引っ張られた頬を撫でながら、目の前の厳つい男を睨み付ける。そんな私をフィンクスと名乗った男はにやにや見ていた。まったく!
「ふぃんのばかー!」
「やっぱりガキだな」
はん、と勝ち誇ったような笑みを浮かべる男にカチンときた。一応私これでも23歳なんだけど!と言ってやりたい気持ちをぐっと抑える。
さっきご飯を食べながら私は自分に起こった出来事を整理してみた。
どうやら私はあの変な男の念で小さく…正確に言えば幼くなってしまったらしい。
正確な年齢はわからないが先ほどからうまく喋れないのも幼くなってしまった所為のようだ。
それでも、中身は23なのだから馬鹿にされると非常に悔しい。
「がきじゃない!」
「ガキだろ」
「なによ、ふぃんなんかまゆげないくせに!こわもてのくせに!」
「おま…!どこで覚えたんだよそんな言葉!」
フィンクスの鋭い突っ込みにドキリとした。
そうだった、今私は幼い子供なのだ。うまくそれらしく振る舞わないと。
「ねえねえふぃん!」
「あ?なんだよ」
できるだけ可愛らしくなるよう意識しながら、フィンクスのほうへ手を伸ばしてにこりと笑ってやる。
「だっこ」
「はあ!?」
「だっこして!」
無邪気な笑顔でそう言い切ってやる。
もちろん私にそんな趣味はない。
私が子供である以上持つ必要がない警戒心を、この男は持っている。
だからこうして自ら身を委ね、何もわからない馬鹿な子供を演じることで相手の警戒心を削ぐのだ。私って頭いい!
「はあぁー…ったく、面倒くせぇ餓鬼だなてめぇはよ!」
「うひゃあ!」
突然ふわりと体が浮遊感に包まれて視界が高くなる。うわぁ高い高い!
自慢じゃないが私は元々そんなに身長の高いほうじゃない。だから、こんなに高い目線になったのなんて本当に生まれて初めてだった。
「たかいたかい!」
「そりゃ持ち上げてんだから高いだろ」
「たかーい!」
なんだか生まれて初めての目線に戦略とかどうでもよくなってきた。
だってこんなに高いんだよ?なんかテンションあがってくるじゃんか!
「すごいね!ふぃんたかいのすごいね!」
「そ、そーか…?(なんでこんなはしゃいでんだコイツ)」
フィンクスにとってはまるで訳の分からないところではしゃぐ少女は、腕が疲れてきたフィンクスが彼女を下ろすとぶーぶー不満を漏らした。
「えーやだー!もっとたかいのがいい!」
「お前なぁ、腕疲れんだよ」
「ふぃんのよわむしー!ふぃんってそんなにひよわだったんだ!」
「あぁ?んだとテメェ…」
ピクピクと青筋を立てるフィンクスを前にやっと少女はやりすぎたかと焦り始める。しかしフィンクスは「はあぁー…」と再び大きなため息を吐いたあと、自分の髪を一度わしゃわしゃするとぐいっとナマエの手を掴んで再び持ち上げた。
「ひょわあっ」
「ははっ、なんて声出してんだよ。てめぇがもっとって言ったんだろーが」
「ふぃん…」
コイツ、意外と子供好きなのかな…。ちょっと感動しながら強面を覗き込むと(本人的には優しく)恐ろしい微笑みを浮かべながら言った。
「次オレのこと弱ぇだのなんだのっつったら容赦しねーからな」
「ひっ、はいいい!」
ぎゃーやだ怖いやっぱり前言撤回!
私此処で元に戻るまで無事に暮らしていけるんだろうか…。
そんな心配をしながらもフィンクスによって高い高いをされた状態のままナマエは笑顔で高い気分を味わっていたのだった。