目を開けるとそこは、見たこともない場所だった。さわさわと揺れる木々が鬱蒼と繁る森。 こんなに自然豊かな…悪く言えば野性的な、手を加えられていない森なんて初めて来た。突然のことに頭がついてこない。 私は今まで何をしてたっけ…?確か、いつも通り着替えて寝ただけだと思うんだけど…。 いくら頭を捻っても、記憶が曖昧ではっきりと覚えてなかった。そのうえ、何故か制服を着てる。 「へくしゅんっ!」 辺りは少しだけ夕日が射している程度で、段々と暗くなっていく。このまま此処に居ても寒さも増す一方だし、どうしようもない。 「よし!」 とにかく、進んでみようと決意した私は… 右に進んだ 左に進んだ 「右に進んでみようかな」 くるりと右を向いて、ざくざくと道無き道を進んで行くと、少し拓けた場所に出た。キョロキョロと辺りを見回すと、小屋のようなものが建っている。 誰か、人がいるかも知れない! 「すみませ〜ん、誰か居ませんか…?」 ギィ…と軋んだ音を立てて開いた扉に内心びくびくしつつ、小屋の中に入っていく。人が住んでいるとは思えないほど何もない小屋だ。家具もほとんどない。 「あれ…?」 でも、小屋の真ん中にある囲炉裏のようなものには、鍋がかけてあった。そっと近付いて覗いて見れば、中にはお粥のような物体。 ぐうう 「お腹、空いたなぁ…」 突然元気に鳴り出した自分のお腹の音に苦笑しつつ、ごくりと唾を飲み込む。誰か人の家のご飯だし…いつのものかも分からない。だけど、すっごくお腹が空いてる。 「うう…ええい!仕方ない!」 空腹に負けそうになった私は… 空腹に負けてお粥を食べることにした 空腹を紛らわせるために寝ることにした 「お腹空いてるもん、仕方ないよね!」 自分にそう言い訳をして、鍋に突っ込んであった匙でお粥を掬い上げる。 「いっただきま〜す」 ぱくり、と口に入れた瞬間、背中からくすりと笑い声が聞こえた気がした。 「ん?」 もぐもぐと咀嚼しながら振り向けば、目の前には明るいオレンジ色。 「あ〜あ、食べちゃったかぁ。卑しい子だね」 「んうっ!?」 どういう意味、と聞こうとした途端、喉が焼けつくように熱くなる。 苦しい、水が欲しい…! 「ごめんね。それは侵入者を殺すための罠だから」 オレンジ色の髪のお兄さんは、ニコニコと笑いながら私に近付いてくる。 「アンタは余りにも非力だし、なんの害もなさそうだけど…明らかに、怪しいからね」 近付いてきたお兄さんはぴらりと私の制服を摘まむと「例えばこんな恰好、とかね」とまた綺麗に笑った。 「う゛…あぁ…」 「…そろそろかな?」 苦しさが限界に近付いてくると、生理的な涙が止まらなくなって、視界のお兄さんをぼやけさせた。ゆらゆらと滲むお兄さんは私にそっと手を伸ばすと、ぽんぽんと頭を撫でてくれる。 「ごめんね。本当は苦しまないように一瞬で殺してあげたいんだけど…俺様が殺したことになっちゃうから」 瞬きをひとつすると、涙が溢れて視界がクリアになった。倒れ込んだ私の目に写ったのは、能面みたいに無表情なお兄さんだった。 「さて、旦那に報告しないと」 お兄さんはスッと私から離れて立ち上がる。 「『侵入者は、勝手に毒入り粥を食って死にました』ってね」 ブラックアウトする視界の隅で、お兄さんがにいっと笑ったような気がした。 【GAME OVER】 (毒殺END) 後味悪くてすみません(笑) やり直したい!というお嬢さまは此方へどうぞ。 →TOPへ |