重力に逆らえず真っ逆さまに落ちる一同。落ちる、落ちる、そのまま地面に叩きつけられるのは御免だと思い絶対防御を出そうかと思った矢先、何かに包まれた。ぐるっと一纏めにされた彼女ら、その外では少年の声とオジサンの声。終始回っているその中は吐きそうで具合が悪かった。
「おかえりなさーい♪みなさん♪」
バサっと覆われた布から解放された、視界が開ける。先頭に座っているのは久々に見た浦原さん。彼の道具なのだとわかった。そして一護と一言二言、言葉を交わすと脱帽し頭を垂れる。
「本当にすいませんでした・・・!」
彼が謝罪する理由、本人が作り出した崩玉の話だろう。それをルキアの体内に宿し隠蔽しようとした事実。藍染ら反逆者の話は本当だったのだ。彼の謝罪がそう物語っている。そんな彼に対し一護はやめてくれと言った。
「気持ちの在り処はともかく俺らはあんたに助けてもらったし強くしてもらった。感謝してるさ」
そしてルキアにも謝ってくれと、一番の被害者はルキアなのだから。浦原にそれぞれの家で降ろしてもらう。全てが終わって帰ってきた。もう、明日からはすぐに新学期が始まる。彼らの夏休みはこうして終わった。
『明日から新学期だもんな。課題終わらせといて正解だった』
修行期間十日間、穿界門開くのに七日間、尸魂界で過ごした二週間程度。こんなにも日数がかかるとは思っていなかったが、念のため既に課題を片付けておいていたのだ。いつもは計画がずれて夏休み後半に焦ってするのだが今回は大丈夫。ただいまー、玄関を開けた。そのままリビングへ直行するとこちらの顔も見ずにおかえり、とだけ返してくれた母。大きなトランクに荷物を詰め込む様子は、旅行の準備でもしているかのよう。どこかへ行くのだろうか。
『旅行でも行くの?』
「お父さんが海外に転勤になっちゃってね、この家出なきゃ行けないの」
そうか、お父さんが転勤ね。仕事の関係で・・・転勤・・・、かい、がい?海外へ転勤?!なんで?っていうかいつ決まったの?!そんな話聞いてないよ!
『今・・・なんて・・・っ?!』
「だからお父さんが海外転勤になったのよ。家も売り払うことに決めたから」
いつ?どこに?私は??そんな溢れかえる疑問を母親へぶつける。出発は一週間後、義務教育を終えたとはいえまだ高校生である身のナマエ、一人置いていく訳にはいかないと。一緒に行かなきゃいけないの?
『・・・え、やだよ。・・・・・・私、行きたくない』
「我が儘言わないの、だってどうするの?日本に残って一人で生活できるの?」
絶対に嫌だ、やっと学校に慣れ始めて、織姫や茶渡くんに石田くん・・・そして一護。皆と仲良くなれた、友達もたくさんできた。浦原さんに夜一さん。たくさんの人に支えられてここまでやってきた。父の仕事の関係で、はい、さよなら。なんてしたくない。
『一人で生活できるなら・・・残っていいの?』
「・・・できるなら、ね」
恐らく無理、そう思っている母。一人で生活したこともない子供が駄々を捏ねているぐらいにしか考えていないのだろう。でも、海外に住むなんてそっちの方が私は考えられない。英語なんて話せないし、また一から友達を作らなければならない。会話ができないのに友達なんてできるのだろうか。何より、皆と離れたくなかった。一人で生活するにはアパートを探し引っ越しをしなければならない。尸魂界から帰ってきて早々問題発生だ。
九月一日新学期が始まる。制服に着替えて登校。九月といってもまだ暑さは健在で、涼しい秋が恋しくなる。始業式なんて校長先生の話聞くだけでしょう、行く意味なんてあるのだろうか。そう思っていると後ろから衝撃がやってきた。
「よお!」
『・・・一護!!おはよう』
彼と登校時間がかぶるとは珍しい。いつも小島くんと一緒に学校へ行ってるはずでは?そう問うと、親父から面倒くさいことに絡まれて家を出るのが遅れちまった、らしい。小島くんには先に行っててくれと頼んだとか。・・・一護のお父さんらしいね。
「昨日はゆっくり休めたかよ」
実際問題、休めたかと聞かれれば微妙だった。あの後、絶対に住む家探してやる。と母へ宣戦布告をして不動産へ直行したのだ。生活資金の最低の仕送りは約束してくれた、金があるなら一人で何でもすれば良い。一人暮らしなんてしたことないけど、家事炊事一般的なことはできるつもりだ。確か、織姫が一人暮らしだったはず。彼女に聞いてみるのも悪くない。
「・・・元気ねえな。何かあったのか」
『ううん、大丈夫。気にしないで』
家の事情を一護に説明する必要はない。何故なら彼は絶対に心配してくるから。もう何度も一護の過保護さには頭を悩まされてきた。彼の良いところなのではあるけれど。だからそんな心配、かけたくない。
「おーし!今日も一人も欠けずにそろってるな!感心感心!!」
学校へ着き教室へ入る。途中で浅野くんが一護へ久々の再会に抱きつこうとしていたがそれをラリアットで返していた。かわいそうに、彼はただ寂しかっただけだろう。たつきらと挨拶を交わし、織姫、チャド、石田の輪に入って雑談していたら越智先生が入ってきた。ホームルームを開始して数分、転入生を紹介すると言った先生。突如後方で聞いたこともない音がした。ホロ゛ーウ?
