076
一護の病室でハプニングが起きたあの日から二日が経った。彼は早く救護詰所から出て瀞霊廷を見回ってみたいらしい。だけど卯ノ花隊長から、有無を言わさぬ笑顔で退院を否定されまだ出られずにいる。あの後、浮竹隊長がやって来て現世へ帰るための穿界門が完成するのに一週間かかると言われた。一護はもうほぼ完治しているのでそれ待ちにはなっているのだが。
「・・・っ、ナマエ?・・・ナマエ・・・・・・なのか?」
『!』
室内にずっといるのも疲れるもので、外の空気を吸おうと隊舎を出てみた。空気がおいしい、そう思っていると何やら懐かしい知ってる声で名を呼ばれる。振り返ると、ずっとずっと会いたいと思っていた彼女がいた。手に花を添え、死覇装でも白装束でもない着物を着たルキアの姿。会いたかった、久しぶりに会えた彼女を見て涙腺が緩む。
『ルキアーっ!!』
駆け付ければ飛びついて抱きしめた。おお、と驚いているルキアを他所に久しぶりの再会に感動する。もとはといえば彼女を助けるためにやってきたのだ。しかし、助けたとはいえあの後どこに行ったのかもわからなかったし、彼女の兄朽木白哉が重体だったのでそれにつきっきりだったはず。なんだかんだ、一護は助けたときに会って話でもしたかもしれないがナマエはこれが久しぶりの再会なのだ。なんか痩せたかな?元々細かったけど。ルキアの大きい瞳がナマエをとらえた。
「・・・ひ、久方ぶりではないか!お前も・・・・・・来ていたのだな・・・」
『うん!皆と来たよ、ルキアを助ける為に』
そう告げると、今度は彼女が涙を浮かべる。嬉しかった、一護同様過ごした時期は二月程ではあったが、同性でここまで仲良くなったのはナマエが初めてだったのだ。その彼女が、自分を助ける為に命をかけてわざわざやって来てくれた。
「ナマエ・・・すまなかった、お前に私は・・・思ってもいないことを・・・口にして」
そう震えながら俯くルキア。思ってもいないこと・・・?そう言われて何かと考える。彼女が現世を去る際に、残した言葉のことかと理解した。
「現世にて思慕の情を抱くなど不毛も良いとこ、友などいる筈もない」
別れの挨拶は良いのかと問われ彼女は答えていた。嗚呼、そういえば涙ながらにそんなこと言っていたなと思い出す。しかし、あの表情が語っていた。微塵もそんなこと思っていない。あえて突き放す為の言葉だったのだと。
『そんな昔のこともう覚えてないよ!』
にこりと笑って見せれば、ありがとう。と礼を述べられる。しかし、彼女はどこかへ行こうとしていたのではないか?手に花持ってるし。そう聞けば、見舞いに行く途中だったとのこと。
「今日は恋次の見舞いにと思ってな」
恋次・・・ルキアを連れ去った死神。聞いた話によると、どうやら彼はルキアの幼馴染らしい。双極から助け出す時も一護からバトンタッチして一緒に逃げてくれたのだとか。現世に来た時こそ、処刑だの殺すだの言っていたが、本当は助けたくて必死だったと。お前も来るか?と問われる。
『でも、幼馴染水入らずで話がしたいんじゃ・・・』
「そんなのはいつでもできる!ナマエも顔は知っているだろう。何も予定がないのであれば一緒に来るといい」
四番隊舎と同じ区画にある詰所。しかし、その救護詰所も一つではない。何せ、怪我人が多かったので第一詰所、第二詰所といくつもある建物へ振り分けられているのだ。そして一護がいる場所と阿散井恋次のいる詰所は違った。
「恋次!見舞いに来てやったぞ!くたばったワケではあるまいな!」
「てめぇ・・・どんな見舞いの仕方だよ・・・」
ガラリと戸を開けるとそんなやり取り。仲が良いのがうかがえる。見舞いに仕方などあるものか!と言い返しながらずかずかと病室へ入って行った。すかさず突っ込んだ彼だが、その姿はぐるぐる巻きの包帯。此処も個室、隊長副隊長各は優遇されるらしい。そして、ナマエの姿が目に入った恋次ははっとする。
「紹介する、こやつはミョウジナマエだ。知ってるな?」
『はじめまして・・・二回目だけど・・・』
「・・・お、おう!」
阿散井恋次だ、そう告げるもその後の会話が続かない。お互いに何から話せばいいのか・・・遠慮しているように見える。そう、現世で互いに対峙したこと、檜佐木の話題が出たこと、逆をとると話したいことがありすぎて困っているのだ。私は花を生けてくる、と空いている花瓶を手に取ると病室を出て行ったルキア。あのよ・・・、と恋次が切り出した。
「あん時は悪かったな、・・・その色々、と・・・」
『あ、ううん。大丈夫、です』
「・・・ルキアのダチだろ、そんな堅くなるなよ」
眉を下げ申し訳なさそうに謝られたが、敬語で話すともっと砕けろと言われた。あの時こそ怖かったが、本当は良い人なのかもしれない。フランクに話すルキアとの会話も聞いているし、警戒を解いても大丈夫みたいだ。ただ、彼はまだ何か言いたそうに口ごもる。
「えっとなんつーか、檜佐木先輩のことは・・・」
『ああ、そういえば檜佐木副隊長のことをなんとかって言ってたよね・・・』
目を見張る、彼女は"檜佐木副隊長"と呼んだのだ。ナマエが何気なく発したその言葉がやけに親しそうな響きに聞こえる。そんな間柄だったのか?自分が相談を受けた時は檜佐木先輩の一方通行だったような気がするのだが―。二人の仲を取り持つ、という約束はまだ継続されているのだろうか。・・・と言い出しっぺは俺だったな。
「あ・・・いや、俺もよく先輩と一緒にいるから、アンタも仲良いのかと思っただけだ」
『うーん・・・仲良いって表現は少し違う気がするけど、凄く優しいし頼りになる人だとは思う』
凄く優しい!?頼りになる人!?檜佐木先輩・・・・・・これ案外イケるんじゃないッスか?と心の中で人知れず先輩にエールを送る恋次。男がいるかもしれないと忠告はしたものの、彼の名を口にするその様子は親しみが込められてるし何より表情が柔らかくなったのを感じた。二人の仲が進展でも・・・・・・したのだろうか。
「もう、こっちに来てから会ったのか?」
『会ったというか・・・ずっと一緒にいたの』
ななな、なんだと?!ずっと一緒にいた!?そ・・・そういや、先輩は副官たちが召集された二番側臣室でも途中っで抜けるて言ってたな。と思い出す。そのあとは旅禍騒動で、そこまで覚えちゃいねえが檜佐木先輩をみることはなかった。もしかして、ずっとこいつと一緒に行動を?!
