「あ、ちょっと動くなって!」

「ひぃっ…!ちょ、そんなこと言われても!」



誰だ、さっき幸先のいいスタートがきれたとか言った奴。私か。

只今、見ず知らずの男の子に体中をまさぐられてます。あれから先生方に部屋に案内してもらい(すごい広い一人部屋だった!ひゃっほい!)、とりあえず今日は授業に出る前に学園内でも散策してみたらどうかと提案され、意気揚々と外へ飛び出したらコレだ。
ただひたすら気持ち悪い逃げ出したいという気持ちでいっぱいなのだが、逃げたくとも彼のいった一言が恐怖すぎて動けないでいた。



「ちくしょ〜どこいったんだ?毒虫がお前の服ん中に飛び込んだのは確かなんだけどよ…」

「は、はは…」



毒虫とか。笑えないよむしろ泣きたい。なんで来て早々こんな目に合わなくちゃいけないのか。涙目になりつつ、這い回る手の動きにも毒虫の恐怖にも耐え続ける。
てゆーか、さっさと取ってくれないと男装バレるじゃんバカ野郎!まぁサラシ巻いた上にいろいろと重ねてるからバレない自信あるけどな!

だからといって、そろそろ精神的にも非常にキツいものがある。私は名も知らぬ少年に向かって、涙ながらに懇願した。



「た、頼む。早くっ…もう、限界だ…!」

「ち、ちょっと待て!今すぐやるから…」

「…オイ、何してるんだハチ。こんな往来で、しかも真昼に」

「おお、三郎!」



いきなり気配もなく、背後から声がかかった。私からじゃ見えない人物は私とハチと呼んだ男の子をじろじろと見つめているようで、なんかすごい視線を感じる。しかも、かなり好意的ではない視線。
男の子は近付いて来たようで、はんっという馬鹿にしたような笑い声が結構近くで聞こえた。



「しかも、相手が同学年の男とは。八チ、お前に男色の気があったなんて知らなかったぞ」

「はぁ?…っちが!ちっげぇよバカ!コレはあれだ、毒虫がコイツの制服ん中に…!」

「や、だから早くその毒虫を…」

「ほぉ?そんな顔真っ赤にして否定したって怪しいだけだぞ?」

「だから違うって言ってんだろーが!」

「いいから早く毒虫を…」

「さっきソイツが『早く…!もう限界!』とか言ってたじゃないか」

「んの野郎、からかうのもいい加減に…!」

「さっさと毒虫取れっつってんだろーが!!!」

ゴキッ バキィッ



あ、やってしまった。
そう思った時には既に遅かった。私ははちと呼ばれた男の子に頭突きを食らわせ、背後の男の子には回し蹴りを食らわせていた。しかもなかなかないくらいクリーンヒットした。やべぇ。
二人とも、地面に這いつくばって唖然とした顔をしてる。そしてはちと呼ばれた彼の横には、拳くらいの大きさの虫が居た。あああにっくき元凶!!!



「あ、わ、ごめん悪い!!でもとりあえず先にソイツ捕まえて!」

「え?…あ、おお!捕まえた!」



わたわたしながらもはち少年が毒虫を捕まえて持っていた虫籠にひょいと入れてくれた。よくやったはち少年!!私とはち少年は安心してふぅ、と息を吐く。
さて、とりあえず親の仇みたいな目で睨んでくる彼にどうやって謝ろうか。








「ごめんなさい。本当に悪かった」

「ちょ、もういいって!な?元はと言えば俺らが悪かったし…顔あげてくれよ」

「…………」



あの後、自己紹介を済ませてひたすら謝罪を続けているものの、鉢屋三郎というらしい(ハチが教えてくれた。ハチは爽やかでいい人だ!)彼は一向に何も喋らないまま、だんまりを決め込んでいる。彼らは五年ろ組の生徒らしく、私と同じ組の生徒だからできれば仲良くしてほしいんだけど。



「鉢屋…。本当に悪かった」



ハチなんか頭突きかましたことはすぐ許してくれて、尚且つ「名字とか堅っ苦しいし、ハチでいいぜ!」なんて爽やかに名前呼びまで許してくれたけど、対する鉢屋はむすっとして黙ったままだ。あんまり意地張られると私も謝りたくなくなるもんだが、とりあえずもう一度頭を下げる。すると、突然鉢屋が勢いよく立ち上がって私を睨み付けた。



「私は、」

「…鉢屋?」

「私はお前が嫌いだ!」

「オイ、三郎!」



面と向かって他人に嫌いだとか言われたのは初めてだ。鉢屋は、彼の発言に怒っているハチをするりとかわして、面食らっている私に素早く近付いた。



「お前の秘密、私が暴いて晒してやろう」



ニヤリ、と笑った鉢屋の顔は何か確信を持っているかのような表情で、私は思わず背筋がぞくりと寒くなったのだった。

早速こんなのってありですか。