036
夏梨を家に置いてきてからの一護の到着。それにしてはやけに早かった。いや、今はそんなのどうでも良い。彼が来てくれれば勝率はぐんと上がる。
「死神代行だと?・・・そう言われりゃ確かにテメーの方がウマそうな魂の匂いがしやがる・・・」
襲い掛かる虚を上手く避け、ルキアとの接触に成功。死神の姿をした一護はナマエの目の前に着地する。緊張感から放たれたナマエは腰が抜け座り込んでしまっていた。
『・・・い、ちご―』
「・・・何もされてねえか?」
横抱きに抱き上げ少し離れた場所まで移動する。優しい言葉を掛けてくれてる筈なんだけど、どこかその様子はピリピリしている。あ、そういえばここ来る時一護のこと無視して来たんだった―
「オマエは危ないから此処にいろ」
『・・・うん』
「・・・あと、この戦いが終わったら説教だ」
ガシッと頭を掴まれ思いきり力を入れられる。「痛い痛い痛い痛い・・・っ」という悲痛な叫びも無視。いいな?と念を押され小さく返事をした。一瞬で元の場所まで戻りルキアの横に並ぶ。
「気をつけろ・・・あの小さいヒル・・・あれは爆弾だ!」
「なるほどな、それでああやってチャドは足止めされてオマエとナマエは逃げ回ってたってワケか。クソヤローだな、テメェは」
「・・・まあな、だがテメエはこれからそのクソヤローに喰われるんだぜ」
小さい虚を確実に斬りながら倒していく一護。ヒルを受けずに倒せば確かに爆発はせずに済むかもしれない。戦闘を傍観していると前方からルキアと茶渡がやってきた。茶渡はインコと一護の抜け殻を抱えている。ここで初めてインコと対面した、けれどやはり普通じゃない。ユウレイが宿っているのだとすぐに理解した。そしてインコ、シバタユウイチは自分の過去についても話してくれた―
『・・・っ』
酷い話である、母親を生き返らせる為にゲーム形式で逃げ回れ、と。人を殺し、子供を騙して面白がる。許せる内容ではない・・・
「ゴアアアアッ」
前方から虚の悲鳴が聞こえる、どうやら一護も戦闘中に虚から直接聞いたらしく表情は怒りに満ちていた。
「あし足がっ、俺の足イイイ!!」
「少しは味わえてるか!?殺される側の気分ってやつを!!」
足をちぎって空へ逃げる虚、だが一護の方が何枚も上手で上空で最後の一撃を喰らわす。終わりか、そう思いきやド派手な音を立てて現れたのは巨大な骸骨が取りつけられてあるなんとも不気味な門。
「生前に大きな罪を犯した虚は・・・地獄の連中に引き渡す契約になっている!」
ルキアがみんなの疑問に答えた、すると虚の身体は門から出てきた大きな刃に貫かれ動きを止めた。なんとも・・・罪人には適した最期である。
「もう身体に戻ることは不可能だ・・・」
因果の鎖というのが断ち切られ跡形も無いらしい、時間が経ちすぎたのだという。落ち込むシバタ、茶渡もこれには凹む。
「・・・あ・・・案ずるな!ソウル・ソサエティは何も怖いところなどではないぞ!十中八九現世よりも良い処だ!」
「ほ―、言うじゃねえか。居候のくせに」
『きっと信じて大丈夫だと思うよ』
檜佐木さんだって言ってた、とても住み良い場所だと。不安顔なシバタを一護が宥める。少なくとも向こうに行けばママに会える、と―
「さてと、そいじゃ魂葬といきますか―」
シバタのタイミングを見計らい、斬魄刀の柄の頭を額に押し当てた。そうして今更といわんばかりに茶渡はルキアに質問攻めする。苦笑いで対応し瞬時に記憶置換を出せば茶渡の前で煙が上がる。目を瞑ったかと思うとバタリと倒れた。
『すごい便利だね、これ』
「そんなポンポン使ってて平気なのか?」
「仕方あるまい、これを使わねばもっと面倒なことになる」
一護も生身の身体に魂を戻すとムクリと起き上がった。さあて、俺はまだやることが残ってるんだがな―と一言。パンパンと手を払うと感じる視線・・・
「フン、私は付き合ってられぬ。先に戻っているぞー」
『わ、私もルキアと一緒に戻ろう・・・』
「バカ言うな、テメェに用事があるって言ってんだ!」
ガシリと肩を掴まれれば逃げ道はない―否、最初から逃げ道など存在しないのだ。自分があの道を選択したからには・・・・・・
『・・・』
ルキアは去ってしまい、茶渡は近くで寝ている。あとはシバタの魂は魂葬したのでただのインコが籠の中。何も言ってくれない一護は・・・怖い。無言の威圧感は半端じゃない、視線だけで人が殺せそうだ。説教とはアレか?正座させられて長々と話を聞くのだろうか。それとも手をあげられる?仕方ない、今日のところは完璧に私が悪いのだ、彼が怒るのも頷ける。腰に手を当て話し始めた―
「まあ、何だ・・・俺も長々話をして怒るのは得意じゃない」
『・・・じゃあっ!』
許してもらえる?という考えは甘かった。ゴツンと頭部に衝撃がくる、しかも結構痛い。ぼ、暴力ですか?!
