6、泣かせているのは、




「…………」


「……………お前なあ」


「……うう、ごめん」




「お前高校行けんのか」

「………いちおう」


「ジュケンベンキョウとかしてねーだろ、」

「う、」


「つかその前に、授業聞いてねえな」


「…………」


おっしゃる通りです。
















ただ今、奈良シカマルからお勉強を教わっています。
まだまだ残っている課題プリントを、順を追ってご丁寧に説明までして教えてくれているんです。




いるんですが…、いるんですがね……、






奈良シカマルの言っている意味が、




まったく理解できないのです、よ。
















「はあ」


さっきから幾つ目だろうか、奈良シカマルからの呆れため息。

もうお手上げ、お前まじバカ。そう言われてるようで本気でへこむ。



人ってのは、好きな人にはカッコ悪いところを見られたくないって相場が決まっているはずだ。
あ、今。「なにをいまさら」って声が聞こえたけど、……まあそうなんだけど。









「センコーの話聞かねーとまずいだろ。さすがに今の時期」

「……奈良くんは聞いてるの…?」


「俺は……、まあ寝てるけど」

「ホ、」


ホラ!って言おうとするとすかさず頭をチョップされる。





「俺はいいんだよ、授業聞かなくてもわかんだから」

「………いいなあ」



「あのなあ、人羨ましがってる場合じゃねえだろ」

「うん…」




「ったく。オラ、次」



シャーペンでトントンとされた問題に目を向ける。




もともと数学なんか大嫌いな私だ。
嫌いなもんは嫌い。
カカシ先生なんてもっと嫌いだから授業が耳に入るわけないし。
授業中って言えば寝ちゃうかいのとメールし合ってるかだし…、



まあだからカカシ先生も私に目を付けてんだけどさ………。








でもさすがの私でも、奈良シカマルにこんな呆れため息を連続でされるとへこんでしまう。

と言うか、せっかくわざわざ教えてもらってるのに理解できない私がもう、なんか、本当に情けないような、申し訳ないような…、




ああ、これはもう確実に嫌われる……、











「で、ここに代入してだな、」

「…………」


「ってわかんねーか」

「…すいません」





さすがに飲み込みが早いようです。

私になにを教えても理解できないということに気づいたようで、またため息をされる。


そう何回もため息をされると…、ため息が移っちゃう。たまらずため息をすると、案の定小突かれた。





「なにお前がため息してんだよ」

「す、すいませ」

「俺だっつーの、ため息つきたいのは」

「おっしゃる通りです…、」




何も言えなくて俯く。もうこれはへこむしかない。
肩が触れ合いそうなこんな至近距離で自分のバカさを披露してしまうとは。
しかもまさか奈良シカマルに。



バカでいいと、勉強を怠った過去の自分を今、恥じるべきだ。
もしタイムスリップできるなら、真っ先に言ってやる。「勉強しなくてもいいから理解力はあげろ!」とね!










「ったく」


奈良シカマルは持っていたシャーペンをコトっと置いて、机に手をついて立ち上がった。
何事かと、見上げれば。何も言わずに教室を出て行ってしまう。



閉められたドアを呆然と見つめていると、自然と涙がこみ上げてきた。









もうこれは見捨てられた、呆れられた。本気で。
だって何回もため息されたもんね、そりゃあ、もうめんどくせーって思うよね。
こんなめんどくせーバカ女に勉強教えてもラチあかねー、あーめんどくせーって思ったんだ。
きっと怒ったんだ。私の顔も見たくないんだ。だから出て行ったんだ。きっとそうだ。そうに決まってる。


