3、日課は続けるもの





「ハイ、席変わりなさい」

「いのお…、おはよ」

「…………なにその明らかに何かありましたって顔。どうしたのよ」

「いの…、もう私死んだ、」

「はあ?」


今日もバカみたいに朝早く学校にきてはグランドで遊んでる4人(というか奈良シカマル)を眺めていた。ちなみに今日はキックベースで遊んでいる。

いのの席に座って奈良シカマルを見ていると昨日の出来事を思い出して泣きそうになる。

は゛あー…、とため息をかれこれ何十回も繰り返していた。





「で、なに」

「昨日、いのがうちはくんをストーキングしに帰ったあといろいろ大変なことがあって、」

「あんたね、私を犯罪者みたいな言い方するのやめて」

「もう提出期限がだめってカカシ先生がプリントを、奈良シカマル呼んで来いって!隣でシャーペンくるくるってイライラしてて、ふんでグランドで!」

「落ち着け」

いのは呆れながら私の頭をゴツンと小突いた。

「あたー!」

「あんたの言ってることぜんっぜんわかんないっての」

「…うう、ごめん」

小突かれた頭をさすって涙目でいのを見上げた。
昨日の出来事を今度は順を追って説明すると、いのはぱあと笑顔を向けた。


「やったじゃない!」

「え、どこがですか」

「シカマルと二人っきりになれる時間ができて!」

「……奥さん、私の話を聞いてましたか?あの人すごくイライラしてんの、すごくイヤそうなの!そんな雰囲気で2人って耐えられるわけないじゃないか!」

「あのねー、そんなこと言ってる場合じゃないっての。あんたもうすぐ卒業なの、わかってる?」

「………うう」

「その前にシカマルと接点ができたんだよ、あんたむしろそれを神様に感謝しな」

「…だって、めんどくさいってすごい言われた、うじうじ女って絶対思われてるもん!」

「実際にうじうじ女じゃない!」

「なにー!」

「あんたね、シカマルってのはこっちが押し倒す勢いでやんないと振り向いてくんないわよ!」

「押し倒したら逆に嫌われそうだわ!」

「…もう、なまえはどうしたいのよ」

「どうって、」


どうって………別にどうもしたくないよ。

少なくてもあんな機嫌の悪い奈良シカマルを近くにして、良い雰囲気に〜…、なんて思えるわけないじゃないか。

私は、もっと…。こうもっと…、あこがれるシチュエーションとかあるじゃないの!