『痛ーいっ!!』
「これは黙って学校を出てきた分、次が―」
そしてそれに答える間もなくもう一撃拳骨が落ちる。もう痛みを我慢するのに必死だ。
『・・・っ』
「俺とルキアの言うことをきかなかった分そして」
もう一振り手を掲げた、まだ殴られるのか。痛みを堪える体勢に入る・・・しかしその痛みは訪れず代わりに大きな手の平が優しく置かれた。
「これは怪我もなく無事だった分、何もなくて良かった」
『・・・いちごっ』
ぽんぽんと優しい手つきのそれはナマエの涙腺を崩壊させるには充分で。ボロボロと溢れる涙に一護も苦笑い。どんなに拭いても涙は止まらず流れ続ける。痺れを切らした彼は前回同様後頭部を掴み自身へと引き寄せた。
「だあああもう!胸貸してやるから好きなだけ泣けよ!」
『―い゛ぢ・・・ごおおっ』
涙で濡れる制服、いつになったら乾くのだろうとナマエに気づかれないように心のなかで独り言ちる一護だった。
「げっ・・・拳骨二発?!」
「・・・・・・そう、だけど」
その日の夜、ナマエを家まで送り自宅へ帰ってきた。どんな説教をしたのかとルキアが問い詰めるものだから正直に言った。そしたらこの反応―
「貴様ふざけてるのか!あれだけ危ない目に晒しておいてたったの拳骨二発だと?!もっと効き目のある説教をしてやらぬと彼女の為にならんではないか!!」
「・・・いや、でもよ―まあ、無事だったんだし」
「聞け、ナマエに危害が及ぶことを一番恐れているのは貴様自身であろう。何故それがわからぬのだ!それ故に虚への恐怖心というものが理解できずにまた首を突っ込んだりしてしまうのだ」
バタンッと勢いよく襖を閉めると再び静けさが漂う。ルキア自身もまた、ナマエには特別な感情を抱いている。一護と同じくらい、大切に思っている・・・だから怪我をさせたくないのだ。自分がまいた種に彼女を巻き込みたくないと―
翌朝、機嫌取りも含めデザートのプリンを冷蔵庫から盗み出し彼女の元へ持ってくる。遊子にバレねえように持ってくるのは結構至難の業だったりするのだ。感謝しやがれ!
「おーい、朝メシ持って来てやったぞー。出てこいコラ―」
反応はない、もしやふて腐れて無視を決め込んでいるのか。また一護も気は長いほうではない・・・
「コラァ!!メシだって言ってん・・・!」
しかしそこには昨日怒っていた彼女の姿はなく。もぬけの殻となっていた。一応奥も覗いてみるが姿は一切なし。
「・・・どこ行きやがったんだ?あのボケ・・・、いくらキレたからってメシも食わずに出かけるなんて」
「こらあ!!おにいちゃん!また歩きながらごはん食べて!!ちゃんと下におりて食べなさい!」
「うおおう!!」
突然の遊子の登場にびくぅと驚き、急いで支度を始めた。これがあるから嫌なのだ、ノックもなしにドアをあける。何かがあってからでは遅いというのに。
教室に入ると先ず目に入ったのはたつきや織姫の姿。挨拶を交わしルキアのもとへ歩み寄る。挨拶と同時に謝罪をした。
『ルキア、昨日はごめんなさい。迷惑かけっぱなしで・・・一護にもちゃんとお叱りうけたから・・・っ』
「ほお、ナマエの中では拳骨二発がちゃんとしたお叱りなのだな!」
『・・・っえ?!』
「しっかり聞いておるぞ!全く、あやつは貴様に甘すぎる。私なら一晩中正座をさせて説教をしているところだ!」
全くもってルキアさん、貴方には頭が上がりません。しかし堂々と腰に手を当て席まで立ち上がる始末、ここ教室って忘れてません?教室中の視線をちらほらと受ける中ルキアはビシッと指をさす。
「―というわけで今後、一護もとい私らとは一切関係をとらぬこと!!」
『・・・え?』
「今までのことは水に流し、なかったことにする!一護との関係も立ち切れ!」
『!!』
言い終わるとストンと席に着くルキア。なにそれ、どういうこと?ルキアとの、一護との関係をなくす?もう今後一切関わっちゃいけない?言ってる言葉は理解しているはずなのに頭がそれを受け付けない。私が一護とルキアの言うことを聞かずに勝手な真似をしたから?足手纏いになるからもう切り捨てるの?一護がまだ登校してないのはそのためなのか。こんなことになるなら最初から言うことをきちんと聞いとけばよかった。自分を責める、悔やむ、唇を噛むと鉄の味がした―
(ああ、こんな時貴方の顔が見たい)
(甘やかしすぎただろうか・・・)
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