「ぅおおおおい!?」
一護の手元では浮竹隊長からもらった代行証が鳴っていた。それは霊力をもっていない人間には見えないし、音も聞こえない。そう説明してもらっていた。そして水色が一護へどうした、と聞いている辺りやはり何も聞こえていないのだろう。織姫とチャド、石田も反応する。一護と目があった、虚退治に行くんだね。紹介するはずの転校生がおらず教室の入口で探す越智先生。その横を通り抜けた一護とナマエ。
「・・・ってコラァ!!!黒崎!!ミョウジ!!」
「便所っス!!」
『便所っス!!』
特に言い訳も思いつかず一護と同じ言い訳をしたナマエ。彼のすぐ後ろを走る後方では、織姫とチャドも教室を抜け出していて。先生は呆れ、同じく教室を出ようとした啓吾を叱っていた。
「オマエ・・・便所なんて言い方はねえだろ」
『だって良い言い訳が思いつかなくて・・・』
あっという間に虚を消滅させた一護。近くで見ているだけとなったナマエ。女なんだから便所なんて言うんじゃねえよ、と。言葉遣いに悪態つかれた。確か織姫も便所っスって言ってたと思うんだけどな。話していると一足遅れた織姫とチャドが到着した。
「・・・つーかさ、オマエらまで抜けなくても良かったんじゃねえか」
そこらの虚を片付けるくらいなら一人でもわけがないという一護。確かに、あっという間に魂葬させたし、私も一緒にいたけど何もできなかった。何もする暇がなかった。
『伝令神機ないけど、虚がどこに現れたかわかったんだ』
「もう霊圧探知ぐらいできるっつーの」
彼は苦手だった霊圧探知を克服していた。尸魂界で夜一と修行をした際に身につけたという。そうだね、死神倒しちゃうくらい強くなったんだから霊圧探知ぐらいできるか。彼はあたりをきょろきょろと見渡し一緒に来なかった石田を気遣っていた。来なくてはいけないなんてことはないけれど、尸魂界へ行った自分含め四人しか来ていなかったことを不思議に思ったのだ。
「石田くんは・・・ずっと調子悪いみたいだよ」
織姫が言う、尸魂界から戻るよりも随分と前から、らしい。一護たちには気づかれたくなかったのだろう、と。尸魂界で何かあったのか、彼は十二番隊の涅隊長と戦ったと聞いた。四番隊舎で食事をする際や洋服をもらった時も、普通に話していて何の違和感も抱かなかった。
「・・・井上・・・だったらそれ、俺らに言わない方がいいんじゃねえか・・・?」
ド正論をかます一護に焦る織姫。皆で気づかないふりをするということになった。
「オマエ、この後どうするんだよ」
こっそり学校に戻るとホームルームは終わっていた。そのまま帰る生徒らと一緒に学校を出る。昼で終わったからこのまま不動産にでも寄ろう。まだ、物件は決まっていない。そんなことを考えていたら後ろから一護に声をかけられた。
『この後って・・・?』
「いや、そのままの意味だけど。用事あんのかって聞いてんだ」
始業式は午前中で終わった、故に昼からは空いている。けれど用事は作っていて、不動産に行かなくてはならない。でも、何故聞いてきたのだろう。一護の方がより重要な話などがあるならそちらにもいかなくてはならないし。否、住処を探すより重要なことなんてないか。
「ないならさ・・・家来ねえかと思ってよ・・・」
頬をぽりぽりとかいて視線をそらす。些か紅く染まっている気もした。何故家に誘う、デートでもあるまいし。・・・とそこで思い出した、ルキアを助けに行く前の夏祭りの花火大会。あの時一護がルキアを無事助けて現世に戻ってきたら話があると言っていた。そのことかもしれないと思うと同時に悩む、もし・・・もし私が思っているような内容だったらどうしよう。まだ、答えを準備していない。散々、考える時間はあったのにやっぱり戦いの最中ではすっかり忘れていて。一人で慌てているナマエに眉をひそめる一護。
「石田も呼んでるから、ナマエも来るかなって思ったんだけど」
『・・・石田くんっ?』
どうやら今、コンが悲惨な姿になっているらしく裁縫が得意な石田を呼んで縫い直してもらう約束をしているらしい。ずっとネエサンカムバックと嘆いているコンがうるさいからナマエでも呼んで少し黙らせようとも思ったと。え、なにそれ私を良いように利用しようってこと?その為だけに呼ぼうってこと?自分が思っていたことが見当違いすぎてなんかむかついてきた。
『残念でした!!私はそんな暇じゃありません!!』
「・・・なに、怒ってんだよ」
『怒ってない!もう用事あるから帰るね!』
呆ける一護に背を向け足早にその場を去る。なんだよ、あの時話をするって自分から約束とりつけてきたくせに。もう忘れてしまったのか。っていうかそんな話を期待している自分も嫌だ。確かに答えは準備してないけど、ちゃんと返事ができるかわからないけど。あの時、あんなに真剣な顔して言ってきたじゃない。話の内容って一護にとってそんなもんだったのかな。
(あいつなにカリカリしてんだ?)
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