048
突如激しい爆音がした。一護と石田を囲っていた虚たちは次々と倒れて行く。この声は・・・浦原さんだ!
「黒崎サーン!助けに来てあげましたよーン♪」
「てめえは・・・ルキアの知り合いのゲタ帽子!?」
雨もジン太もテッサイさんもものすごく、強い。あんなにたくさんいた虚たちはあっという間に消え去った。浦原さんは自分の行く先々に現れるという一護、確かにそんな気がする。
「ほら、無駄口を利いてる暇なんて無い」
顔だけを覗かせたそれの名は大虚(メノスグランデ)幾百の虚が折り重なり混ざりあって生まれたとされる巨大な虚、とルキアが教えてくれた。教本の挿絵でしか見たことがないそれは、大変珍しいものだという。見るからに強そうだ、今までの虚とはワケが違う。すると口を開いた大虚は舌らしきものを伸ばし虚に突き刺した。
それを引き戻し口の中へ・・・食べたのである。
「・・・あんなバケモノ相手に戦い方なんて考えたってしょうがねえだろ・・・」
「何・・・?」
「斬って斬って斬って斬って力の限り斬り倒す!!それ以外に無えッ!!!」
そう言うと大虚に向かって駆けだす一護。む、無謀だ・・・あんなの真正面きって倒せるわけがない。
「あとー、ナマエサン♪お久しぶりスね」
『妙にご機嫌じゃないですか・・・』
「ええ、まあ教え子でもある貴方の成長をみれたのでね」
浦原曰く、ナマエの霊圧は前に比べパワーアップしているらしい。格段に違うと言われたが自分では全くわからない。石田に霊圧を注いだ時の弓の大きさでわかったらしい、まあ確かに大きかった。っていうか、そんな前から見てたんですね。
「よ・・・止せ一護!!貴様の戦える相手では・・・」
「大人しく見ててください。この戦いは必要な戦いなんスよ」
一護の止めに入ろうとしたルキアはどういうわけか座り込んだ。きっと浦原さんの仕業だろう、飛び出そうとしたルキアだけが動けなくなりナマエは何もされなかった。そして案の定一護は大虚に足蹴りにされて吹き飛ぶ。額から血を噴き出しているがどうやら大丈夫なようだ。
『私が行った所で何の役にも・・・』
「さあ、それはわかりませんよ」
独り言として呟いたつもりが浦原さんはその言葉を拾ったらしく、そう答えた。わかりませんよ?そんなわけない私がいってどうなると言うのだ。虚でさえまともに戦えない自分がこんな異例とも言える大虚を相手にすることなど―
「なにも、敵を倒すことだけが手助けじゃない」
『?』
「さっきご自身でやってたじゃないスか」
そこで強い光りに目を奪われた。目の前の光景は・・・一度見たことがある。石田の弓矢が異常なまでに巨大化していた。理由は後ろの一護にあるらしい・・・そうだ、私が石田くんに霊力を送った時と同じだ。飛び道具として放つ矢であれば敵の懐に潜るわけでもない。意を決して一護たちの元へ駆ける。
「貴様・・・っ浦原!!何を考えておる!ナマエは無関係のはずだ、何故そそのかすようなことをッ!」
「まあナマエサンなら大丈夫でしょう」
「無責任なことを言うな!あやつに何かあってからでは遅いのだぞ!!」
「無責任?バカ言わないで下さい。アタシはあの子を守りたいんです」
言葉に詰まるルキア、守りたい?ならば尚更何故危険な処へ向かわせる?危なくなったら止めに入るとでも言うのか・・・。自分の要望がのまれない状況に苛立ちを隠せない。
『一護・・・ッ、石田くん!!』
「ミョウジさん・・・ッ」
二人の元に着く頃には何故か一護の斬魄刀が石田の頭に括りつけられた状態だった。・・・とても不恰好である。近くでみると一護の霊力を吸い取った弓矢はナマエのとは比べものにならない程大きさが違っていた。見誤っていた、それだけ一護の霊力が高いということ―
『私の霊力も使って!石田くんに触れればいいの?』
「お前は引っ込んでろ」
ナマエを見る一護の瞳はとても冷めていて低い声でそう言った、昼間とは大違いだ。いつもの優しさは欠片もなくそれだけで足がすくんでしまった。どうしたというのだ、何故そんなに怒っているの?けれど、ここまできて簡単に引き下がれるわけもなく―
『で、でも・・・ッ』
「こっちに来るなっつったんだ!」
「く、黒崎・・・何もそこまで・・・」
怒鳴られた、とても怒っていた。わからない・・・ここへ来たことがそんなにも不服だったのか。石田がフォローに入るも斬魄刀を奪うとすぐに大虚の元へ駆けて行く。すると大虚は虚閃を放つ、眩い光がナマエたちを襲った。