『でも、最後は仲間の元に戻れって突き放されちゃって。私の為だっていうのはわかってるんだけど最後の挨拶くらいしたかったな』
そのおかげで二人の距離が進展したというワケか。何だよ、檜佐木先輩ちゃっかりよろしくやってたんじゃねえか。いつまでもうじうじしてちゃ何も始まらないもんな!!
「まあ、ルキアとも先輩とも仲良いんなら、俺たちもダチになれるはずだ。恋次って呼んでくれてかまわないぜ。よろしくな」
『え・・・?ああ、うん。よろしく恋次くん』
仲良いとは言ってないんだけどな。話聞いてたのかな。と思ったが、強面だった表情が朗らかになったのでいくらか安心した。きっと、彼の中では友達の友達は、みんな友達といったところだろう。それにルキアが心を許している人。きっと大丈夫―
「ちなみに・・・お前ら、いつまで尸魂界にいるんだ?」
『一護が回復してから・・・それに穿界門を開けるのにあと五日くらいはかかるとは思う』
つーことは、まだ時間はあるな。檜佐木先輩、東仙隊長が抜けて九番隊はクソ忙しいだろうけど、こいつの為なら恐らくいくらでも時間を割くはずだ。先輩!何びびってるか知らねえけど、アンタが動かないなら俺が無理にでもナマエを連れていくぜ。余計なお世話ってか?でも、それが仲人ってもんだろ?
「今度、九番隊まで案内してやるよ」
九番隊って檜佐木副隊長のいるところ?そう問うてきたので、肯定の意味で頷いた。すると、途端に彼女の瞳がキラキラと輝きだす。両手を握られたかと思うとぶんぶんと振られた。俺のこと怪我人って忘れてねえか?
『ありがとう!彼にはずっと御礼が言いたくて・・・早く会いたいって思ってたの』
「・・・っな!!」
早く会いたいって思ってたの―。俺の頭の中で木霊する彼女の言葉。木霊したってのはアレだ、もう俺も結構先輩に感情移入しちまってて感極まってしまったってことだ。会いたいってなんだよ、もうこれ両想いなんじゃねえのか?やったーと喜ぶナマエ、この笑顔先輩に見せてやりてえな。
「俺はあと三日程で退院できるんだがよ。お前の予定はどうだ?」
『三日後?たぶん大丈夫だと思う!』
決まりだな、と言って笑えばもっと嬉しそうなナマエ。嗚呼、ころころ変わる表情は見ていて飽きない。先輩がコイツに惹かれる理由がわかる気がするぜ。この子に一喜一憂してたと考えれば、大の男が可愛らしく見える。
「ちゃんと粧し込んで来いよ?」
『・・・そんなことする必要あるの』
好いた女なんだ、色んな姿が見たいに決まっているだろう。しかし、旅禍として瀞霊廷に侵入してきた彼女。服なんかは今着ている死覇装しか持っていないらしい。着てきた服はズタボロになんだとか。そして、ルキアが戻ってくる。
「なんだお前たち。話声が外まで漏れていたぞ。そんなに馬が合うとは思わなかったな」
「ちょうどいいぜ、ルキア・・・おまえ家から着物とか借りれねえか?」
「着物?貸すことはできるが・・・もしかしてナマエに?」
ナマエと恋次を交互に見るルキア。彼女は「そそそ、そんな悪いよ」と慌てていて、彼は「せっかくなんだから借りとけよ」と二人のやりとりに首をかしげる。一体何の話をしているのだろう。今度、此処で世話になった死神がいるので御礼に行きたいというナマエの話をする。そして、どうせなら着飾ってやりたいと恋次が説明した。
「なるほど、そういうことならば早く言え!!女中に何着か持ってこさせよう」
快諾してくれたルキア。三日後に予定していると伝えると、当日に女中と一緒に四番隊の客間まで来てくれるらしい。参考までに、とどんな柄好きなのか聞かれたのでいくつかあげてみた。こんな贅沢許されるのだろうか。せっかくの機会なのだから思う存分楽しめばいいと彼女に言われる。彼らの好意に甘えることにした。
『ルキアも、恋次くんも本当にありがとう』
そしたらまた!と手を振って出て行ったナマエ。来た時よりも軽やかに帰って行く。檜佐木先輩、連れてってやるから楽しみにしとけよ!!
(アンタらもうくっついちまえよ!)
(檜佐木副隊長に会える!)
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