「あんた贅沢よ」

なんてうじうじ考えていると、急にいのが真剣な顔で私を見たもんだから、グサリと直接胸に刺さった。

「………」

「私なんかライバル多いのよ、それを蹴落としてまで私はうちはくんの傍にいたいってのに」

「いの、」

「そんな生半可な気持ちで、恋愛すんな」

「…い、の」

「当たって砕けろって言葉あるじゃない。私その言葉別に嫌いじゃない」

「…………」

「砕けたら、失恋パーティしてあげるしさ。頑張んなよ」

いのはそう言って私の頭をポンポン撫でた。しょぼくれた顔でいのを見上げると優しい顔で微笑んでくれる。

「うん…、ありがと」

アメとムチをうまい具合に使えるいの、あんたは良い女だ。うちはくん、いのをどうかもらってやってください………。














「い゛の゛お゛ー!お願い、居て!!」

「バカねあんた!私のお説教聞いてなかったの!」

「だって、でもやっぱり…、2人きりは気まず、」

「うるさい!あんた一人でなんとかなさい!」

「な、なんとかって……?」

「そんなもの適当でいいのよ、適当に話題振って話かけたらいいんだから」

「話題!?話題って!なんの話したらいいの!?」

「知らないわよ!自分で考えなさいよ」

「いのお……!」

「そんな顔で見ても無駄。私もこれからサスケくんとこ行くんだから」

「あ、いの」

「じゃーね、頑張んなさいよー!」

「え、いの…………、行っちゃった」

放課後は嵐のように帰って行くいのの後ろ姿をこれほど恨めしいと思ったことがない。








憎きカカシ先生から渡されたこの課題プリント、本来ならべつに2つに分けてお互いでやればいいだけ、と思っていた。

でもカカシ先生は、「そんなことしたらまた期限守らないでしょキミたち」とかなんとかで、

「2人でやれば忘れずにできるでしょ、さすがに」なんて言いやがった。

しまいには、「あ、それ連帯責任だから期限守れなかったらまたキミたち色々俺のパシリになるから、よろしくー」って…



「ふざけんなー!アホカカシ―っ!」

「同感だな」

「……………え、」

「おす」

両手を突き上げて怒りを爆発させていると、ドアの方から声が聞こえてきて、


ま さ か 、

なんて恐る恐る横を向くと、教室のドアを閉める奈良シカマルが立っていた。もう私の脇汗、今ハンパない。

ハタっと、冷静に辺りを見渡すともう教室には誰もいなくなっていて、また奈良シカマルと2人きり。

なんて意識しだすと止まらないがチキンの宿命。私の心臓はまた急速に波を打っていた。



奈良シカマルは私の横の席に腰かけて、カバンからプリントと筆箱を取り出した。

その姿を見て、私も慌てて課題プリントをカバンから取り出す。



「お前、どこまでできた?」

話かけられて慌てて奈良シカマルの方に顔を向けて、ふと考える。

「…………え、と」

「なんだお前、全然進んでねーし」

「ご、ごめん」

「……………まあ別に。期限まで終わらせりゃあ、いいだけだしな」

興味なさそうな顔をして、奈良シカマルは自分のプリントに目を向けた。

あー…、また私の好感度が下がっていく。こいつダメなやつって絶対思われてる!

胸の中で深いため息を吐いて、チラっと横を向く。
奈良シカマルはめんどくさそうな顔をしながらもスラスラとシャーペンを動かしている。


やっぱり、頭いい………!

ついでにプリントの端に書かれているページ数を覗き見ると、6と書かれていた。

ろろろろろろ6…!!
もう5枚を片しちゃったの、この人…!

私なんて、まだ1枚目の半分しか終わってないというのに…、

や、だって、(しつこいようだけど)M女高しか選択肢のない私はお勉強がかなりあれなので、やらないんじゃなくてできないのが正直な話。


やばい………!このままじゃ、奈良シカマルに迷惑がかかる…!


焦って頭を抱えていると、奈良シカマルがふいにこちらを向いた。
ばっちりと目が合ってあわあわしていると、奈良シカマルは怪訝そうな顔をした。


「なんだよ、」

「え、いや、あの…」


え、ちょ…、どどどどうしよう!

奈良シカマルは私の言葉を待ってるみたいで、まだ怪訝そうな顔で私を見ているし、

や、確かに見てたのは私のほうだし、人って用がないと人に顔向けないもんね。ってことは私は、人じゃないのか、用がないと人の顔を見てはいけないのか……!



おおお落ち着け、なまえ!そんなアホなことを考えてる場合ではない。

まだ奈良シカマルは私の顔を見てる。



な、なんか言わなきゃ、なんか……!


「そんなもの適当でいいのよ、適当に話題振って話かけたらいいんだから」

ハっと、いのが言っていた言葉を思い出した。
話題、話題話題話題わだいい…!