『・・・っ』
「ッわ・・・・・・」
轟音を立てて散るそれは、一護が虚閃を弾いている図である。四方八方に分散され威力は弱まる、だがそんなことより異様なのは一護の方だ。むくむくと沸きあがる霊圧、止まることを知らぬそれはどんどん膨れ上がった。そしてそのまま一気に斬魄刀を振り降ろす―
「・・・な・・・」
「こんな・・・こんな事が・・・一護め・・・メノスを・・・両断してしまいおった・・・!!」
奇形な唸りを響かせると大虚はズルズルとひびからできた穴へと帰って行く。刀傷を負わせ大虚が負けたのだ。全て異例尽くしのことに周りは呆気に取られる。
「勝ォー利!!!」
「なんて奴だ・・・あんなバケモノを・・・追い返してしまった・・・」
しかし石田と一言二言言葉を交わすとバタリと倒れた一護。フザケているわけではないらしく身体に力が入らないという。言うや否や斬魄刀を手にしている腕が重力に反して持ちあがった。そしてぐにゃぐにゃと刀の形状が崩れ始めた。
『・・・っ』
な、何だこれは・・・!刀の形が一定に定まらなくなっている。しかし、それ以前に一護はとても苦しそうだ。よく考えたら先ほどの暴発した霊気が収まっていないことに気づく。バランスが保てなくなって刀の形が歪んでいるのでは・・・?
『ぐ・・・ッ』
「・・・な、おい!よせッ!!」
彼に触れた瞬間、怒涛のごとく身体に流れ込んできた霊気・・・ビリビリと痺れる感覚に頭がくらくらした、こんな霊圧をずっと体の中に溜め込んでいたというのか一護は。これでは数分と持たない、早く放出してあげなければ。片手は一護に触れ、もう片方の手は天に掲げ―。注がれてきた霊気を手の平で具現化させる、バランスが取れないそれはぐにゃぐにゃと歪だった。ルキアと出会ったばかりの頃手の平から霊圧を放出させたことがある、それの応用だ。出しても出しても注がれる多量の霊気、これではきりがない―
『・・・石田くんッ!』
「ああ!」
また彼も同じことを考えていたらしくこちらに近寄ると巨大な弓矢を構えた。しかし、彼の腕は既にボロボロ。矢を射る度に痛々しい音が鳴る、血も噴き出てくる―
「な・・・何だか知んねーけどやめろよ・・・!手ェボロボロになってんぞ・・・!」
「うるさい!!」
一護の霊気が落ち付くまで続いた霊気の放出。元々体力も少ないナマエはかなり労力を使った。石田や一護達程までないとはいえ、いきなりの霊圧コントロールは大量に力を使う。へたりと座り込み、肩で息をした。
「お前さ―」
ことは済み、空のひびの修正等も浦原たちが終わらせた。ルキアから治療をしてもらった、他の皆も帰り今に至る。
「何で俺たちの言うこと聞けねえんだ」
『言うこと・・・』
「コンと一緒にいろって、俺言ったよな?」
くるだろう、そう思っていた。そこを一番に突き止めてくるのは予想がついた。確かに言われたけど、私は了承した覚えはない。
「ふざけんなよ、何の為のコンだと思って・・・ッ」
『あれは私にも考えがあったの!偶然石田くんと一緒にいた訳じゃない!一護と一緒にいると迷惑かけるだけだし私なりに策だってあった!!』
「・・・策?」
どういうわけか説明する、自分の力を試したくもあったのだと。石田ならそれが丁度良いと感じた、最後一護を助ける為にも繋がったと。ルキアも一護も過保護すぎるのだ、何もできない子供ではない。
「だからってこっちは事情知らねえんだぞ、心配する方の身にもなれよ!!」
『役に立つとは言わない!けど、自分の身くらい自分で守れるの!』
一護だって見たはずだ、ドン・観音寺での一件。地縛霊を守るための絶対防御、虚の攻撃で固まった手元だって砕いた。全部、浦原さんとの修行で身につけた力だ。
「もし一人の時に虚に襲われたらどうすんだ!一人で対処できんのか!」
『ええ、できるわよ!私だってそれなりに力つけてんの、心配心配って一護は過保護過ぎる!!』
「・・・ッ好きな奴の心配して何が悪ィんだよ!!」
『・・・ッ?!』
放たれた言葉を脳内でもう一度繰り返した―。好きな奴の心配、好きな奴と言ったのか彼は。表情を盗み見ても眉間に皺を寄せた顔は変わらない。いや・・・まさか―何を言っているのだろうか。大切な友、はたまた仲間として、どういう意味?
