035
織姫宅で虚に襲われてから数週間が経った。結局私が眠っている間に片付いたらしいが虚の正体はなんと織姫の兄。誤解は解けて自ら斬魄刀を身に刺したんだとか。その後私は歩けると言ったのだが心配する一護におぶられ帰宅。翌日、織姫とたつきは記憶置換のおかげで記憶は他の物にすり替えられていた。最近身の周りで起きた中では一番の出来事。
「チャドは!?」
「え?いや・・・み・・・見てなけど・・・」
朝の予鈴が鳴り終わり数分置いて教室の扉が開いた、一護だ。ギリギリセーフだね、と言おうとした小島くんの肩を掴み開口一番にそれ。どうした、何だってんだ?
「そういやまだ来てねえみたいだな。めずらしいな、あいついつも始業十分前には席についてんのに・・・」
何を血相を抱えているのかと思えば何やら友人茶渡くんの心配。確かにまだ席にはついていない、教室にも来ていない病欠だろうか。しかしそれはないだろうという浅野くんの言葉も耳に入る。
「ははーん、さてはオマエもあのインコで遊びたくて・・・あ!?おいコラ一護っ!!」
急に教室を呼び出す一護、それはもう猛ダッシュで。チャイムが鳴っている、そんなに一大事なのだろうか。越智先生が教室に入ってきた。
『ねえ、浅野くん、インコって何のこと?』
「ん?ああ、この前チャドがよく喋るインコを人にもらったらしいんだ。真似するだけじゃなくて一人で喋るんだそいつ。一護の奴そんなにインコが気に入ったのか?」
ちがう、絶対にそんなわけない。何かあるんだ・・・きっと茶渡くんを危険に晒すような何かが。だって危機迫る一護のあの表情・・・そう考えていると視界の端に何かがうつった、ルキアだ。こそっと教室を出て行こうとしていた彼女を引き止める―
『ルキアも行っちゃうの?』
「ああ、あやつを一人にしておくわけにはいかぬからな。私がおらねば死神化はできない」
『・・・そっか』
「案ずるな、お前はここにいろ。私ら共で何とかする」
そう言うと教室をバレないように出て行った。案ずるなって言われてもな・・・。状況も全く把握できてないから何が起こっているのかがさっぱりだ。一護の尋常じゃない焦り様、よく喋るインコ、茶渡くんの失踪、ルキアの合流。死神化できないと言っていたところからきっと一護は死神化する。死神化するってことは虚がいる可能性がある。その虚は何故いると断定できる?それはわからない、きっと痕跡でも見つけたんだろう。そして茶渡くんの失踪、もしかすると虚に狙われているのでは?でも霊感があるなんて聞いたことない、というか茶渡くんとまともに話したことがない。よく喋るインコ・・・これが一番不可解だ。
『・・・!』
真似するだけじゃなくて一人で喋るんだそいつ。浅野くんの言葉が木霊する、ありえない喋るインコなんているわけない。ユウレイにでも乗っ取られているのか。詳しいことはわからないけど何となくは状況が把握できてきた。けれど、だからといって私にはどうすることも・・・ふと右手を見つめてみる。織姫のお兄さんに襲われた時、この手でたつきを助けたのは確かだ。
ナマエが霊圧を外に放ってくれたおかげで居場所が特定できた。助かったぞ・・・
あの日ルキアに言われた言葉、役に立つこともできた。心に決めるとそっと教室を抜け出す。
『・・・ルキアに怒られるかもな』
校舎を抜け、住宅街を走る。そこでぴたりと足を止めた・・・ちょっと待てよ決心して出てきたのはいいけど肝心なことを忘れていた。一護とルキア、茶渡くんだってどこに行ったかわからない!!
