ぎゅうっとクロスの団服を掴むとクロスの心音が直接聞こえるようで、なまえはますますクロスにすがりついた。


「師匠の、せいじゃっ、ない、んですっ…」


嗚咽混じりに必死でクロスは悪くないと訴えるなまえ。あの我が儘で横暴で俺様なクロスがなまえのせいで自分を責めているのを見るのはなまえには耐えられなかった。
全部全部、私が悪いのに。


「…なまえ」
「っ…ごめん、なさい」


いつもの数倍優しい声が余計になまえの自責の念を駆り立てる。少女は小さな声で謝罪を繰り返した。
そんな彼女の唇をクロスは指を押し付けて止める。


「もう謝るな。エクソシストも人間だ。救えない命があったって仕方がない」
「ふっ…でも…」
「だから、お前が覚えていればいい」
「…え…?」


戸惑うように顔を上げるなまえにクロスは優しく続ける。


「救えない命があったことを忘れるな。アイツらがあそこで生きていたことを忘れるな。お前のするべきことは自分を責めることじゃない。忘れないことだ」
「忘れない…こと…」
「ああ」


クロスはそっとなまえの頬に手を添えると流れ落ちる涙を拭ってやった。


「それに、救えたものもあるだろう?」
「え…?」
「お前はテッドの魂を救ったんだ。いや…正確にはテッドとその中にあった魂、2つを救ったな」


ぽかんとするなまえの頭をクロスは柔らかな笑みを浮かべたまま撫でてやった。


「よかったななまえ。お前は2つ救えたんだ。初任務にしちゃ上出来だろ」


ぐしゃぐしゃと少しだけ荒っぽく撫でられた頭が暖かい。
そこからじんわりと熱が伝わってきている気がして、なまえは必死で涙をこらえた。それなのに。


「泣け」
「…っ…!」


クロスに再びぐいと抱き締められ、胸に押し付けられるなまえ。
そのクロスのたった一言だけで、こらえていた涙が堰を切ったように溢れだした。


「うっ…ひっく…」
「声も我慢せんでいい。オレしか居ないからな」


温かな手のひらでゆっくりと頭を撫でながら、クロスは優しい声で言う。
なまえは様々な気持ちがぐちゃぐちゃになって破裂してしまいそうで、思わず自分からクロスにしがみついた。


「うっ…うわああああああああん」


そして小さな子供のように声を上げてわんわん泣いた。クロスはその間ずっと、ただなまえを抱き締めていた。