「きょ、今日もいい天気だね」

「はあ?」


長い間待たされたあげく発せられた言葉にはあまりにも内容がないので、奈良シカマルはいつも以上に眉間を深く寄せた。


「いい天気ってな、もう夕暮れだけど」

「……え!」

と窓際のほうを向けば、空は綺麗な茜色に染まっていた。


「…………」

「………ったく」

呆れたような声を出して、奈良シカマルは私から目を離すとまたプリントに目を向けた。


いの…、砕けました。もう私、完璧嫌われました。


肩をガタっと落として、プリントを見る。
あ、だめだ。なんか泣けてきた、自分のアホさ加減に。


なにが、私はお勉強があれなので、だ。それ以前の頭があれなんじゃない私は。


………もう、ほんとやだ。自分やだ。






「つかお前」

泣きそうな顔を隠すようにプリントを見る振りをして俯いていると、奈良シカマルの方から声をかけられた。


完璧嫌われた、と思い込んでいただけにびっくりして顔を上げると、呆れ顔は相変わらずで私を見ていた。

でも、それは冷たい目なんかじゃなくて…、それだけで私は少し救われた気がした。



「な、なんですか」

と聞き返せば、どうでもいいけどよ、なんて付け加えられて、



「お前朝早いよな。なんかしてんの?」


「……………………え。」



予想外な言葉に、私の頭は完璧に停止した。
驚くぐらい言葉が出てこず、ただ絶句。



「いつも居んだろ」

「え、ええ、と。いつも…?」

頑張って出した声が震えている。我ながら情けないというかなんというか、


「ああ」

「そ、そんな朝早くに来てるわけないじゃないですか、私部活も委員も入ってないし…、誰かと間違ってるんじゃな、いですかね…?」


引きつった笑顔で奈良シカマルを見ると、彼はどうでもよさそうに私から目線を逸らした。


「ふーん、まあ別にいいけどよ。じゃオレぼちぼち帰るわ」

「あ、うん。お疲れさま、です」

「じゃあな」

だるそうに歩いて教室から出ていく奈良シカマルの後ろ姿を見送った。

教室の扉が閉められたのと同時にドっと吐き出される安堵のため息。





ばばばばばバレてんじゃん……!


や、それもそうか、あれだけ毎日覗いていれば気づかれるか、

でも一度もグランドで奈良シカマルと目が合ったことがない…、だから気づかれてないもんだと思っていた



……だー!そんなことより!

体が燃えるように熱い!恥ずかしい!恥ずかしい!もう死ねる。


私が毎朝毎朝自分たちを見ているということを知っていた…!知っていた…!気づかれていた!

そんなもんも知らないまま、私はずーと毎朝グランドを覗いていたというのか…!


あー!もう自分のアホー!!






とか、言いつつ、また早起きして学校来ちゃったわけで。

や、だって、毎朝日課だったわけだし、体が慣れちゃってて…、

って、そんなことはどうでもいい!



まあ、用はガン見しなきゃいいってことでしょ、うん。

わたしはいのの席に座り、チラと横目でグランドを見る。


相変わらず4人はもうグランドに来て遊んでいた。本日は野球ですか。


奈良シカマルは外野を守っていて、って言っても人数少ないから外野を守っているのは奈良シカマルだけだけど。


チョウジくんは動きたくないのかキャッチャーしてるし、あとはキバとナルトくんが交互にバッターとピッチャーをしている。


どうせ、奈良シカマルも動きたくないんだろうな、なんて思うと思わず笑みがこぼれてきた。

ほんと、遊びに参加しないなら毎朝付き合わなきゃいいのに…、奈良シカマルってば実は優しいんだから。



……いの、の言ってる言葉今になって心に入ってきた。


「シカマルと接点ができたんだよ、あんたむしろそれを神様に感謝しな」


まったくその通りだ。
私は、チャンスを生かせてない。贅沢に転がしているだけ。
せっかく2人きりになれてるのに、会話もままならない、プリントはできない、奈良シカマルに呆れっぱなし。


そんなんじゃ、ダメだよ。



そんなんじゃ、ダ―――、




奈良シカマルを見ながら決意を改めていると、ふいと奈良シカマルがこちらに顔を向けた。
今度こそガッチリと目が合う。


突然のことにまた思考回路停止の危機に陥り、数秒目が合ったまま固まっていると、


奈良シカマルは眉を上げ面白そうに笑って、こっちに向けて指をさした。





「…………!」


口をパクパクして何か言った奈良シカマルに、今度は完璧に私の思考回路は停止した。






『やっぱお前じゃん』







日課は続けるもの







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