044
ドン・観音寺氏が突如として激しく弾き飛ばされたかと思うと、続いて猛烈な爆音が・・・果たして観音寺氏は無事なのでしょうか・・・?テレビ局のアナウンサーが煙に包まれた現場を解説する―
「・・・イ・・・YEAHHHHH!!!ミッション!コンプリイイイイッ!!」
「何がミッションコンプリートだよ!!ナマエまでどっか行っちまったじゃねえか!」
そう、地縛霊が爆発してその場から姿を消したと共に彼女まで一緒に消えてしまったのだ。最後に僅かだがナマエの表情が歪み身体が後方へ傾いた・・・もしかしたらあの地縛霊に何かされたのか・・・地縛霊もそうだが彼女の安否が気になる。
「上だ一護!!」
ルキアの声通り建物の上に目を向ける、そこには虚を形成していく何やら得体のしれないモノ。身体を作り上げたかと思うと顔が出てきて仮面を被れば虚のできあがりだ。そしてその虚の片手には・・ナマエの姿―
「・・・っナマエ!?」
「おや、先ほどのガールが何故あんなところへ?もしや瞬間移動・・・?」
「ちげーよ!あいつに・・・虚に連れ去られたんだ!!」
ぐったりして気を失っているかのように見えたが次の瞬間ナマエは目を覚ます。自分の置かれている状況は把握できていない。
『え・・・?何これ!?』
廃病院の真上から虚に胴体を片手で握られている・・・宙ぶらりんの体勢、いつそのまま真下へ落とされるかわからない。
『いやあああ!怖い怖い怖い!!おおお、お願いだからその手を離さないで!』
「・・・・・・オオオオオォォ・・・」
虚の目を見て言うも言葉は通じるのか唸り声しか出さない。しかし、不思議と意地悪な顔をしているようにも見える・・・。手をぶらぶらさせてはナマエの身体を宙に舞った状態で揺らした。
『ちょちょちょっとおお!怖いから揺らすな・・・ってあ!!』
「・・・ナマエっ?!」
ガチン―と響く痛快な音、一護の瞳には彼女の片腕にかじりついている虚の画。嘘だろ・・・ナマエの腕に・・・腕に虚の口が・・・
「・・・ンの野郎ッ・・・!」
「ボ・・・ボーイどこへ行くのだ?!」
上へ行くまでに時間がかかるなどとは言ってられないと漸く気づき急いで廃病院の中へ走って行く。一護の後ろをドン・観音寺が追う。
「あんたはもう引っ込んでろ!後は俺が片付ける!!」
「それはダメだ、私は逃げるわけにはいかない!ボーイが逃げたまえ!」
建物の中は複雑な構成になっておりどこへ階段が通じているのかわからない。窓ガラスが割れていたり、壁が剥げていたりなど廃病院らしい中―後ろからはドン・観音寺が「逃げろ逃げろ」とうるさい。
「ワケわかんねーよ!なんで俺は逃げてテメーは逃げるワケにはいかねえんだよ!?説明しろ!!」
あまりにもしつこい彼に一護は怒鳴る。それだけ言うからには何か理由があるのだろう・・・と。
「私がヒーローだからだ・・・!」
「(野郎・・・よっぽど俺に殴られたいらしいな・・・)」
ふざけているのかドン・観音寺の返答に拳が震える。しかし、それから続く言葉には一護も固唾を飲み込んだ・・・。毎週時間になるとテレビにかじりつき夕食の後の家族の団欒の中で自分の活躍を観る。子供たちは自分の活躍を観て胸躍らせ悪霊に立ち向かう自分の姿を観て・・・勇気の何たるかを知る・・・!そんな彼らの観ている前で敵から逃げるわけにはいかないのだよ・・・!
「・・・観音寺・・・」
「さァっ!!わかったら早く会場へ戻ってあの怪物に私の必殺技をお見舞いしてやろう!」
「バッバカヤロウ!それはダメだー!!」
外に虚はいる、しかしそこで戦ったら観客が巻き添えになる可能性が―。それにナマエだってあの場所からでは助けにくい。さっきだって攻撃を食らっていた・・・万が一あいつに何かあったら・・・
「・・・ボーイ・・・なんてことだ・・・・・・ユーはそんなことまで考えて戦って・・・」
その時、立っていた廊下の床が盛り上がる・・・虚だ。しかしナマエの姿は・・・どこにもない!
