「あ、阿武兎。この子が今日から云業の代わりだから。後は頼んだよ」


あの後神威団長は笑いながら砕いた私の手を引いて、もう1人の幹部とやらのところに私を連れてきた。


「へいへい…お前さん、来て早々に災難だったなあ」

「災難どころじゃないんですけど…」


阿武兎と呼ばれたその人は苦笑いしながら団長から私を受け取る。


「じゃあ、早く第七師団に慣れてね」

「おかげさまで早くも慣れそうですよ!」

「そりゃあよかった」


神威団長は私の嫌みにも笑顔を返し、ひらひらと手を振るとそのまま何処かへ行ってしまった。


「何なんですかあの人!」

「まあまあ…団長にゃァ俺らが何言っても無駄なんだよ。悪かったな」


憤慨する私を宥めながら阿武兎さんが謝罪の言葉をくれる。嗚呼、やっぱり上がちゃらんぽらんだと下がしっかりするんだなあ!


「じゃあ、手ェ貸してみな」


私の中で既にいい人と認定された阿武兎さんが、私の手をそっと取る。と同時に驚きの声を上げた。


「おいおい…団長に砕かれたんだろ?」

「ええ、まあ…」

「なんてこった。まァた化け物が増えちまったみてぇだな」

「っ痛たた!」


阿武兎さんは既に殆ど治りかけた私の手を軽く叩くと、苦笑を漏らした。


「まァ、同族同士仲良くやろぉや。お前さん、名前は?」

「あ、私はなまえです」

「ほー、聞かない名前だな」

「詳しくは知りませんが…両親は私が産まれてすぐ死んだらしいので」


私がそう言うと、阿武兎さんはチラリと私の顔を見て、ポンと私の頭に手を置いた。


「悪ぃこと聞いちまったか?」

「いえ。私にとっては此処が、家族みたいなもんですから」


だから全然気にしないでください、と笑顔で言えば阿武兎さんはふっと優しく笑った。


「まァなんだ。俺たちは少なからず似てるかも知れねぇなぁ」

「そうですか?」

「その内分かるさ」


またまた苦笑いしながら答える阿武兎さんを見て、この人はいい人だけど苦労が絶えないんだろうなあと心の中で少し同情した。
阿武兎さんの言葉に隠された、本当の意味も知らずに。






未来の苦労






「団長、あんまり新人をからかわないでやってくれよ」

「ん?何言ってるの阿武兎。団長が新人の面倒を見るのは当たり前だろ?」

「…よく言うぜ」


これからアイツは大変だろうなぁ…。
阿武兎はおもちゃを手に入れたような神威の表情を横目に、重い溜め息を吐いた。




 

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