072
・・・知っている霊圧が三つ、いや四つ。仲間の誰かと巨大な霊圧の持ち主がもの凄い速さで移動している、どういうことだろうか。隣にいる檜佐木副隊長に目配せをすると霊圧を殺せと言われた。
「・・・狛村」
「嗚呼、ここで様子見するか・・・」
東仙と狛村が視線を合わせる、暫し待機らしい。この近づいてくる巨大な霊圧と対峙するということだろう。恐らく巨大な霊圧は死神、それに一緒にいる仲間とは・・・。私と檜佐木副隊長のように協力関係にあるのか、それとも捕まってしまったのか。壁の向こう側で相手の動きが止まった。
「コソコソしやがってみっともねえ連中だ・・・出てこいよ」
「・・・随分な口の利き様だな」
敵とのやりとりをしたかと思えば隊長たちは壁の向こう側へ脚をかけた。もちろん、檜佐木も同じく行ってしまったがその直前に耳打ちされる。今から戦闘に入る、お前は巻き添えにならんよう少し離れた場所で様子を見てろ、と。そう忠告されたのだ。しかし壁の向こうには仲間がいる・・・
『・・・・・・あっちなら見えるかも・・・』
左右を見渡し、のぞき込めそうな場所を見つける。自分たちが通ってきた通路にある階段、それを上れば低めの屋根へ飛び移れそうだ。そこから次々に屋根伝いをして壁に阻まれていた向こう側が漸く見える。
『お・・・織姫!石田君に茶渡君も?!』
他にも多数の死神たちが・・・よく見ると包帯だらけだが岩鷲の姿もあった。皆、ナマエと同じように死覇装を身にまとっている。・・・・・・ということは、恐らく死神側についたってことだ。何故?どういう経緯があったのだろう。少し距離が離れた為、姿は見えても話している内容までは聞き取れない。すると、織姫たちは別の方向へと走り出す。止める様子は・・・・・・ない。何を話したのか檜佐木と射場、班目と綾瀬川が一歩前に出て対峙し始めた。大人しく様子を伺っていると動き出す檜佐木。一人の死神と一緒に違う場所へと移動し始めた。・・・・・・どうしよう、ついて行ってもいいのかな。織姫たちも気になるけど・・・・・・これまでずっとかくまってくれた彼を放っておくのも気が引ける。檜佐木が到達した場所を確認すると屋根を降り、通路をくぐり抜けるのであった。
彼女に何も言わずに来てしまった。・・・言える状況でもなかったが・・・大丈夫だろうか。霊圧を探す、速度こそ遅いものの確実にこちらへ向かってきている。ひとまず、安心だろう。あの格好なら危険な目にも遭わないはずだ。相手を見やる、十一番隊の綾瀬川・・・本当に俺とまともに戦り合うつもりなのか。五席が副官に勝てるわけもねえのに。
「・・・ここらでどうかな」
隊長たちの戦いの邪魔をしてはならない為場所を移動した。先ほどとそう離れてはいない。あとで東仙と狛村の援護に向かわなければいけないのだ。隊長各二人といえど、敵はあの十一番隊の隊長更木。考えたくはないが万が一ってのもあるからな。さっさと済まして、彼女と合流し援護に向かおう。
「早くしろ、結果は見えてる」
「ふふ・・・それはどうかな。やってみないと」
斬魄刀を抜き、構える。いつもなら相手に合わせるか、受け身で出方を待つのだが・・・。今回は自分から先制攻撃を仕掛けた。この後が控えてる、早く終わらせたい気持ちが勝ったのだ。綾瀬川へ跳びかかった、しかし斬魄刀を抜き攻撃を防がれる。剣を交えてわかった、やはり俺の方が上だ。このまま押し切れば難なく勝てる。
「何か焦ってない?そんなに君とやりあったこともないけどさ」
「黙れ、お前は負けて俺が勝つ。その事実は変わらん」
ぐっと刀に力を込めれば弾き飛ばし一つ距離をとった。あいつは戦闘には向いていないと聞いたことがある。美しいだの美しくないだのと、男のくせに美に異常にこだわる節があると。正直どうでもいいが、この戦闘において向かってこないのは何故だ。もしや俺を東仙隊長の所へ向かわせない為の時間稼ぎを?だとしたらその愚策には乗らん!!
