結構な速さで走り続けること約1時間、ヒソカの腕の中から下ろされた場所は大きな高級ホテルの玄関だった。
高級そうな車からこれまた高級そうな服装をした人々が降りてくる。彼らの怪訝な視線に気付いた私が自分を見つめると、白いワンピースに先程の男たちの血がこびりつきどす黒く変色していた。


「ヒソカ、私…」

「おっと、忘れてた◇」


ヒソカは私を一瞥すると念を発動させる。
そして撫でるように私のワンピースに触れると、服は元の白さを取り戻した。

上から覆えるのか。
便利そうな能力。

じっと手元を見つめていると、ヒソカはそんなに見つめられると興奮しちゃうなァ☆、なんて妖しげな発言をしてするりと私の手を取る。


「…手、」

「ん?◆」

「……なんでもない。」


わかっているくせに訊ねてくるヒソカに説明するのも面倒で繋がれた手はそのままにしておくことにした。
ゴツゴツとしているのにそれでいて綺麗な彼の手には、どれだけ洗っても絶対に落ちないほどの血の匂いが染み付いていて少し安心した。
私の手に似た、人殺しの手。誰も手にかけたことのないような綺麗な手に触れられるなんて、私には耐えられない。

私があまりに汚いのだと思い知らされるだけなのだから。










「ココだよ★」


ぼーっと考えにふけっているといつの間にか大きな部屋の中に連れられていた。


「…大きい。」

「これからはナマエの部屋でもあるから、遠慮せず使いなよ◇」


見かけによらず相当な金持ちなのか、高級ホテルの中でも特に高い部屋だということが私でもわかった。
ヒソカは未だ手を繋いだまま、私をベッドへと誘う。

…やっぱり寝床を与えてもらう以上は、そういうこともしなくちゃいけないのかな。

頭の片隅でそんなことを考えつつ導かれるがままにベッドに体を埋める。
ギシリとベッドが鳴って、ヒソカの顔が近付いてくる。

仕方ない、か。



そっと目を瞑ると、ふと気配が止まってくつくつという笑い声が聞こえた。
不思議に思って目を開けばほんの数センチ先に整った顔があった。


「…しないの?」

「ナマエはシたいのかい?◇」

「ううん。でも泊まらせてもらう以上仕方ないかなって。」


再びくつくつと笑い出したヒソカはその体勢のままゆっくりと私の髪を撫でる。


「うーん、そう言われるとシたくなるけど、僕は君が望まないことはしないよ◆」

「どうして?」

「君がまだまだ青いからさ☆」

「でも私、一応もう17歳だよ?」


青い、と言われて年齢を告げればヒソカは少し驚いたように目を丸くした。


「…もっと幼いと思ってたよ◇」

「よく言われる。童顔だから。」


きっとヒソカが言いたいのは顔のことなんかじゃない。わかっているけど敢えて触れない私は卑怯なのかな。
この、10歳のころから成長を止めてしまった、体のことに。




「…そうかい◇とりあえずシャワーでも浴びて返り血を落として来なよ☆」


気持ち悪いだろ?★と言って静かにヒソカが離れると、いつの間にかワンピースはどす黒い赤に戻っていた。
暫くして言われた言葉の意味を理解すると、部屋の隅へ向かうヒソカの背中に問い掛ける。


「…聞かないの?」

「何をだい?◆」

「…なんでもないよ。」


すべて、聞かないでいてくれるんだ。
ベッドから静かに立ち上がり浴室へと向かう。


「ヒソカ、」

「なんだい?」

「ありがとう。」

「◆」


少し驚いた顔のヒソカを残して久しぶりに上がった口角を保ったまま私は浴室へ入った。




同居人のピエロは、意外にいい奴かも知れない。




 

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