5、教室内家庭教師




いいヤツ…、いいヤツ…、



昨日言われた奈良シカマルの言葉を頭の中でリピート。
思い出してみては、顔が緩みっぱなしになってしまう。



恋愛において、「幸せを感じる」ってこういうことを言うのだろうか…。



まさか、奈良シカマルからそんな言葉を掛けられるとは思わなくて…、




嫌われてないってわかって…、こんなにも嬉しくなるなんて思わなかった。
























「あれ?みょうじじゃないの」

「ゲ、カカシ先生」



「だからお前ね、ゲって言うのやめなさいよ」



「……おはようございます」

「はい、おはよう」




今日も朝早く学校へ登校してきていた私は、下駄箱でバッタリ憎きカカシ先生と出くわした。
カカシ先生も今来たところみたいでカバンを背負っている。






でも、カカシ先生のおかげで、今奈良シカマルと友人関係はまだしも、知り合いのいいヤツポジションになれたわけだし…。


憎きカカシ先生って言うのは、もうやめようかな…。
あと、ゲっていうのも。









「進んでる?課題は」

「………ぼちぼち」

「あ、嘘デショ。それ」


「………先生もわざとでしょ。あんな難しい問題出して」


「なに言ってんの?難しくないでしょ、みょうじがアホなんでしょ」


「あー!先生が生徒にアホって言っていいんですかー!」



「んー。良くないねえ」


「………、思ってないじゃん」



「思ってるよ。それにしてもみょうじ、なんでこんな早く来てんの?」

「先生こそ、こんなに早く来てるの珍しい」



「あー俺ね、今日当番だから」


「先生にも当番ってあるんだ」



「あるよ。めんどくさいでしょ?」

「……先生、やる気出してくださいよ」



「あ、みょうじ。グランドの花壇に水やってきて」

「どこから出たその話題は!ってか、はい?」


「俺さ、まだどっかのクラスの小テストの採点してないのよ。昨日寝ちゃって」


「私が知るか!」


「まあまあいいじゃない。じゃ、よろしくー」




先生はシュタ!と手を上げてそそくさにその場から立ち去った。
下駄箱に取り残された私は、消えたカカシ先生の後殻に向かって両手を突き上げた。





やっぱりいつかやっちまうからなー!!



























