ヒソカはその日機嫌が良かった。彼にしては珍しく、人を殺めてもいないのに気分爽快、鼻歌でも唄い出したい気分だった。
愛用のトランプを弄びながら、いつもの奇抜な格好で堂々と大通りを歩く。昼間で人口を増したその街はいつもならば煩わしいだけで歩くなんて考えたくもないが、今日だけは何故だか軽い足取りで進むことが出来た。(まあヒソカの周りは人が自然と避ける為人混みなどとは全く無縁となっているのだが。)
「おや?★」
しばらく歩いて行くと、身なりの整った少女がふらりと路地裏へ入って行くのが見えた。
その後ろを卑しい顔で追う、2人の男も自然と目に入った。
「まず、3人…カナ?☆」
ヒソカはくつくつと笑うと気紛れにトランプを構えてゆっくりと路地へ足を運ぶ。
今日は気分がいいから、殺しも何時もより気持ちイイのかなァ…?
考えただけでぞくりと背筋を興奮が伝い身震いする。
早く殺したくなっちゃった、と小さく呟いて角を曲がれば、突然視界が赤く染まった。
「ぎゃあぁァァ!」
「ひっ、助けっ…ぐぁァァ!」
鼻につんと香る慣れた鉄の臭いと耳に響く断末魔。
べしゃりと音を立てて崩れた元・人間は最早原型が判らぬ程に潰されていた。
「おやおや…★助けてあげようかと思ったんだけど…要らなかったみたいだね◆」
彼は機嫌良く笑うと目の前に立つ少女に笑いかける。
「…ピエロさん、何か用?」
「くくっ、君、美味しそうだねェ…◇」
明らかに殺気を飛ばしているのに、怯える様子なんて微塵もない。
再び喉の奥でくつくつと笑うと彼女はよくわからないといった感じで首を傾げた。
「ピエロさんは、人肉が好きなの?」
「◆」
「あんな不味いのに、」
「食べたことがあるのかい?」
「うん。」
驚いた。
こんなどこにでも居そうな普通の少女が、人肉を食べたことがあるなんて。
やっぱり、面白いコだ…◇
自分の中の興奮がふつふつと湧き上がってくるのを感じる。
嗚呼、まだまだダメだよ、このコはもっと良くなる…★
ヒソカは自身の猛りをなんとか押さえ込むと、少女に向かって張り付けたような笑顔を向けた。
「ねえ、君。」
「何?」
「僕はヒソカ☆君はなんていうんだい?」
「私は…ナマエ。ミョウジナマエ。」
「ふうん…ナマエ、ね◆」
ヒソカは何度かその少女の名を口の中で反芻する。
そしてその響きににっこりと笑みを零した。
「ねえ、ナマエ。僕のトコロへ来ないかい?」
「ヒソカの所へ?」
「君なら大歓迎だよ★」
そう言ってウインクを飛ばせば少女は再び首をこてんと傾げた後に、はっきりと言った。
「私ね、人を探してるの。」
「へえ◇」
「だから、ヒソカが手伝ってくれるなら、ヒソカの所に行くよ。」
「モチロンだよ★」
ヒソカは再び貼り付けたような笑顔を少女に向けると、少女を横抱きにして颯爽と走り出した。