「ちょっと」 「あァ?」 「何してんの?」 朝起きて1番最初に目に飛び込んで来たのは 「お前にゃ関係ねェ。」 大嫌いな幼なじみの顔。 昔はそんなことなかった。 世間一般の幼なじみのように仲が良くてお互いの家を行き来するのなんて当たり前だったし、いつも並んで歩いていた筈だ。 一体、いつからこうなったんだっけ。 「勝手に人の部屋に入って来ないで。」 寝起きで機嫌があまりよろしくない所にこんな奴が居れば私の機嫌は最高潮に悪くなることくらい、こいつにだって分かっている筈なのに。 「包帯が足りねェんだよ。よこせ。」 私の言葉も無視してがさがさと部屋を漁り続ける幼なじみ。 全く迷惑以外の何物でもない。 「知らないし。自分の家でどーにかしてよ。」 幾ら声をかけても無視するこいつに嫌々ながらも仕方なく名前を呼ぶ。 「晋助、」 途端にぴたりと漁るのを止め、驚いたような顔をして振り向く。 「…んだよ。」 「学校、アンタもあるでしょ。私遅刻したくないし着替えるから出てって。」 「チッ。」 そう言うと渋々窓から出て行った。 晋助の出て行った窓の鍵を閉めカーテンを引いて完全に遮断する。 「なんで気軽に来るわけ?」 始めはほんの些細なことだった気がする。 もう思い出せないような本当にくだらないこと。 小さい頃私たちの間には約束があった。 それは『絶対にお互いの部屋の窓の鍵は開けておくこと』。 この窓は私と晋助を繋ぐ道だった。 でもほんの些細な喧嘩から意地を張った私が部屋に閉じこもり鍵をかけてしまった。 謝る勇気もきっかけもなかった私はそれ以来毎日窓の鍵を閉めるようになった。 「はぁ…。」 つい溜め息が出る。 昨日は春らしからぬ蒸し暑い夜で堪えられなかった私は窓を少し開けて寝たのだ。 今更ながらにそれを後悔した。 「なんで私が朝からこんな思いしなきゃなんないわけ?」 それもこれも、全部あいつの所為だ。 カーテンを引いた窓を一睨みして私は部屋を出た。 「おはよー。」 「おはようアル!」 「あら、なんだか今日は元気がないわね。大丈夫?」 「うん、平気。心配してくれてありがとー。」 教室に入るといつもの2人と挨拶を交わす。 「なまえ、なんか変なモンでも食ったアルか?」 「なまえはチャイナとは違いまさァ。」 「出たアルなサディスト!」 こんな風にこのクラスはいつも賑やかでとても居心地が良くて大好きだった。 ただ一つ、あいつが居ることを除けば。 「お〜いお前ら席に着けー。」 みんなやる気のない声に従い大人しく席に着く。 この人は教師としてはダメダメだけど、いざとなったら頼りになるからみんなから慕われてる。 「欠席は〜…っとまた高杉かよ。」 そんな先生がボリボリと頭を掻きながら見据える先には無人の机。 チラリと目をやるとニヤッと笑う先生と目が合ってすごく嫌な予感がした。 「なまえ〜、お前幼なじみだろ?どーにかして高杉教室に連れて来てくんね?」 予感は的中。 なんなんだろ、今日は厄日? 朝からあいつが部屋に居るわ連れて来いなんて言われるわ、最悪。 「お断りします。」 わざわざ丁寧に全力で断ると先生はまたニヤリと笑って爆弾発言をする。 「連れて来ねーなら国語の評点1にすっぞ。」 「職権乱用ォォー!!」 「何とでも言え。」 それでいいのか、人として。 こんなにこの教師を憎いと思ったことはない。 「もう絶対先生って呼ばない。死ね天パ。」 「ちょっ、いくらなんでもそれは酷すぎない!?」 「あーもー本当に最低。」 「スルーかよ!」 とにかく最悪な展開になってしまったから、きっとこれ以上の不幸はないはず。 「じゃ、行って来まーす…。」 無理やりポジティブに考えて教室を出た。 「おー。がんばれよー。」 後ろでひらひらと手を振っている先生が、ニヤリと笑ったのにも気付かずに。 「なんで私がこんなことしなきゃいけないわけ?」 ブツブツ未だに文句を言いながらも足はしっかり屋上に向かう私を褒めてあげたい。 同じクラスと言っても晋助は全く教室に来ないから安心していたのに。 まさかわざわざ自分から呼びに行く日が来るなんて思ってもみなかった。 考えてる内に屋上に来てしまいもうどうにでもなれと半ば投げやりな気持ちで扉を開けた。 「うわぁ…。」 途端に、目の前に広がる吸い込まれそうなほどの青空。 初めて見る景色に、ついはしゃいでしまう。 「うわぁ…何これ、すごい!」 「ククッ…餓鬼かお前ェは。」 声にはっと気付いて慌てて顔を向けると 「…っ高、杉…。」 人を馬鹿にしたような笑みを浮かべた大嫌いな幼なじみが立っていた。 → |