常勝。
常に掲げているその言葉に似つかわしくない結果を出せば正レギュラーの地位は簡単にこの手をすり抜けてしまう。と言う重圧はこんな自分ですらある。
それが現実になったらと恐ろしくなったある日、周りの慰めの言葉も聞かず、逃げるようにコートを後にした。自分の惨めな姿なんて誰にも、ましてみょうじになんて絶対に見せたくない。
校舎を出ると冷たい雨が降り始めていてすっかり傘を持たない癖のついたお調子者に舌打ちをした。そんなことはお構いなしにとコンクリートとブレザーは徐々に色を濃くしていくのだから気は滅入るばかりだ。
あまりに落ちた気分に雨のふりをして泣いてしまおうか。もし俺がレギュラーから落ちたらみんなは気を遣うだろうか。今までと同じ態度でいてくれるだろうか。ああきっと感傷的になっているからこんなことを考えてしまうんだ。
荷物と水を吸った制服が前に進む気力を奪っていく感覚にそろそろ本当に泣きたくなってきて俯いた。誰も見てやしない。それよりも今は沈んだ気持ちをどこかに、何でもいいから投げ出したかった。
「…ちょ、おい!」
雨粒が地面を叩くだけの無機質な音を遮断した聞き覚えのある声。いきなり横槍をさしてきた怒鳴り声に、驚きに滲んだ涙が引っ込んだと同時に顔を上げると傘を傾けたみょうじが酷く怒った顔して目の前に立っていた。
「シカトすんな」
いい加減持ってきなよ、と文句を言いながらみょうじは自分のハンドタオルを俺の顔に押し付けた。既に帰宅している筈のみょうじがどうしてここにいるのか。
でも今言うべきはそんなちっぽけな質問ではなく、
「…みょうじ」
「うん?」
今泣いていたら弱い自分を認めてしまうことになっていた。臆病風に吹かれてラケットを手離したかもしれない。
「…ありがとな」
「まったくもう、」
それほどに自分は弱くて、情けない。