やはり、私のデータには修正が必要らしい。
にこりと笑うヒソカが前方に見えた途端、私は思わずもう一度ゴンを見つめてしまった。(まさか本当に匂いで辿ることができるとは)
だが、ゴンはと言えばじっとヒソカを睨み付けるように見ている。クラピカからも殺気に近いものが発せられていた。


「レオリオはどこだ!」

「彼なら、ちゃんとアッチに居るよ★」


ついとヒソカが指差した先には木の幹にもたれかかるように座らされたレオリオが居た。


「「レオリオ!」」


2人は名前を呼びながら慌ててレオリオに近づいて行く。その場に立ったまま動こうとはしない私に、ヒソカはニコニコしながら近寄ってきた。


「ナマエは行かなくてイイの?◇」

「無事なのはわかるから別にいい。そもそも彼らと私は関係ない者同士だ」

「へェ…★ますます気に入っちゃった◆」


私の答えがお気に召したのか、ヒソカはくすくすと笑みを漏らしながら私の顎をくいと持ち上げ、真っ直ぐに視線を合わせる。そのまま鼻先が触れ合いそうな距離まで顔を近付けられて、思わず攻撃してしまった。


「おっと★つれないなァ◇」


ひらりと私の攻撃を避けたヒソカはそのまま何が楽しいのかクスクスと笑い続ける。そんなヒソカに多少の不快感を覚えながらも、彼から発せられる殺気が心地良いとも感じていた。


「…ヒソカは私の中で危険分子と認識されてるから」

「それは光栄だ◆」

「誉めてない」


そんな風にちょっかいを出してくるヒソカとくだらないやり取りをしていると、すごい音が中からしていた目の前のシャッターが開きだした。


「オヤ☆始まるみたいだね」

「二次試験か」


ゴゴゴゴ…と鈍い音を立てて開かれたシャッターの先には、随分と大柄な男と整った顔の女性。
説明を聞いていると二次試験はなんと料理なんだとか。きびきび喋る女性とおっとりした大男をなんだかアンバランスな組み合わせだなとぼんやり見ているとブハラと呼ばれた男がウキウキと喋り出した。


「じゃあオレの試験は大好物の豚の丸焼き!」

「…豚の丸焼きは料理に入るのか?」

「さてね★でも楽だからいいんじゃないかい?」

「…確かに」


つい呟いてしまった独り言にヒソカが律儀にも返事を返してくれたことに少し戸惑う。が、深く気にせずに豚を探しに行くことにした。


「…で、何故ヒソカは付いてくるの?」

「いいじゃないか◇2人のほうが早く済むだろう?」

「私1人のほうが早い。邪魔」

「つれないなぁ☆」


そう言いながらもさっきから一向に離れようとはしないヒソカにイライラが募ってくる。
あぁ、これが“苛立ち”という感情か。インプットしながらヒソカに手刀を繰り出す。


「感情が学べるのは有り難いけどヒソカといると負の感情しかインプット出来ない」

「へぇ、インプットだなんて◆まるで感情がないみたいな言い方をするんだね☆」


にやりと笑うヒソカに言い過ぎただろうかと一瞬ひやりとするも、別にバレたらバレたで不都合は特にないので気にしないことにした。
ヒソカを無視して進んで行けばズドドド…と突進してくる何かの群れに遭遇する。


「グレートスタンプか。ここらには豚はコイツらしか居ないだろうな」

「へぇ、そうなんだ◆ナマエは物知りだね★」

「黙って頭を狙ったら?」

「ククッ…ご親切に弱点までありがとうv」

「ハートを飛ばすな気色悪い」

「酷いなァ★」


全く傷付いてなさそうなヒソカと一緒に簡単に豚を仕留めて行く。
ヒソカへのイライラを込めて踵落としを眉間にぶち込んでやればズドォンと地面に激突して頭が割れてしまった。仕方なくもう1頭狩ることに。
丸焼きなのだから頭が潰れた奴はダメだろう。


「…力、強いんだね★」


笑顔で言ってきたヒソカにも無言で同様の踵落としを喰らわせてやるとそのまま奴から離れて指先からガシャコンと火を灯して焚き火を起こした。


「痛いなぁまったく…お詫びに僕のも焼いておくれよ◆」

「…………貸して」


ずるずる豚を引き摺ってやってきたヒソカの額からは確かにだらだらと血が出ており、少しだけ責任を感じて一緒に焼いてやることにした。





「ぷはぁ〜、もうオレお腹いっぱい〜」

「ったく、あんたは食べ過ぎだっての!…まぁいいわ、二次試験前半はこれで終了よ!」


70頭余りの豚の丸焼きをペロリと食べきってしまったブハラを、ナマエは真剣な瞳で見つめていた。怪訝そうな顔のヒソカが訊ねる。


「どうしたんだい?」

「おかしい…明らかにブハラの体積よりも食べた豚の体積のほうが大きい気がする…」

「あぁ☆きっと消化したんじゃないかい?」

「食べながら消化とは…ヒトというのはすごいな」

「あれを人間代表だとは思って欲しくないな◇」


似たような会話がゴンたちの間でも同様に繰り広げられているなんて知りもしないで話していた。



「いーい?言っとくけど私はブハラと違って辛口でいくわよ。私の料理は…寿司よ!」

「寿司ィ!?」

「なんだそりゃ!」

「寿司か…」


他の受験者たちが知らないだのなんだのとざわざわと騒ぐ中、数人は黙って話を聞いている。
…恐らく彼らも知っているのだろう。私が寿司という言葉をデータベースで検索すると、ネタや作り方が上手いこと表示された。これで作れる、とほっと息を吐いた途端、二次試験後半開始が告げられる。


その時の私はまだ自分のデータベースを便利なものとしか捉えていなかった。事実、私にとってはそれだけの価値しかないのだから。データベースがいくらあったところで扱うのがサイボーグならば機械が機械を制御しているというだけの話だ。




――くだらぬことで俺を煩わせるなっ!
――もっとデータを集めなければ…データを…

―――なぁ、ナマエ?





「っ…うるさい」


ふと頭によぎった記憶を再び押し込めると、私は魚を求めて外へと飛び出して行った。





 

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