「ええい、気にせず寝ちゃえ!」


とりあえず小屋の中にある蓙のようなものの上にころりと寝転がる。眠たくもないけど、空腹を忘れるには寝るしかない。


「ううん…」


ベッドもなく、薄い蓙を轢いただけの板の間は固く、冷たい。何度寝返りを打ってもうまく眠れない。


「仕方ない、寝よう」


無理矢理目を瞑ってしまえば、不思議と眠気がやってくるものだ。
うとうとと夢と現の間でさ迷っていると、ギィ、と小屋の扉が開く音がした。


「え…誰…?」


入ってきたのは赤い髪の男性。ちょっとふらふらしてる…?


「えと、あの、勝手に入っちゃってすみません…!」


がばりと頭を下げると、男の人はスッと手を下げた。…あれ?なんか刃物握ってない?気のせい?


「えと…怪我、ですか?」


びくびくしながら声をかけると、男の人は無言のままどさりと私の隣に腰を降ろした。そのまま上半身を横向きにくたりと横たえる。かなりきつそうだ。


「えと…何か、手当てとか、お手伝いできることありますか?」


そっと着ていた上着を脱いで彼に掛けながらそう訊ねれば、彼は少しだけ思案した後ぐいと私の手をとって背中に当てた。


「うわっ…!」


手のひらに、ぬめりとした感触と、冷たい金属の感触が当たる。な、なんか刺さってるみたい…!


「わわ、痛いですよね!?大丈夫ですか…?」


驚いて思わず手を振りほどいてしまったけれど、なんとか傷には当たらずに済んだみたいだ。絶対痛いだろうし、手に付いた血は気持ち悪い。


「抜けない…んですか?」


私の問いに男性はこくりと頷いた。どうやらギリギリ手が届かない位置らしい。


「抜けってことですよね…?」


震える声で訊ねると、再びこくりと頷かれた。


私は…


覚悟を決めて手当てをすることにした

やっぱり怖いから逃げ出した













































「っ…ごめんなさい!」


やっぱり、怖くて無理だ。この人には本当に悪いけど、間に合うかわからないけど、他を当たってもらおう。


「誰か、呼んできま…す…?」


立ち上がって小屋を出ようとした途端、ごぽりと口から何かが溢れた。
あれ?なんで真っ赤なの?なんで私の口から真っ赤な液体が出てるの?


「お、兄さん…?」


ゆっくりと振り向くと、背後にお兄さんが入ってきた時のように何かを構えて立っていた。

そのうち一つは、私の胸に。

ああ、此れは他人を見捨てようとした罰かもしれない。


「ごめん、なさい…」


お兄さんに謝りながら、私はゆっくりと目を閉じた。



【GAME OVER】

(刺殺END)

これまた後味悪くてごめんなさい(笑)
最初からやり直したいお嬢さまは此方へどうぞ
























































「い、痛いでしょうけど…ごめんなさい!」


私はお兄さんに謝りながら、持っていたハンカチで手を包んで思いきり金属を引き抜いた。


「うわっ…!」


ぷしゃあ!と鮮血が吹き出て顔に少しだけ掛かる。鉄の匂いにクラクラする。


「ぬ、抜けました…!どうしたら…」


まだドクドクと止まらない血に慌てて、ハンカチで傷口を抑えるとお兄さんがびくりと震えた。い、痛いんだよね…。


「えと…これ、刺さってました…」


片手で傷口を抑えながら刺さっていたものをお兄さんに手渡す。
これ、明らかに形が…手裏剣みたい。本物なのかな?折り紙じゃない手裏剣なんて初めて見た。


「………………」


お兄さんは無言で私から手裏剣を受けとると、代わりに小さな貝殻みたいなものを手渡してきた。ぱかりと開くと、なんだかドロリとしたキツい匂いのものが入っている。


「もしかして…お薬ですか?」


こくりと頷くお兄さん。


「これを…塗れと?」


また頷くお兄さん。
仕方ない、このまま傷口を抑え続けとくわけにもいかないし…。


「し、失礼します…」


ほとんど出血の治まってきた傷口に、少しずつ薬を塗り込んでいった。




「ふう、なんとか終わりました…」


あれから、お兄さんの無言の指示に従って手当てを済ませ、比較的綺麗な布を包帯替わりに巻いてお兄さんは蓙の上に寝転がった。
私の上着を掛けてあげると、前髪に唯一隠されていない口元がくいと上がった。そのまま、お兄さんは動かなくなった。どうやら寝たらしい。


「よかった…」


だいぶ容体も安定しているようだ。あれだけ苦しそうに息が荒かったのが嘘のように、穏やかな寝息を立てていた。


そんなお兄さんを見て、私は…


身体の具合が心配だし、もうしばらく此処に残ろう

此処に居ても邪魔かもしれないし、とりあえず小屋を出よう































「いつまた悪くなるかわかんないし…しばらく此処に残ろう」


どうしても彼の様子が気になる私は、眠っている彼の横で(なにもかけるものがなかったのでそのまま)横になった。
隣をついと見れば、包帯代わりの布を巻いた広い背中が見える。


「早く、治りますように…」


そう呟きながらそっと彼の背中に手を伸ばすと、その背中に触れる直前で彼がくるりと此方を向いた。


「えっ…?」


そのまま、何故かじっと見詰められる。伸ばしていた手を引こうとすると、ぱしりと掴まれた。


「あ…お兄さん、」

「   」

「へ?」


お兄さんの口が、ゆっくりと動く。その形を拾おうと必死に見ていると、手のひらにくすぐったい感触がした。どうやら、口の動きに合わせて文字を書いてくれてるみたい。


「ふ、う、ま、こ、た、ろ、う…?これが、お兄さんの名前?」


こくりと頷いたお兄さんは、私の手を掴んでいた手で今度は私の頭をぽふりと撫でてくれた。
その暖かさに、ゆるゆると視界が歪む。

ああ、私、不安だったんだ。


「ありがとう、風魔さん…」


私の言葉に応えるように、お兄さん…いや、風魔さんの指が優しく私の涙を拭ってくれた。





【風魔小太郎ルートへ】

此処で終わります。
言葉はなくとも、伝わるものってたくさんあると思います。

さて、最初から進めたいお嬢さまは此方へどうぞ











































「もう、大丈夫かな」


お兄さんも安定してるみたいだし、今度は私が自分のことをなんとかしなくちゃ。


「じゃあ、しっかり休んでくださいね、お兄さん。私はもう行きますから」


寝てるとわかっていてもつい声をかけてしまうのが人間というもので。
眠っているお兄さんにそう声をかけて、そっと小屋を抜け出した。


「うー…寒いな…ん?」


しばらく歩いたところで、ガサリと何か音がした気がした。辺りを見回しても、何も見えない。


「んー…おっかしーな…ってうわあ!!」


正面に顔を戻すと、目の前に先程のお兄さんが立っていた。びっくりしすぎて心臓がばくばくいってる。


「あれ?お兄さん…羽生えてる?すご!!」


よく見ると、お兄さんには黒い羽が生えていた。に、人間じゃなかったのか…?


「お兄さ…うわっ!」


突然目の前まで近付いてきたお兄さんから距離を取ろうとすると、がしりと腕を捕まれてひょいと担がれてしまった。


「ちょ、何すん、の…」


抵抗しようともがくよりも早く、首の後ろにトン、と軽い衝撃がきて、私の意識はすとんと落ちていった。



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