「・・・っ!!」
はやる気持ちを落ち着かせ、次々と斬撃を仕掛ける。奴は苦し紛れに防戦で精一杯。力も速さも刀裁きも全て檜佐木の方が優れているからだ。命をとるまでとは言わん、さっさと負けを認めろ!最後の一振りに綾瀬川は飛ばされた。
「・・・っ!」
そこで、東仙隊長の爆発的な霊圧を感知する。あれは東仙隊長の閻魔蟋蟀・・・!!更木たちがいたところでは黒く巨大な風船のようなものが広がっていた。我らの隊、九番隊東仙隊長の卍解だったのだ。
「苦戦してるっていうのか・・・どちらにしても早く向かった方がよさそうだ」
カシャンと斬魄刀を立てる音。振り返れば、斬魄刀で上半身を支え息を荒くしている綾瀬川の姿。懲りねえな、まだやろうってのか。負けを認めないのは十一番隊らしい。
「お生憎、十一番隊では負けるってのは死ぬことなのさ」
「九番隊とは違うな」
平和を好む東仙隊長率いる九番隊には到底理解ができない。この戦いが何を生むというのか。仲間同士で斬りあい犠牲者も多く出てるというのに。戦闘部隊の十一番隊が旅禍を助けるとはどういう風の吹き回しなんだ。俺の身としちゃあまり大きい声では言えないが。
「どうあがいても五席は副隊長には勝てねぇ」
「内緒の話を教えようか。僕が五席にいるのはね、単に四の字を美しく思わないからさ」
震える足を抑えながらやっとの思いで立ち上がる彼。本当は三の字が一番美しいが、それは班目のものだから譲ったという。そのため、三の字に近い五の字を背負うことにしたと―。数字、ましてや美しさなんて全く理解はできない。だが、不敵に笑う奴には何か策がありそうだった。
「それからもう一つ、十一番隊では暗黙の了解として斬魄刀の能力は直接攻撃系だけと決まっている」
更木隊長や班目には秘密にして、と言い残し始解の解号を撫でた。裂け狂え、瑠璃色孔雀―
「なんっ・・・だ・・・」
「誰も僕たちを見てはいない、だから使わせてもらうよ」
綾瀬川の斬魄刀が変形し長い何かが広がっていく。葉のついたソレは植物のような形を成して、檜佐木の体に絡みついた。気味が悪い、しかし振り払おうともきつく縛られるばかりで逃れられない。くそ・・・こいつの斬魄刀の能力なのか。
「見てごらん、君の霊力を食い尽くして華麗な花が咲く」
「!!」
葉だったソレはやがて蕾になり、花が咲いていく。・・・と同時に自分の霊力が奪われるのが手に取るようにわかった。このままでは・・・恐らく負ける!!
『どっちだったっけ・・・?』
入り組む建造物。全て似たような作りから、同じ所を永遠と回っているのではないかと錯覚してしまう。檜佐木が向かった方へ行きたいのだが迷子になってしまったようだった。どうしよう、檜佐木副隊長は負けないと信じてるけど・・・心配だ。屋根へのぼり現状を確かめようか。
「え・・・ナマエちゃん?!」
すると、屋根をのぼりきった後聞き慣れた声が自分の名を呼ぶ。振り返るとそこにいたのは先ほど見た織姫たちの姿。石田と茶渡、岩鷲に知らない死神が二人。そういえば戦闘になった時にも居たが壁を阻んでいた為、彼女らは自分に気づいていなかったのだ。
「ナマエちゃんじゃねえか!!そんな所で何してんだ!?」
そんな所で何してる。と岩鷲は言った。数刻前のことだろう、石田を牢獄へと入れた後冷たい視線を浴びせ帰ったのだから。石田と織姫が心配の眼差しで見ている。
「・・・・・・ミョウジさん・・・」
目の前の仲間の身をずっと案じていた。今までどうしていたのか、何故死神と一緒に行動しているのか、聞きたいことは山ほどある。しかし葛藤した、現状私は檜佐木副隊長の部下になっている。全て彼が護ってくれたのだ、そのおかげで今の私がある。裏切りたくは、ない。もう彼を裏切らないと覚悟したんだ!
『!!』
すると、突然檜佐木の霊圧が消えかけていることに気づいた。たらりと冷や汗が伝う、いやな予感しかしない。屋根から見下ろすように彼女らを見る、ごめん。私まだそっちには行けないや。脚を切り返し、檜佐木の元へ向かおうとすると織姫が声をあげる。
「何か・・・っ!何か事情があるんだよね!ナマエちゃん!!」
『・・・っ』
拳を強く握り、歯を食いしばる。こんなにも仲間に心配をかけさせて私は何をやっているのだろうか。仲間と檜佐木副隊長の間で、行ったり来たりしている自分が本当に情けない。ナマエの事情を汲み取ろうとする織姫。
「ミョウジさん・・・・・・戻ってきてくれると信じてるよ」
「嗚呼、俺もだぜナマエちゃん!」
石田も織姫の横に立ち言葉を投げかける。どれだけ仲間に恵まれているのだろうか、裏切っているにもかかわらず信じている、とは。彼がやられているのを黙ってみていたのに、岩鷲にだって酷い言葉を浴びせたのに。
「一護の野郎が心配してたってのも本当だかんな!今此処にはいないけどよ」
『!』
気づくと、涙が頬を伝っていた。ルキアを助けここにきたメンバー全員が無事で帰ること、それが掲げた目標だった。誰一人欠けることなく、皆が無事に。拳を強く握りすぎた、爪が食い込み血が滲む。
『・・・ごめん、私まだやらなきゃいけないことがある』
言いたいはたくさんある、心配かけてごめんなさい。こっちは無事だから皆も気をつけて。けれどそれらを全て飲み込むと、一言だけ残し屋根を蹴った。
「・・・聞いたろ、今の言葉」
「ナマエちゃんは絶対に帰ってくる!」
裏切ったのではないか、確証はないがもしかしたら死神に何かされたのではないかと悩んでいた織姫たち。けれど、先ほど流した涙。それがすべてを物語っていた。死覇装を着て斬魄刀を腰に差してこそいるが、彼女は何も変わっちゃいない。死神に操られたりなんかもしていない。自分の意思で、向こう側へ行ったのだと。どんな事情があるかは、わからない。ただ、まだやらなくてはイケナイことがあると彼女は言った。ルキアを助けに来た、それ以外に何をするのか。検討もつかないが、今は信じるしかない。
「もう、いっちーの所に向かって大丈夫?」
ピンクの頭髪、草鹿やちるが問う。お願いやちるちゃん、と織姫が承諾すると走り出した。
(無事でいてください!檜佐木副隊長っ)
(・・・くそ、こんな斬魄刀ありかよ!)
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