと知った。一番聞きたかった言葉…。でも意味が違えば、一番聞きたくない言葉に変わる。あ、もうだめかもしんない。涙が…。
「ちょ、どうした!なんで泣いて…」
シカマルは慌てて向かいのテーブルから身を乗り出して私の顔を覗き込んできた。
私はそんな彼の襟元にそうと手を伸ばし、キュと掴んだ。
「なまえ?」
「…ムカツク」
「え」
グイっと自分の方に引っ張って、自分の唇を彼の唇に押し当てた。彼は目を見開いていて、
ゆっくりと彼の襟元から手を離すと、彼は驚いたようにポスっと椅子に倒れこんだ。なにが起きたのか、状況がわかないような顔で私を見ていた。
「私はあんたなんか嫌いだよ」
これでおしまい
→あとがき
たまには切なく。
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