「とりあえず、もうちょっと散策してみよう」


辺りを見回っていると、なんだか人が通ったような形跡のある道を見つけた。
村から真っ直ぐに伸びているその道は、さっきと同じような山道に繋がっている。

このまま人の居なさそうな村を探し回るより、道を進んでみて人を探してみようかな…?

でも、辺りはずいぶんと薄暗くなってきた。こんな暗い中、夜道を歩くのは危険かもしれない…。


「どうするかな…」



私は…


こうしてても仕方ないし、行ってみよう!

やっぱり危ないし、行くのはやめて休もう










































「とりあえず、行かなきゃなにも始まらないよね!」


勇気を出して夜道を進んでみることにした。


一歩一歩が酷く重く感じる。肌寒さも増してきた。


「やっぱり、失敗だったかな…?」

「そうだなァ、失敗だろうな」

「へ?」


独り言に返ってきた返事に思わずすっとんきょうな声があがる。辺りをキョロキョロと見回すと、ガサガサと草木が揺れて明らかに柄の悪そうな人たちが現れた。


「こォんな夜道を女1人で歩くなんざ…」

「襲ってくださいって言ってるようなモンだぜ?」

「しかも、そんなに足を出して…誘ってんのかい?」

「くぅぅ、早く犯っちまいてぇ!」


ぞろぞろと現れた男たちは手にギラリと光る刀を持っていた。銃刀法違反、という言葉が頭を掠めたけど、今はなんの役にも立たない。
ボロボロの着物らしきものを身に纏わせているだけの男たちが、じりじりと近付いてくる。

どう見たって、逃げ場はない。


「そうそう、観念しな」

「大人しくしてりゃァ、そんなに痛い目にはあわせねェからよォ」

「たぁ〜っぷり可愛がってやるだけさ」


ギャハハハ!と男たちの笑い声が響く。恐怖で声も出ない。本当に怖いときに声が出なくなるって、本当だったんだ。


「物わかりのいい嬢ちゃんだなァ」

「少しも騒がねぇぜ」


ニヤニヤしながら男の一人が腕を掴んできた。途端に、ぞわりと肌が粟立つ。


「イヤぁっ…!離して!」

「おいおい、今更無駄だって」

「そうそう、大人しくしてな」

「ひっ…!」


首元にギラリと光る刀を当てられ、暴れることも出来なくなった。


「ひひ…すべすべだねぇ」


スカートの裾から武骨な手が忍び込んできて、足を撫で回す。
ああ、もう、どうにでもなれ…。

私はゆっくり目を閉じた。


「へへ、じゃあ頂いちまうか…うがっ!」

「な、なんだお前…うげっ!」

「その汚い手を離せ、下種ども」


凛とした声が、鼓膜を揺らす。何が起こったのかと目を開こうとすると、そっと誰かに目を抑えられた。先程の男たちかと思いびくりと震えると、きゅうっと暖かい何かに包まれる。
この感触は…抱き締められてる?


「案ずることはない。すぐに終わらせます故、しばし目を閉じていて頂けないだろうか?」


丁寧な口調に、凛とした声。先程の声の主のようだ。声がうまくでなくてコクリと頷くと、声の主は安心したようにほっと息を漏らした。


「佐助」

「はいよ。全く、旦那ってばお人好しすぎ」

「…この娘を頼む。俺はあ奴等に灸を据えてくる」

「はいはい。まぁ、ほどほどにね」


ザッと暖かい感触が離れていって、代わりにひやりとした感触が再び目元を覆った。びくりと体を揺らしてしまうと、柔らかい声が降ってくる。


「大丈夫。俺様はアンタに危害は加えないよ。旦那がアンタに見せたくないみたいだから、抑えとくだけ。わかった?」


淡々と、業務連絡のように告げられる言葉に少しだけ不安になるも、またコクリと頷く。温度のない無機質な声は確かに少しだけ恐いけれど、先程の男たちのような下卑た嫌な感じはまるでしなかったため、されるがままにしていた。