とかなんとか言いつつ素直にカカシ先生の言う通りにしている私は本当にえらいと思う。


………いや、しなかったらしなかったでヤツは私に容赦ないからね…、二次災害を防ぐためなんだけど。


まあ結局、次から次へとこうしてパシリさせられてるわけだから、二次災害なんて意味ないんだけどさ、





私は蛇口にホースを差し込んで、ゆっくりと蛇口を捻り水を出す。



ホースの先を摘まんで、グランドの端にある大量の花壇に水をやっていく。











「よ、」

「うわ!」



すると急に後ろから声を掛けられた。
ビックリしながら振り向くと、私の声に逆に驚いた奈良シカマルが立っていて、




「ななななな奈良くん、お、おは、よ」

「おう、悪い。驚かせたか?」

「あ、うううううん!全然だよ、全然!」


慌てて首をぶんぶん横に振ると、「焦りすぎ」って笑う奈良シカマル。





奈良シカマルから話しかけられたことに舞い上がればいいのか、それとも笑顔を向けてくれていることに舞い上がればいいのか、

とにかく、要は幸せすぎて顔がニヤけそうってことなんだけど。







「つかお前、今日はいねーなって思ったら、水やりかよ」

「え、」


「……!、あ、ちが。別にたまたまお前の教室見てだな…、」



みるみる間に眉間に皺を寄せて、私から視線を逸らす奈良シカマル。



あ、またテレてるのだろうか…、これ。




え、どうしよう。なんか可愛いんだけどこの人。






「…………」

「…………あー、なんだ。お前委員入ってないつったよな?」


「あ、うん、」

「なんで水やり?」
「あ、カカシ先生に」

「お前…、そんなにカカシに目つけられてんだな」

「目つけられてる…まあそうだね、パシリみたいなもん」



「まあ、わからんでもねーけど」


「え、」


「なんつーの、いじめたくなる顔?」

「いじめ……!」



「可愛いってことだろ」


「……………」



かかかかかかかか可愛い…………?、




「………ああ?お前顔赤いけど、」


「…え、ああ、と」

「大丈夫か?」



怪訝そうに私を見つめ近寄ってくる奈良シカマルに、思わず後ずさりをした。




「………」



その行動が気に食わなかったのか、少しぶすっとした顔を浮かべる奈良シカマルに、余計に慌ててしまう。




「あ、えーと、……あ!」



なにか言わなきゃ、と焦っていると、
奈良シカマルの後ろの光景に私は思わず声を漏らした。


私の言葉に、余計に眉間を寄せる奈良シカマルだったけど、そんな顔をしてる場合ではないよ、奈良シカマル!


う、うしろ…!






「なんだよ?…、ってうわ!」

「なにしてんだってばよー!シカマルー!」



忍び足でやってきたナルト君が後ろから奈良シカマルの背中にガバッと飛び乗った。

ナルトくんの体重で、上半身をかがめた奈良シカマルだけど、すぐに首に巻きついてきたナルト君の腕を叩いた。




「おめーぞ、ナルト!降りろっての!」



ナルト君はすぐさま両手を離して奈良シカマルの背中から降りた。

無邪気に笑うナルト君に奈良シカマルは呆れたように「ったく」とため息を吐いた。








「誰だってばよ、こいつ?」


私を見たナルト君は首を傾げる。するとまた後ろの方から声が聞こえた。




「みょうじなまえ、俺の幼馴染」

「キバ…!」

「よ、」



「キバの幼馴染ぃ?オレオレ!うずまきナルトってんだ!よろしく」

「あ、よろしくね」



「でも、なんでキバの幼馴染がシカマルと仲良さげに話してんだってばよ?」


「仲良さげ…!」

ナルト君の言葉にジーンと感動をした。私たち、はたから見たら仲良さげに見えるのか…!?





「あーお前に説明すんのめんどくせー」

「なにー!なんだよ、言えってばよ」


ギャンギャン騒ぐナルト君の横で笑ってるキバ、奈良シカマルは耳を塞いでしれっとしている。









「あれ…?キミは………」


すると、また違う方向で声を掛けられた。




「チョウジ、来んのおせーよ」

「だって急に二人とも走りだすんだもん、」


そう言ってちょっと怒った顔でキバとナルト君を見るチョウジ君。





「つか、チョウジ、なまえ知ってんのか?」

「えー!チョウジもコイツ知ってんのー?俺だけのけものかあー!?」

「のけものってな…、」


呆れるキバと奈良シカマルをよそに私はチョウジ君を見つめた。




はて、私はもちろんチョウジ君知っているけど…、チョウジ君はなぜ私を知ってるんだ…?



首を傾げていると、チョウジ君は困った顔で頬をポリポリかいている。
なにか言いたそうなそんな顔。でも、遠慮しているそんな顔。



それがまたよくわからなくて、もっと首を傾げいると、奈良シカマルとふいに目が合った。



奈良シカマルは、眉を上げて面白そうに私を見て笑っている。


その笑顔に、私はハっとチョウジ君を見た。






あ………、チョウジ君も、気づいてたのね…。私が毎朝グランド見てること。


……………なんて、恥ずかしい!私の顔は面白いほどみるみる赤くなっていく。




パニくってあわあわしていると、余計に面白そうに眉を上げる奈良シカマル。

ああ、これ、からかわれてる…!!






「おい、なに赤くなってんだよ」

「キバ…!」

「熱かー?」


すると空気が読めないキバは私の顔を覗き込んできて、私のおでこに手をつけた。



「うーん、熱いぞお前」

キバも自分のおでこに手を持って、私の熱の熱さを図る。




キバ、ちがうんだよ、熱じゃないよ!これは赤面って言ってだね…!