『・・・どっどうしよ!私のバカ!!』
頭を抱えてうずくまる、こんなことしてたって意味ないのに。すると前方から誰かが走ってくる足音が聞こえた。十字路の角を曲がりやってきたのは・・・一護の姿。お互いに驚いて声を上げる。
「・・・な、ナマエ!オマエここで何してんだ!」
『一護!よかった、探してたのって・・・夏梨ちゃん?』
一護の腕の中にはぐったりしている夏梨の姿。とてもじゃないが元気そうには見えない。一護似のあのポーカーフェイスもそこにはなかった。どうしたんだろう・・・
『茶渡くん探してるんでしょ!ルキアはどこに行ったの?』
「は?なんでそれを・・・っていうかお前は関係ねえんだ、学校に戻れ!!」
『嫌だ!少しでも役に立ちたいから来たの!』
ギリっと歯を食いしばる一護。思い通りにいかない時にする仕草だ。その間にも夏梨の息はあがっていく。かなり苦しそうだ。
「わかった、なら俺について来い!夏梨を家に連れてった後ルキアを追いかける!」
『・・・』
一緒にいることが多いせいか、彼のことがわかるようになってきた。怪我させたくない、とか巻き込みたくないとか。そんなことを思ってるに違いない。
『夏梨ちゃんを家に連れ戻した後、私を学校に置いてくつもりでしょ?!』
「・・・っ!そ・・・・・・そんなわけねえだろっ」
図星をつかれたばかりに言葉をつまらせる。一護はナマエの安全を考えて学校に連れ戻す気でいた、わざわざ虚の行く手に向かわせる必要がない。危険を冒してまで人助けをする必要がないと判断したのだ。それを理解した上でナマエはその策を否定する、一護の気持ちは充分だ。
『はやく・・・早く夏梨ちゃんを家に連れてってあげて―』
「なっ!おい、ナマエ!ナマエ!!」
自分が来た方向へ走りだす、きっとこっちから来たからこの先にルキアがいるとふんだのだろう。いくら呼んでも足を止めないナマエに苛立ちながらも家を目指して走りだす一護。
「クソっ・・・あいつ・・・、覚えとけよ―」
彼女への怒り、この先への不安を糧に足を速めた。直感で進む町並み、虚の気配などどこにもない。いつもならこうゾクリとするものがあるはずなのだが・・・。そこで前方の制服姿の女性に気づく、ルキアだ!追いついた!
『・・・ルキアッ!!』
「・・・?ナマエ?オマエが何故ここに?!学校にいろと言ったはずだが・・・」
一護と全く同じ反応に苦笑い。きっとこれは追い返されるパターンだ。それでもここで帰れば一護を振り切ったのが水の泡。
『私も役に立ちたいの!一護の、ルキアの力に・・・っ』
「たわけ!!何を勝手なことを・・・っ。貴様の力でどうにかなるとでも思ったか!」
『思ってない!思ってないけど・・・。ルキア言ってくれたじゃない』
「私が霊圧を外に放ったから居場所が特定できて助かったと―」振り返り、そんなことを言ったなと思い出すルキア。けれどあれは現場に遭遇した為に起こったことで、今回とはまた話が別だ。みすみす怪我をさせてしまうかもしれぬところに行かせるわけにはいかん。
「状況も把握できておらぬ癖に何を言う!早く帰らぬか!!」
『全部じゃないけど少しならわかったつもり、茶渡くんが持ってるインコに何かあるんでしょ?それで茶渡くんが何者かに・・・虚に追われてる』
正直ここまで話を読めたことに驚いたルキア、誰から聞いたわけでもあるまいし。この分だといくら言っても聞かなさそうだと判断した。
「もう着いてきてしまったのなら仕方あるまい、よいか?私の傍を絶対に離れるな!!そして自分の身が危ないと感じたらすぐに逃げろ?私に構う必要などない!わかったか!」
『・・・っわかった!』
なんだか、自分を受け入れてくれたみたいですごく嬉しかった。そんなわけないのに、自分なんか一護に比べたら何の役にもたたないのに。上辺だけでも繕ってくれたルキアに感謝する。
「ぐへへ、何の友情だあ?あん?」
『!』
何の前触れもなしにきた虚。ルキアさえも茶渡を追うのに気をとられて気づかなかったらしい。奴の腕が空中を切る。
