見慣れてしまった彼の困ったような笑顔に私はただ溜め息を吐きながら、内心自分を叱咤しながら自分の傘を手渡すのだった。
彼の温かい手が触れる度どきっとしてしまうこと以外は彼に大分慣れたと思う。それは私が如何に不機嫌でぞんざいな態度でも気にするでもなく彼が接してくるからだと気付けばそんな態度の自分がとてつもなく子供な気がした。そしてそれを内心彼に馬鹿にされているのでは、と考えてからは半ば意地だ。それもどうなんだろう。そんな無駄な葛藤を彼がしるよしもないのに。

雨が降って彼が傘を忘れて一緒に帰るのはこれで何度目だろうか。1回目は横の体温が気になって仕方なくて、2回目は歩幅を合わせてくれてるこ気付いて、3回目は彼の家族構成を知って(弟さんもこんな感じなのかとはさすがに聞けなかった)、4回目は柳生君の眼鏡の話をして、と緊張することも警戒することも馬鹿らしくなってきた頃いつものお礼にとお茶に連れて行かれた。遠慮なく頂いたケーキは美味しかった。慣れとはとても恐ろしいものだ。
そして今日、地面を叩く雨音を聞きながら昇降口に来た私はとうとう彼を探してしまった。同じクラスなのに彼は教室で私に声をかけることはない。目線を配って発見した白髪も私を見つけて歩み寄って来る。湿度に負けた髪が少し揺れていた。
「帰りか?」
彼は笑ってから外を仰いで、もう決まりに決まった言葉をうっかり、と表情を歪ませて言う。ここまできたらそんな白々しさは嫌味でしかない気がする。
「傘、忘れた」
その言葉に私は正直すごく困る。傘を忘れたのは仕方ないしずぶ濡れで帰れとまでは思わないけど、わざわざ私じゃなくたっていいじゃないか。それを遠回しに言ったこともあったが上手くは交わされてそれっきり。断ろうにも外は雨。なけなしの良心が許さないのは自分の偽善、とモヤモヤ考えているうちにこの沈黙と彼、仁王雅治の視線に絶え切れず私が言ってしまうのも決まりに決まった言葉。
「…しょうがないな」
「助かる」

今回も体よく利用されてしまう。そんなことはわかっている。傘を傾けてくれたり転ばないようにと気を配る様子と、傘を受け取る彼の笑顔に少なからずほだされ始めている私にも非があるのだ。まったく単純な奴だ。



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