「悪い、頭冷やしてくる・・・」
『あ・・・』
行ってしまう背中、なんで・・・なんでこうなる。私は一護に何を言いたかったの?喧嘩する為に力をつけたんじゃない、一護を傷つける為に本音を言ったんじゃない!これじゃあ伝えたい気持ち、何一つ伝えきれてない―
『・・・待って!!』
「・・・ッよせよ、ちょっと今話せる状況じゃ・・・」
『ごめん!』
後を追いかけて腕を掴む、振り払われるかもしれないと思いながらもしがみつき頭を下げた。ぴたりと止む動き、少しは話を聞いてくれるだろうか。怖くて顔を覗けない、彼の腕を掴む手も微かに震える。ダメ、言うって決めたんだ。自分ばかり逃げていてはダメ!
『ほ、本当はね・・・私も自分の身は、自分で守れるようになったから・・・っ』
「・・・」
声が震える、何でこんなに緊張してるの?相手はいつもバカ言いあってる一護なのに・・・違う、彼がいつも自分を心配してるって知ってるから。それを知った上でこんなこと言うから―
『ま、護られるだけじゃ・・・ないんだよって―』
「・・・」
『だから・・・心配しない、で?』
正直な気持ちを打ち明ける。心配されることだって嬉しいのだ。大事な仲間として思ってくれているようで。けど・・・今までの関係をなくしたくないから・・・胸が締め付けられるように痛い、正直な気持ちを伝えるのってこんなに大変なことなんだ。腕を掴む手は相変わらず震えていて、今振りほどかれたら簡単に離れてしまう。
『でも、心配してくれてありがと―』
他人が他人を心配するのにどれだけ労力を使うか。自分を心配してくれる人がいるだけでどれだけ幸せか。それを踏みにじるなんてこと、絶対にしてはいけない。どんな形であれ、どんな関係であれ心配するということはその人を大切に想っているからである。
「・・・・・・はあ、今回ばかりは絶対許さねえって決めてたのに・・・」
大きな手が頭に乗ると「そんな態度とるとか、ずるいんだよ」とだけ言った。許さないと決めていたのに、ということは許してくれたということだろうか?恐る恐る顔を覗くとそこには困ったように笑う一護の顔。くしゃくしゃっと髪を乱すと重みがなくなる、彼の手は既に下にあった。
「お前の気持ちも、考えてることもわかった。だけど心配すんなってのは無理だ」
『え、なんで?』
「お前だって大切な奴が危ない目にあってたら心配するだろ」
それと同じだ、と言うと再び歩み始める一護。確かに、と頷くがふと気づく・・・・・・大切なやつ?好きな奴だとか大切な奴だとか、鈍い私でも流石に気づきそうだよ。一護の私に対する想い、そういうことだと受け取っていいの?曖昧な言葉、想わせぶる態度に頭を悩ませた。
(コン、何で股間抑えて悶絶してんだ?)
(生身の体に戻ったらわかるよ)
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