『ルキアっ!!』
「・・・っ大丈夫だ、余計な心配はするなと言ったはずだ!」
「へぇ・・・一発じゃ死なねえか・・・中々やるじゃねえの・・・。それにアンタら俺が見えてるみたいだしよォ、一体何者・・・」
すると飛び上がったルキアの膝が虚の顎にクリーンヒットする。「破道の三十三!!蒼火墜!!」となにやらよくわからない呪文を唱えると虚の顔面で爆発が起きた。す、すごい・・・アレはなんだろう、死神の技だろうか。しかし煙はみるみる内に晴れていき元の姿が露わになる。
「へへ・・・今の術知ってるぜ・・・死神の術だろ・・・っ!!」
『はあっ!!』
グオ・・・と一瞬よろける虚。私ができる唯一の対虚の技、霊圧を手から放ったのだ。掛け声をすると前よりも威力が上がった気がする。だが、大したダメージは与えられなかったようだ。
「何だァ今のは・・・ん?よく見りゃあアンタの方がウマそうだな・・・」
『・・・っ!』
「・・・っ、な!何をしている!逃げろ、ナマエ!逃げるのだ!!」
ルキアの焦るような声が響き渡る、虚がもう既に目の前にきていた。いざ、そうなると人間という生き物は身体が動かなくなるらしい。どうしよう、もう奴の口は開いている・・・
「ゴアアアアッ!?」
『?』
一瞬にして虚が目の前から消える、代わりに現れたのは茶渡くんだった。どうやらこちらに気づいて助けにきてくれたらしい。きっと虚は見えていない、勘で殴ったのだ。
「ナマエ、良いか!そこに隠れておれ、私がいいと言うまで出てくるな」
『・・・は、はいっ』
やっぱりダメだ、自分・・・きっとルキアにも呆れられたんだろう。彼女がやられる前に、と思い咄嗟に攻撃したけど結果あんなものだったし・・・。虚に狙われると身体は動かないし・・・足手まといにはなりたくない。
「私の心配など不要だ!ヘマはせぬと・・・・・・約束した!」
そうルキアの声が聞こえて様子を窺う。そこには小さい虚に挟み撃ちにされている彼女の姿。何だ、アレは・・・。すると小さい虚は口を開けて何かをルキアにぶちまけた。そして元の虚が舌を鳴らすとそれらが爆発する。
『・・・っルキア?』
「おお?アンタか、どこに行ったか探してたんだぜえ?ヒルの餌食になってもらおうか」
『あ、まずい・・・』
思わず声を出してしまい居場所を気づかれてしまった。ルキアを追いかけまわしていたのと同じ小さい虚が左右に現れる。
「It’s Show Time!」
そう言うと同時に小さな虚は口を開ける、ヒルがナマエめがけて飛び出る。それをぎりぎり避けると小さい虚は追いかけてきた。ルキアと逃げた方向が別な為、彼女がどんな状況かわからない。あ、でもちょっと待てよこれだけ小さい虚なら・・・
『・・・やった』
右手に集中して淡いオーラを纏わせる、大きい虚には通用しなくても小さい虚なら倒せるかもしれない、そう賭けたのだ。霊圧を次々に放出する、その度に虚は消滅していった。これでルキアを助けられる!
『ルキアっ、今助けるよ!』
「・・・っナマエ!」
彼女に纏わりついていたヒルを消滅させると近くにいた小さい虚も霊圧で倒す。これでとりあえずは安全だが、元々はあの虚がいるからヒルはいくらでも作りだせる。結局この虚をどうにかしなければ助かる方法はないのだ。
「へへへ、小さい虚はいくらでも出せるぜぇ!」
「・・・っ」
どんどん増える小さい虚の数。ここまで多いと倒すまでにヒルを浴びる可能性がある。どうする、ルキアと背中合わせになるも彼女は怪我をしている。私の力だけでなんとか・・・とそこで黒い影が掛かる。
「黒崎一護15歳!!現在死神業代行!!」
『・・・っ一護!』
「死神と追いかけっこがしてぇんなら・・・相手が違うんじゃねぇか!?」
(やっと・・・追いついたっ)
(ああ、助かった・・・)
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