一生の苦難




ケンカした。


さっきから一言も喋ってない。

先ほどからなまえはぶすう〜とした顔で食器を洗っている。




…………オレが悪かったのかも。ってあんなぶすう〜顔見たらそう思ってくる。

コイツ一回怒るとナカナカ口を聞いてくれねえから、幸せなんつー新婚の生活には正直キツイつーかなんつーか。




イヤ、つかもう今実際にキツイ。



チラっとなまえを盗み見れば、まだ引き続きのぶすう顔をしているもんだから、オレは気づかれないように深くため息をした。















事の発端はなまえが作ってくれた夕飯。



お世辞にも言えない位のクソまずいもんを出されたので思わず「まず」って言っちまって、


いやいや、だってあれはすっげーまずかったな。あんなもん世の中の食いもんじゃねーよまったくよ。
なにをどうしたらあんなもんができんのかね。



ってこともつい言ってしまった。
もちろん冗談つーか本気で言ったつもりはない……まあ、半分本気。




そしたらコイツご立腹だもんなあー。









「なまえチャン」


「………」



ご機嫌を取ろうとおどけた声で話しかけた、が、案の定ド無視。




「なまえ、聞いてんのか」

「なに」


ドスの響く声で睨みかけてくるなまえに一瞬首を引く。



「…こ、こえーって」


「…………ふん」




「悪かったよ」


「………」




「無視んなっつーの!」



「いい。もうあんたには一生ご飯作ってやんないから」




「あのなあ、確かにまずいっつったのは悪かったって。まじ謝る」


「…いいじゃない。私のご飯まずいんでしょ。別に無理に食べなくて結構」




「最後まで聞けって、」


「………」




「お前が料理できねーのは当たり前だろ、だってお前一人暮らししてた時も料理してなかったからな。そりゃまじーだろ」


「…そこまで言わなくたって!」




「だから、これからうまくなればいいだろ、つかオレのために頑張れよ」


「………だから頑張ったんじゃない」

「だな、だからごめん。もう言わねーし、まずくてもちゃんと食うからよ」


「………シカマル」



「それが夫婦だろ」

「………うん、」




しょぼくれたなまえの腕を引っ張って自分の中に収める。

チラっとなまえの顔を見れば目には涙が少し溜まっていて、心臓が少しチクっとした。



あー、やっぱり「まずい」なんて言うじゃなかったな。頑張って作ってくれたってのに。

……もう一生「まずい」って言うのはやめるか、しょうがねーしな。












「シカマル」

「あ?」


「あのねあのね、一生まずくても食べてくれる?」


「は、」


オレを見上げるなまえは、先ほどの涙なんかもうとっくに引っ込んでて、目がキラキラと輝いていた。

なんだか、スッキリした顔してやがる。








「なんだお前、一生まずいもん食わすってか、オレを殺す気か」

「まずくてもちゃんと食べる言ったじゃん。ね?」

「あー、」




女ってのは、タフな生き物だったな。










一生の苦難













「お前頼むから、それだけはやめろ」

「人には向き不向きがあるじゃない」

「だったら努力しろっての」

「うーん」



「料理教室でも通え、アホ」









→あとがき

男の人に「料理教室通え」なんて言われると、きゅーんと来るのは私だけですか?


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