「これで何度目だ?」

「ぎゃあああ」

「御主らに犯され殺された女子たちが幾人居ると思っておるのだ?」

「さ、さな゛っ…」

「殺しはせぬ。しかし、しっかりと罪を償わずにまた脱獄などすれば…今度こそその命、この真田幸村が散らしに参るぞ」

「ひっ…ひいいい!」

「…あーあ、旦那ったら荒れちゃってまあ」


恐い。視界がなくても何をしてるかがわかってしまって、ツンと鼻に香る匂いの正体がわかってしまって、カタカタと体が震えそうになる。


「…恐い?ま、体を見る限りどっかのお姫様みたいだし…こんなのは縁がなかっただろうね」

「お、姫様…?」

「あれ?違うの?」


無機質な声の主は少しだけ怪訝そうな声を出してから、突然冷たい空気を纏い出した。


「あちゃー…お姫様じゃないとすると…アンタ、完全に怪しいんだけど。助けるんじゃなかったなぁ」

「なっ…!」

「いっそ、いま此処で…」


首元に冷たい感触がする。目元にあるのと同じような…ああ、手だ。
少しだけ、その手に力が篭る。


「旦那には悪いけど、俺様面倒事は嫌いだから…」

「佐助」


凛とした声がすぐ後ろで聞こえてびくりと体が震えた。途端に、首元にあった冷たい手がスッと離れていく。


「やだなー、冗談だってば」

「…冗談が過ぎるぞ。気を付けよ」

「はいはい」


無機質な声が離れていって、目元の冷たい感触もなくなる。


「…どうぞ、目をお開けください」

「え?あ、はい…」


凛とした声に促されて目を開くと、そこには赤いライダースを着たイケメンが立っていた。槍みたいなものを持ってるのと胸板から腹筋までを惜し気もなく晒しているのを除けば、かなりイケてるメンズ略してイケメンなのに。


「やはり…!」

「え?きゃあっ!」

「お会いしとう御座いました…!ずっと、ずっとお待ちしておりました…!」

「え、ええ!?」


訳がわからない私を余所に、イケメンは力強く私を抱き締めてくる。ちょっと苦しいんだけど…!


「ちょっとちょっと旦那!何してんのさ!」


何処からか現れたオレンジ髪の人(さっきの無機質な声の人だ。佐助って呼ばれてたっけ?)が慌てて私と赤い人を引き離そうとしたけど、オレンジさんが私に触れた途端彼の手を叩き落とした。


「っ…何すんのさ」

「触るな。俺のだ」

「ええっ!?」

「やはり…記憶がないのですな」


驚く私と、痛ましい顔をして私を見詰める彼。
彼は本当に愛しいものを見るような目で、私を見つめた。


「某は…真田源二郎幸村と申します。某と貴方は…遠い昔、夫婦であった」

「め、めおと…?」

「ええ。それはそれは…仲睦まじく、暮らしておりました」


悲しそうに笑う真田さんを見ていると、何故だかぎゅうっと心臓を掴まれたみたいに苦しくなった。自然と、勝手に手が真田さんの頬を撫でる。


「あの…悲しまないで、ください。貴方が悲しそうにしてると…なんだか、私苦しくなるんです」


私がそう告げると、何故だか真田さんは驚いたように目を丸くして…そのままポロリと涙を溢した。


「ええっ!?ちょ、旦那!?」

「さ、真田さん!泣かないでくださ…うぎゅっ!」


オロオロする私とオレンジさんを余所に、真田さんはまた私を強く抱き締めてた。つ、潰れる…!


「やはり…貴方は貴方ですな。そういう優しいところは、全く変わっておらぬ」

「真田さん…」

「幸村、と。そう呼んでくだされ」

「ゆ、幸村…?」


真田さんは私から少しだけ体を離すと、一度だけ私の額に柔らかく口付けた。


「っ…!!」

「はい!幸村は、此処に居りまする。貴方のお側に…」


にっこりと笑った真田さんの顔が、誰かの顔にダブったような気がした。


「もう、離しませぬ」


再び抱き締められた時には、自然と私の腕は彼の背中に回っていた。






【真田幸村ルートへ】

ここで終わります。
前世的なお話、余裕があったら書きたいなぁ。
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やり直したいお嬢さまは此方へどうぞ