「や…なんでもなにも、私が男だからじゃないか?」

「そ、そうだぞ喜八郎!」

「あ、やっぱり男の子なんだぁ。僕もちょっと女の子だと思ってたよ」

「斎藤さんまで!」



滝、二人にツッコミありがとう。ただ、私の言葉に納得がいかないのか、穴堀りくんはまだじーっと此方を見てくる。
んー…仕方ないな。



「綾部、だっけ?」

「喜八郎です」

「綾部喜八郎?」

「喜八郎です」

「わかった。じゃあ綾部、」

「喜八郎です」

「………喜八郎、」

「はい、なんでしょう」



負けた。粘り負けた。無表情で同じ言葉繰り返されるのって、意外と精神的にキツいみたいだ。



「あー、私が男だって信じられない?」

「はい」



一も二もなく即答した喜八郎に思わず苦笑いする。まぁ、本当は女だから仕方ないけどこうも女みたいだと言われるとちょっと気分が良くないなぁ。



「なんならハチに聞いてみなよ。さっき、毒虫が制服の中に入ったからハチが私の身体まさぐったし」

「ぶほっ!!て、てめぇなまえ!人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇよ!」



少し離れた場所で食事をしていたハチたちにもそれは聞こえていたようで、向こうから叫ばれてしまった。顔真っ赤だな、ハチ。



「悪い悪い、これくらいしか思い付かなくてさ」

「脱げばいいじゃないですか」

「き、喜八郎っ!」



…喜八郎、可愛い顔して言うことがえげつないな。滝が真っ赤な顔で喜八郎の頭を叩いた。うわ、痛そうだなアレ。



「いや、食堂で脱ぐって私に変質者になれってか?」

「やだなー誰も全部脱げとは言ってないじゃないですかー。なまえ先輩の助平」

「なにその棒読み!いや半裸でも御免だから!」



全く、最近の若者はどうなってんだ…と頭を抱えたくなったが、ハチとか滝は顔を真っ赤にして俯いてるからまだ世の中捨てたもんじゃないなと思う。お前らはその純粋さ、忘れないでくれよ…!



「ちぇー。なら、私にも触らせてくださいよ」

「は?」

「竹谷先輩にまさぐられて平気なら、私にまさぐられても平気でしょう?」

「オイ!だから俺はまさぐってねぇって!!」



ハチの悲痛な叫び声は誰も聞いちゃいないらしい。喜八郎はくりっとした目でじーーっと此方を見つめている。んー……仕方ない、か。



「仕方ないなぁ」

「「ええっ!!!」」



え、なんでだ。
まだよく知らない五年生と他の生徒たちまで立ち上がって此方を見ている。いつの間に注目の的になってたんだ?



「ただし、まさぐられるのは気持ち悪いから、ぎゅーで許してくれないか?」

「…仕方ないですね、いいですよ」



なんでか偉そうに言いながら隣にちょこんと来た喜八郎。ん?心なしか口が笑ってる…ような。



「ほれ、ぎゅー」

「ぎゅー」



ま、サラシ巻いた上にいろいろと重ねてるし、万が一にもバレる可能性なんかない。…はずだ。
唖然とする周りの人たちは放っておいて、私と喜八郎は何故か食堂の真ん中で抱擁をかわしていた。なんてシュール。

ただ、確かめるためとはいえ喜八郎が私の胸に頬を擦り寄せてくる姿はめちゃくちゃ可愛いです。喜八郎って猫みたいだなぁ…。



「喜八郎、満足か?」

「んー…はい」



しばらくそうやって抱き合った後、喜八郎がゆっくり私から離れていく。なんか名残惜しいとか私変態かな。いや、だって喜八郎が可愛すぎてさ…!つい頭とか撫でちゃってました。ごめんなさい。



「綾部くん、どうだった?」



斎藤くんが喜八郎に近寄り、わくわくした顔で聞いている。というか、気付いたらみんな聞き耳立ててないか!?



「…胸はなかった。あの胸のなさで女ってことはまずないと思う」

「そっかぁ。やっぱり男の子だったんだねー」

「だ、だから言ったじゃん」

「あれで女の子だったら可哀想すぎて…」

「なんだよ、勘違いか」

「そりゃそーだろ。ハチだってまさぐって確かめたんだろ?」

「確かになかったけど…って、まさぐってねぇ!!」



喜八郎の言葉に食堂中がほっとして、そのままがやがやと賑やかな雰囲気へと戻っていった。…しかし、これでいい筈なのに…泣きたくなるのはなんでだろう。



「なまえ先輩は、とりあえず男ですね」

「…はは、まだ疑うのか喜八郎。あんなことしといてバカ野郎」



みょうじなまえ、『とりあえず男』という称号を手に入れました。
…全然嬉しくないや。