なかなか伝わらない思いにうずうずしていると、キバは私のおでこから手を放して私の腕をつかんだ。





「保健室行くぞ」

「ええ、ちょ、キバ」


「えー!キバ!サッカーはどうすんだってばよ」

「とりあえずお前らだけやっとけよ。コイツ保健室連れてくだけだから」



「ちょ、キバ、私熱ないよ!」

「うそこけ。熱いぞ」

「だから、それは…!」

「なんだよ?」


奈良シカマルがいるところで、本当の意味を言えるわけないでしょーが!
でもキバに気を利かせろなんて、わからすことができるわけない。

こいつ、鈍っちょだから。




私は心の中でため息をつくと、諦めて力を緩めた。
すると、キバは私の腕を引いて歩き出す。



チラっと後ろを振り向けば、奈良シカマルと目が合った。







ああああ、せっかくお話してたのに…、キバのアホー!

































「で、そのまま保健室で寝かされていたと」

「うん…、」


朝のHRの時間に間に合うように私は保健室を出て教室に入った。


いつもなら朝早く教室にいる私が、チャイムと同時に教室に入ったもんだから、いのは何事だ!と思ったらしい。


HRが終わったと同時にすごい勢いでいのがやってきた時は、こちらが何事だ!と思ってしまったぐらいで。






「それまで寝かされたってことは本当に熱あったんでしょ」

「ちがうよ、恥ずかしくて体温上昇してたからだって」

「なんだそれ」

「だって恥ずかしいじゃん。気づかれてないと思ってたのに、気づかれてたんだよ。しかも2人に」


「…まあ、気づかれるでしょ。あんな毎日覗いてたら」

「…………だよね」



「でも、シカマルとそんな急接近してるなんて聞いてない!すごいじゃん!」

「………うん」


いのはそう言って大はしゃぎした。

そんないのの顔を見てなんだかテレてしまう。
私はにへらと笑っていのを見た。



「これで、押し倒したらこっちのもんよ!」

「だから、押し倒すはやめれ」



やっぱりいのは考えることが恐ろしい。































「お前、大丈夫かよ」

「あ、うん」

「熱あったんだろ?」

「別に、大したことないよ!キバったら大げさすぎなだけ」



「………ふーん。ま、あんま無理すんなよ」


「え、あ、あありがとう…」




放課後になり誰も居なくなった教室にいつも通り奈良シカマルが入ってきた。

教室に入るなり心配してくれる奈良シカマルに私は苦笑いを浮かべてしまう。








「それにしても、幼馴染だからか?」

「え?」

「キバがあんなおせっかいになんの、あんま見たことねー」

「そ、そうかな…?」


キバってば、昔からおせっかいだけど…。



「お前だからじゃね?」

「……え、?」



「ま、そんなことより、残ってるプリントこっち渡せよ」

「え?」

「昨日言ったろ。傷の手当のお礼」

「あ、」


「つっても、10枚だけな。お前どこまで進んだ?」

「………2枚目が終わったとこで…、」


「お前……、おせーな相変わらず」

「ご、ごめん…」


しょぼくれた顔で、手を付けてない10枚を渡した。
奈良シカマルは呆れたようにため息を吐いて私からプリントを受け取ると、また呆れた声が聞こえる。





「お前なんでそんなに遅いんだよ」

「え?え、ええと」



「もしかして、わかんねーとか」

「…………………」



「まじかよ」


そう言って奈良シカマルは「ったく」と自分の椅子を私の席まで引っ張った。
肩が触れそうな距離に、私の心臓は急激に脈を打つ。





「教えてやるよ」

「え、え?」

「俺が教えてやるって言ってんの」


「え、でも…」

「いいから、教わっとけ」

「あ、ありがと…!」



軽くおでこをピンと跳て奈良シカマルは眉間を深く寄せるもんだから、私は嬉しくってにはらと笑った。












ちょっとは私、奈良シカマルと仲良くなれてるかな………?












教室内家庭教師







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