目の前で一心不乱に飯にかじりつくガキを見て、俺は溜め息を零した。
さっきはいきなり泣きそうになるやらビビられるやらで大変だった。
別に優しくしてやるつもりもねぇが、ガキを泣かせる趣味もねぇ。じっと目の前のガキを見つめながら、考えを巡らす。
あの日拾ってしまったガキは、どう考えても不自然なほど大きい服を着ていた。
しかも、脇腹に手刀で貫かれたような傷跡をつけてだ。普通のガキにはまず考えらんねぇ。
そして俺がとりあえず部屋に入れて軽く手当てをしてやろうとしたらコイツが絶をしているのがわかった。ガキの念能力者はそう多くねぇうえに、コイツの絶は何年もかけて磨いたようなうまいもんだった。
ふと懐かしい、昔の自分たちを思い出す。あの頃は俺たちもこんなガキだったな。見た目は普通のガキだが、コイツにもいろいろと理由があるのかもしれねぇ。
「うまいか?」
じっと見ていると目があったのでとりあえず声をかけて見れば、ガキは口の中をいっぱいにしたままこくりと頷いた。
喋ろうとするガキを手で制して、飲み込むのを確認してから口を開く。
「俺はフィンクスだ」
「ふぃん、くす?」
「おう」
食べ終わったガキを前にして、どかりと胡座をかいた。ガキは小首を傾げながらふぃんくす、ふぃんくすと俺の名前を繰り返している。
「よびにくいから、ふぃんじゃダメ?」
「あ?別にいいけどよ…」
「ありがとう!」
もう呼ばれることもねぇだろうと思った俺は了承した。それなのにガキは本当に嬉しそうに笑って俺に礼を言う。
チッ、…調子狂うぜ。
「お前の名前は?」
「わたし…わたしはナマエ」
「ナマエか」
とりあえず、名前はわかった。これであとはシャルにでも調べさせりゃあいい。
俺を一目見てやくざやらマフィアだと言った。
即ち、それはコイツがこんなガキのくせにそういった類の奴らに追われているということだろう。全く、本当に面倒事を拾っちまったもんだ。
「おいナマエ」
「…なに?」
「怪我が治るまでなら、此処に置いてやるよ」
なんとなく、本当にただの暇つぶしだ。怪盗ノーンが現れるまでの。
そう自分に言い聞かせながらナマエの頭にぽんと手を乗せると、ナマエはぽかんと口を開けて俺を見上げた。
「間抜けな面してんじゃねぇよ」
「ひゃっ!」
何故だかそのアホ面がどうにもおかしくて、俺は笑いながらナマエの頬を引っ張った。