「ヤロ―!あいつをどこにやったあああ!!」
勢いのままに斬りかかろうする一護、しかし振りかざした斬魄刀は天井へ刺さった。身動きが取れなくなり青ざめた彼に虚の口から吐き出した攻撃が命中する。手と柄を固定させたのだ。
「よ・・・よォし、かかって来いやあ!!こうなりゃ足だけでテメーを倒す!!」
意地を貫き通しそのまま戦おうとした一護にドン・観音寺の助けが入る。ステッキで虚を抑えたかと思うと観音寺流最終奥義で斬魄刀の刺さった天井を破壊した。それを好都合に一護は虚に斬りかかるも浅かったようだ。
「ギャアアアアァァッ・・・!!」
「うわ・・・ちょっ・・・待・・・っおい・・・っ!」
痛みに叫ぶ虚は暴れ出し斬魄刀が刺さったまま建物の外へ飛び出した。刀から手が離せない一護もそのまま虚と同時に外へ―
「ちょ・・・ッ高けえってオイ!!コラあ!!ぎゃああああ!!」
高い所で半泣きになりながらも廃病院の屋上へ。虚に振り下ろされ身体を強打した。
『・・・っ一護?!』
「てっ!!・・・え・・・ナマエ!?無事か?!」
漸く彼女の元へ辿り着いた、見たところ大した怪我はなさそう。虚にかじりつかれた片腕も無傷・・・一護の手元へ視線がいった。
「・・・ああこれか、奴に変なモンつけられちまってな・・・」
『ちょっと待って、そのまま動かさないで』
一護の手に自分の手をかざし霊圧を送り込む、すると手と柄を固めていたモノが見事弾けた。浦原さんに教わったことを試してみたのだ―。霊圧の具現化・・・すなわち自分の思うままに霊圧をコントロールすること。一護の手と柄を固めたモノの中に霊圧を注ぎ込み中で膨張させて砕いた。
『上手くいった・・・!』
「な・・・何だよ今の―」
しかしそれを不思議がっている時間も虚は与えてくれずすぐさま襲い掛かってくる。けれど手が自由になった今の一護に怖いものなどない。刀を大きく振りかぶると仮面を一刀両断する、昇華する虚の姿―
「グレイトオ!!素晴らしいぞボーイ!!信じていた!!」
そこで階段を必死にのぼってきたのか息の荒いドン・観音寺が現れる。マントを両手に掲げジャンプをしながら喜びの舞、しかし一護はそれを見かねたように言う。
「あれはモンスターじゃねえ、虚ってんだ・・・普通の霊には胸に鎖がついてる・・・そいつがちぎれ胸に孔があくと霊は理性を失った怪物・・・虚になるんだ」
「そんな・・・私はずっと・・・あの孔を広げて鎖を切ってやれば成仏するものとばかり・・・」
おいおいと泣き始める観音寺、一護と彼女は目を合わせ苦笑い。過ぎてしまったものは仕方がないのだ、どうしようもない。一護も気を使い、励ますがそれでも自分が不甲斐ないという観音寺。
『でも観音寺さん、観客たちはそうでもなさそうだよ』
「?」
「泣くのはもうそのへんにしとけよヒーロー。みんなが・・・手ェ振ってるぜ・・・」
屋上から下を覗けば待ってましたと言わんばかりに観客全員が期待の眼差しでこちらをみている。泣き止んだ瞳にまた涙を潤わせお決まりの台詞を叫んだ―
「ボハハハハーーッ!!」
そこでふと思い出す、彼女・・・ナマエが虚に噛みつかれた片腕のことを。すかさず彼女に近寄り傷を確認しようと腕を掴む。
『いたたた・・・な、なに?どうしたの?』
「そういやお前・・・虚に腕噛まれてなかったか?大丈夫なのか?」
手先から二の腕当たりまでグイと掴んでみるが怪我という怪我は見当たらない。傷さえなくても噛み跡くらいあるは筈だと思ったのだが・・・
『ああ、それね・・・。本当は噛まれてないよ』
「え・・・?」
で、でも・・・?という表情が消えない一護に説明をする。実は虚に噛まれたというのは見せかけだったのだ。噛まれそうになった瞬間腕の周りに霊圧を巻く、これも具現化の一つで自分の描いた通りにコントロールすればできるのだ。故にガチン―という固いものがぶつかる音がしたというわけである。
「確かに・・・すげえ音はしたな」
『一護の手と柄を分解させたのも同じようなモノ。浦原さんに教わったから!』
「・・・へえ」
どう?すごいでしょう、なんて。何気なく話すナマエだが、一護は彼女の急すぎる成長に頭が追い付かない。少し前まで何もできなかった彼女が・・・今は虚退治の手伝いをしている。微力かもしれないがその成長ぶりに驚きを隠せなかった―
(護られるだけはもう嫌だから)
(そんな力いつの間に身につけたんだ)
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