後ろの席にプリントをまわす時や小テストの採点をしたり休み時間に話をしたり。私の視線が後ろに向くことは日常茶飯事であるけれど、これは私に限らず起きる現象なのだろうか。ああ、まただ。
私は即座に視線をずらして何でもないふりをした。意識したことはなかったが同じクラスなら毎日顔を合わせるのは当たり前で無意識に目が合ってしまうこともごくごく普通にある筈。しかし彼がいる方に顔が向くと絶対的に視線がかち合ってしまうと言うのは、つまり、仁王雅治は私を見ているのでは?と、そんなことはないと思うけど。
先日から立て続けに彼と必要以上に接触している所為かどうも気になってしまう。どうか私の被害妄想でありますようにと願うばかりだ。
「ねえ」
「ん?」
「仁王が気になる?」
「はあ?」
前の席に座っている彼女はここ最近の私の意思に関係なく起きる謎の見つめ合いを楽しんでいる様子で大変気に入らない。
私が口を尖らせて反論すると彼女は必死過ぎ、と笑った。そりゃあ必死にもなるけど。ムカつく。
「仁王かわいそ」
「なんで」
「だって好きなんでしょ」
けろりと言った言葉はさも当たり前のように、知らない方がおかしいと言うようで。
好き、って。
「よかったじゃない。顔も悪くないし」
「有り得ない…」
「うそお」
「私あいつ嫌いなんだけど」
「えっそうなの?」
「そうだよ」
「もうなんかされたの?」
それは、と言葉が続かない私に彼女はねえねえ、と軽快に笑う。どうやら今まで彼女には私が単に素直になれない恋い焦がれた乙女に見えていたようで絶望した。私の気持ちは色々と置いてけぼりを食らっている。
「ない。とにかくない」
へえ、と探るような目付きの彼女を睨み付けるがまったく効かない。照れ隠しなんじゃなく私はほんとに彼が嫌いなのに。
確かに隣で授業を受けた時、意外に普通の人だな、と思ったり貰った飴が美味しかったり言う程悪い人ではない気がしないでもないけど。
追試になったことは腹を立てたけれど今も怒っているかと聞かれたらそんなことはどうでもよくなっていた。言われなければ忘れていたくらいに。あの日の私は機嫌が悪かったんだろう。
自分の中での彼がよくわからなくなってきているのは少ないながらも事実。けれど私が彼に好意を抱いているかどうかはまったく別の話である。
「苦手なんだよね」
「ふーん」
彼のことばかり考えている気はするけど、これはそんな甘酸っぱい感情とは離れている、はず。苦笑している彼女には悪いけど私は彼が嫌いだ。嫌いと言うかどうしていいかわからないのだ。それに、
「好きになる理由がないもん」