「よぉ、なまえ!」 「あ、ハチ。さっきぶり」 食堂のおばちゃんからA定食を受け取り、後ろから声をかけられて振り向くとさっき知り合ったハチが立っていた。声をかけてくれたことが嬉しくて微笑むと、ぴしりと目の前のハチが固まる。 …ん?なんだかさっきとちょっと雰囲気が違うような? 「どうかしたか?」 「っいや…、なんでもねぇよ!」 はは、と乾いた笑いを溢すハチ。それにしても、纏う雰囲気がなんだか違和感がある。さっき出会ったハチはすごく生物に好かれそうなおおらかな雰囲気だったが、今のハチは…なんというか、少しだけ刺がある。 「なぁ、ハチ…もしかしてお前、」 「えええーっ!そんなぁ!!」 違和感について本人に訊ねようと口を開くと、背後からとても悲痛な叫び声が聞こえてきて思わず振り向く。そこには綺麗な髪にぱっちりとした目、長い睫毛を持った美形な…少年が立っていた。危ない危ない、あまりに整ってて一瞬私のような女の子かと思った。 「ごめんねぇ久々知くん。さっきなまえくんに出したので豆腐は最後なのよぉ。代わりに沢庵ついてるから、ね?」 「うう…豆腐…俺の豆腐が……」 「兵助、お前…」 ハチが呆れたような顔で少年を見るが、少年は回りなど全く見えていないようで延々と豆腐豆腐と呟いている。私はちらりと自分の定食に目を落とした。…うん、豆腐、あるな。 「あの、よかったら豆腐どうぞ」 「…へ?」 「おい、お前」 「いいんだよハチ。豆腐だってこんなに好いてくれる人に食べられる方が嬉しいだろうし」 「いや、そうじゃなくて…」 「それに、」 唖然としている少年のお盆に豆腐を乗せると、まだ何か言おうとしているハチの方を向いてニコリと笑った。 「ハチの友達なんだろ?」 「…は?」 「だから、彼はハチの友達だろ?って。だからいいんだ」 さっき、ハチが彼を見る眼差しは呆れの中に「仕方ない奴だなぁ」みたいな優しさが見えたのだ。だから、この違和感のあるハチも悪い人じゃないだろう。 「ハチも、なんかさっきと雰囲気違うみたいだし…このおかずやるから、たくさん食べて元気出せよ」 「な…!」 「じゃあまた」 何か言い返される前に、私はさっさとその場を離れて座る席を探した。 「…くそ。なんなんだアイツ」 「っぷは!三郎てめぇ俺のふりしてアイツに何言ったんだよ!」 「いい人だったね、勘ちゃん」 「そうだなぁ雷蔵。にしても、よかったな兵助」 「ああ…。アイツはいい奴なのだ」 「もう豆腐しか見てねぇぞコイツ」 なんだか背後が騒がしくなった気がしたが、気にせず空いている席を探す。うーん、なかなか空いてないな…。 「あ、なまえ先輩!」 どうするかと悩んでいると、いいタイミングで名前を呼ばれた。よかった、知り合いかな? くるりとそちらを向けばなんだかキラキラした集団の一人が立ち上がって此方を見ていた。わぁ、なんだあの集団。あんな中に知り合いなんか居たっけ…? 恐る恐る近寄れば、学園に来てすぐに仲良くなれた可愛い後輩が居た。 「ああ、滝か!さっきぶりだな」 「はい!」 「…あ、さっきの人」 「へぇ、綾部くんも知り合いなんだ?」 ポツリと呟いてこくりと頷く綾部…ああ、穴堀りくんだ。隣にはやけに目映いオーラを出してる金色の髪の男の子。…え、制服が紫ってことは…この三人同い年なの? 「よろしければこの美しい滝夜叉丸のお隣で食事でも如何ですか?きっとおばちゃんのご飯も数倍美味しくなりますよ!」 「ありがとう滝。じゃあ一緒に食べてもいいかな?」 にっこりと笑顔で滝の隣に腰を下ろすと、何故だか三人がまたぴしりと固まった。なんでだ。 「あの…三人とも?」 「〜〜っなまえ先輩!!」 「うぇ!?はいっ!」 滝に叫ばれて思わずぴしりと姿勢が伸びる。滝はその綺麗な顔を少し赤く染めて興奮したように話し出した。 「なまえ先輩の美しさはやはりこの美しい平滝夜叉丸の隣にあるのが相応しい美しさですね!そもそも私の美しさはうんたらかんたら…」 「へぇ、そうなんだ。すごいなぁ滝」 可愛いなぁ。なんかこう、一生懸命楽しそうに嬉しそうに話してくれてるのが伝わってきて、本当に可愛い。 滝の美しさ談義をにこにこしながら聞いていると、前から熱い視線を頂いた。どうも。 「…ほぇー。平くんの自慢話をこんなに聞けるなんてすごいねぇ」 「いや、だって本当にすごいから。ところであなたは?」 つい、身長が私より高いから丁寧に名前を訊ねる。これで私より年下っていうんだからずるい。 「あ、僕は斎藤タカ丸っていうんだ。年は六年生と同じなんだけど…」 「タカ丸さんは元カリスマ髪結いだったので、忍のいろはを知るために下の学年に居るのです」 「へぇ、なら私と一緒かぁ」 「へ?」 「私も六年生と同じ年なんだけど、座学ができないから五年生に入ったんだ」 よかった、やっぱり斎藤くんは同い年だったのか。いや待て、同い年でもこの身長差はちょっとへこむな…。 「「ええええ!!」」 「や、そんなに驚かなくても」 ハチといい斎藤くんと滝といい、なんだか失礼だなぁと思っていると、ずっと黙っていた穴堀りくんがずいと顔を近付けてきた。うお、近い近い。 「そんなことより、」 「そんなことって…」 「どうしてくのたまじゃないんですか?」 穴堀りくんの一言で、周りの空気が凍った。 …うん、とりあえず一発殴っていいかな君。 |