他人の心配を他所に無茶なことばかり、かと思いきや少し目を離せばどこかへ行ってしまう。お転婆な彼女をなだめるかのような、少しだけ意地悪な軽口。けれどそんな顔で見つめれたら怒るものも怒れない。頭を撫でていた手は頬に降りてきた。
「意外だな、いつもならとっくに逃げだしてるだろ」
『わ・・・私だって、ちゃんと・・・・・・一護に向き合いたい、から』
こんなに優しくて甘い空気の一護は初めてだ、愛おしそうに見つめる瞳がナマエを包む。滑るように撫でる頬は大切なものを扱うかのように。そうか、意識がある時に会った最後は彼に触らないで、と手をはね除けたのだった。どうりでこんな優しく・・・確かめるかのように触れるのか。電話では謝り損ねた、大変酷い言葉を浴びせて暴言を吐いたんだ。きちんと謝罪をしたい。頬にあてがわれる彼の手に自分のそれを重ねる。
『・・・私、一護に触れられても嫌じゃないよ』
この間はごめん。いつでも触っていいから、そう伝えるとぴくりと動く眉。その言葉に従うかのように無言のまま頬から首に滑る手。首筋からうなじにかけてゆっくりと撫でると感じたことのない感覚に少しだけ声が漏れた。その瞬間我に返ったかのようにぱっと手を離す一護。後頭部を捕まれぐいと引き寄せられる。
「お前・・・っ、言い方考えろよ・・・」
触っていい、その言葉が聞こえたと同時に首元に滑る手。本能だった、何も考えずに動いていた。想いを寄せる女から触れてよいと許可が下りたのだから。彼女に触れたい、その滑らかな肌にもっと手を這わせていたいと。
『い・・・一護、苦しい・・・よ・・・』
「うっせえ、黙ってろ」
彼の胸に押し付けられて表情が見えない、けれど焦った声にきっと顔は赤いんだろうなと想像がつく。ちょっと乱暴な、少しだけ口が悪い一護に安心した。いつもの彼である。そしてチラリと見える金髪。
「喧嘩しよる思うたら次はイチャついとんのかい!忙しい奴らやなー!」
『うわああ、ひ・・・ひよ里ちゃん・・・?!』
「真子が様子見て来い言うから来てみたら・・・あかんわ、ハゲの抱擁なんて見てられへん」
おえーと言いながら嫌味を。は・・・ハゲ?一護のことなのか、彼女に声を掛けられて急いで解いた腕に気まずそうな表情の一護。そ、そうか・・・きっとみんな私たちを待っていたんだ。岩陰から向こうを覗くと椿鬼と戯れている織姫。
『と・・・とりえあず今日は帰るね・・・!』
「あ・・・おい!・・・待てよ!」
立ち去ろうとする腕を捕まれ、動きを止められる。振り向けば少しだけ苦い顔をした一護。帰るということは死神が待つ家に行くのだろう。嫌だった、奴に渡したくない。明日帰るとわかっていてもナマエをとられるような気がして。彼女に言っても無駄だとわかっても牽制したくなる。
「死神がどう思ってるのか知らねえけど、お前のこと一番理解してるのは俺だからな」
その座を譲る気はない、そう伝えとけ。それだけ言い残し腕を解放した。
(お前の全てに触れたいよ)
(触れる手があんなに優しいなんて)
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