黙って出て行くぐらいだ、相当嫌われた…、私、嫌われた。







「う、う………、ひっ…く」





涙が止まらない。もうやだ。
奈良シカマルだけではない、自分も、自分に呆れている。呆れて涙が止まらないのだ。


自分のバカさ加減に、

ちんちくりんなこの脳みそに。




もうだめ。


ああ、私の恋はもう、おしま………―――、










―――ガラガラガラ。








「おま、!なに泣いてんだよ!」








突然教室のドアが開いた。涙で前が見えないけど声でわかる。でも、なんで…、






「うっく…、な、なんで……?」

「こ、こっちのセリフだっての、つーか、おい、何があったんだよ」




慌てて私に駆け寄る奈良シカマルに、私は何故だか余計に涙が止まらなくなった。




「帰ったんじゃ、ひっ…、な、なかったの…?」

「はあ?カバン置いて帰るか?ふつう」

「あ、ううっく、そ、そっか…、ひっ、く」


「おいおいおい泣きやめよ。ええ?、おい、」




慌てた様子でおろおろしてる奈良シカマル。ああ私また困らせてる。



「ううう〜〜〜!」


「お、おいって、あー、まじどうすんだこういうとき、ええーと、」



そう言って奈良シカマルは自分のズボンのポケットをパンパン叩いた。
次にポケットに手を突っ込んでいる。
奈良シカマルの顔をみればますます慌てていた。


どうやらなにかを探しているようで、




「あああ、ねーぞ。あー俺ハンカチ持ってねー!そういや。…、ティッシュもねえし…、えーと、」


「ご、ごめん…、ひ、な、さい……うっく」


「ああ?なに謝ってんだよ、謝らんでいいから頼むから泣き止んでくれよ」



「うっく…、とまらな、…うう、…、い」




「あーもう、」


そう言って奈良シカマルは自分の制服のセーターの手首の裾をグイっと引っ張って、私の顔に押し当てた。






「吸収力わりーけど我慢しろよ」

「ううっく…、」

「あーだから泣き止めって」

「ご、ごめんん…ひっ、く」




確かにゴワゴワしたセーターが肌をこすり少しヒリヒリするが、どんどんと拭かれる私の涙。

視界も徐々に広がってきて、奈良シカマルの手の裾から見える彼の顔はすっごく困ってて、見たことない顔で、



ああ、私ってば本当に…、
呆らせた次は困らせて…。もう…、何をやってもダメ。奈良シカマルにこんな顔しかさせれない……、












「泣き止んだか」


聞こえた声はすごく優しくて、思わずまた鼻の奥がツーンとする。
これ以上は泣けまいと必死で抑えて、私は黙ってコクリと頷いて見せた。




それが安心したようで、ドサっと椅子に座った奈良シカマル。

ちらっと顔を見れば、額から汗が流れていて、そこまで慌てさせてしまったのかと、またしょぼくれた。






「あー焦った」

「…ごめん……」


「つーかなにがあったんだよ」










「………な、奈良くんが………、私のバカさ加減に怒って帰っちゃったかとおも、って…」



「はあ?」

「…………」



目を伏せて眉を下げた。奈良シカマルの声は少し間抜けていて、





「まあ確かにお前のバカさにはお手上げだけどな」

「……!」


やっぱり…と、目に涙を溜めれば、「あー!」と言ってまた乱暴にセーターの手の裾を押し当てられる。



「ちげーっての。別に怒ってねーし、まあ呆れてるのは確かだけど、あ、泣くな!だ、だからだな、」


「………」



「俺が言いてーのは、お前が思ってるほどなんとも思ってねーってこと」

「ほ、ほんと…?」

「ああ、ほんと。怒ってねえし、理解できてなくても教えんのやめよーとかも思ってねーし、」


「…………」


「それに、俺が教室出てったのは…、コレ」


そう言って奈良シカマルが指をさしたのは、いつの間にか机に置かれていた2本のジュースだった。




「これ買いにいってたんだよ」

「そ、そうなの……?」

「そうなの。ったく」




なんだか自分の大きな誤解だったことに気づき、私はみるみるうちに全身が赤くなっていく。
恥ずかしくて顔があげれない…!



かあ、と顔を赤くしていると、上から「はあ」とため息が聞こえた。





「お前忙しいヤツだな。泣いたり恥ずかしがったり」


「………」





「ま、別に見てて飽きねーけど」



「え、」


「でも、泣かれるのは勘弁だな」

「あ、ご、ごめん…」




慌てて謝れば、軽くチョップされた。

チョップされた場所をさすりながらチラっと奈良シカマルを見れば少し笑っていて、
その顔に思わずドキっと胸が高鳴って、また顔が赤くなった。



当分、顔上げれない…恥ずかしすぎて。
俯いて行き場のない視線をうろうろしていると、机に置かれたジュースが目に入った。





2本…、

これって私の分も買いに行ってくれたってことだよね………。






「あ、あの…」

「あ?」


「その…、ありがとう…」

「なにが?」


「ジュース」


「誰がお前のって言ったんだよ。全部俺の」


「え!」


と慌てて顔を上げれば、眉を上げて笑ってる奈良シカマルの顔。
こういう顔をするときって、いつも私を面白がってる時で、たまによく私に見せてくれる顔で…、



「………」


たまらず奈良シカマルから視線を逸らし俯けば、1本のジュースを私の頭に乗っけてきた。




「じょーだん。お前の」


「……………」



チラっと見上げると、まだ眉を上げている奈良シカマル。
なんだかすごく楽しそうで、思わずちょっとむくれる。




「急に私で遊ぶのやめてください……、」

「だったら急に泣くのやめろっての」

「う、」

「……しかもどーでもいいことで」


「どうでもって……!」


「な、なんだよ怒るなよな」



「……ほんとに、嫌われたと思って……」



ちょっとぶすっとすると、奈良シカマルは軽く私を小突いてため息をした。










「ばーか、嫌うかよ」



「………え、」





「お前おもしれーから」


「…………、なんですかそれ」






「可愛いってことだろ」


「………!」





舞い上がっては、すこし冷静になる。


ってか、それって……、






「お前…、そんなにカカシに目つけられてんだな」

「目つけられてる…まあそうだね、パシリみたいなもん」



「まあ、わからんでもねーけど」


「え、」


「なんつーの、いじめたくなる顔?」

「いじめ……!」



「可愛いってことだろ」









「いじめたくなる顔ってことじゃん…、」

「あーだな、」

「……………」




返ってきた言葉に私は心の中で膝と手をついて、うなだれた。
ちょっとでも舞い上がってしまった私は…本当にちんちくりんな頭しか持ち合わせていないようだ。


まあ確かにこの前「可愛い」って言われて、舞い上がりましたけどさ。













「まだ怒ってんのか」

「別に…、」


「お前ほんっとに忙しいヤツだな。泣いて恥ずかしがって、今度は怒って」







誰のせいで…、と思ったけどやめた。
だって、あまりにも面白そうに笑ってるから。


眉を上げて口元上げて、笑ってるから。







私に初めて笑いかけてくれた時の顔と同じ顔をしているから、



思わず口が動いていた。




















「………好き」






驚いているあなたのを顔を、今でも忘れられない。















泣かせているのは、






[←戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -