「あ、ところで小松田さん」 「ん?」 「制服の色って何か意味があるんですか?」 学園長先生の元へ行く際にふと気になったことを訊ねてみれば、小松田さんはほわんとした笑顔で答えてくれた。チクショウ可愛いな小松田! 「あれはねー、学年によって違うんだよ」 「へぇ…」 「紫の平くんと綾部くんは四年生で、緑の善法寺くんと七松くんが六年生だよ」 「綾部?」 「ああ、あの落とし穴の彼だよ。天才トラパーって呼ばれるくらい、穴堀りが上手なんだぁ」 「そうなんですか」 よし、これで不思議くんの名前はわかった。次にあったら名前でも呼んでみよう。 「あ、着いたよ」 小松田さんの声に我に返ると、待ちきれなかったのか庵の前に学園長先生がいらっしゃった。 「遅ーい!何をしとったんじゃ!」 「すみません、いろいろあって」 「まったく…まぁいいじゃろう。ご苦労じゃったな小松田くん。もう戻ってよいぞ」 「はーい。じゃあまたねぇ、なまえくん」 「ええ、また」 小松田さんは何度も此方を振り返りながらぶんぶんと手を振って戻っていった。なんだか本当に可愛い人だなぁ。癒されるし。…あ、消えた。 「ほれ、さっさと入らんか」 「え、あの、小松田さんが消えたんですが」 「いつものことじゃ。さて、さくっと話を終わらせて茶でも飲むかの」 「はぁ…」 ふぉふぉ、と笑う学園長先生の後について、庵にお邪魔する。それにしても、人は見かけによらないみたいだ。あんなにほわほわした小松田さんでも、一瞬で姿を消すことが出来るとかすごい。しかも彼は一介の事務員だというし、忍術学園とはすごい場所なのかもしれない。 「さて…早速じゃが、話は聞いておるかの?」 「いえまったく。祖父は私の恰好に口出ししただけで、他には何も言われておりません」 「ふむ、そうか」 「ヘム」 「あ、どうも…」 庵の中で向かい合う私と学園長先生。そしてお茶を出してくれる……犬? やっぱりすごいな忍術学園。お茶を出してくれたお利口な頭巾を被った犬は、お盆を膝の上に置いて学園長先生の隣りにちょこんと正座した。可愛いっ…!やばいあれ連れて帰りたいふにふにもふもふしたい…! 「…うぉほん!話を聞いておったかなまえくん」 「ハッ!しまった可愛さに見とれて…すみません、もう一度お願いします」 あまりの可愛さに話をまったく聞いてなかった。危ない危ない。学園長先生は多少眉を潜めながらも、私に説明するためにもう一度口を開いてくださった。 「つまりな、ワシとお前さんのじいさまは親友というやつでの。ワシは大きな借りがあるのじゃ」 「へぇ、そうだったんですか」 「じゃからの、その借りを返すためにお前さんを忍術学園に転入させたというわけじゃ」 ちょっといい話を聞いてなんだか胸が暖かくなった。じいちゃんにも親友なんていたんだ。あんなにひねくれてるのに。 「で、具体的には私はここで何をすれば?」 「婿探しじゃ」 「…………は?」 学園長先生はさらりとなんでもないことのように言い放ったが、私にとっては聞き捨てならない言葉だ。てゆうか意味わからんまじで。 「お主、いい歳して何度も見合いを断っておるそうじゃのう」 「う…まぁ」 そりゃ、見ず知らずの人なんてごめんだし、私より弱そうな人なんて真っ平御免だ。これでも、幼い頃からじいちゃんに鍛えられてきたからそこそこ腕はある。 「あ奴が嘆いておったぞ。老い先短いというのに、孫は晴れ姿も見せてくれんとな」 「うぅ…だ、だからって、なんで忍術学園に転入することと繋がるんですか?しかも、わざわざ男装までして…」 そう、それならそうと言ってくれればいいのに。しかも男装をする意味がないと思う。むしろ、男装した私を好いてくれたらそれはそれで不味いだろ。 「『文句ばっかり言うなら、己の目で見極めた伴侶を連れてこい。忍術学園ならいい忍の卵がたくさんおるじゃろう。尚、男装なのは…色の授業受けさせたくないんじゃもん』とのことじゃ」 「『じゃもん』、じゃねぇよ!まったく…」 じいちゃんからの言付けを読んでくださった学園長先生には悪いが、思わず溜め息を吐いて脱力する。まったく、いい歳して孫離れできてないのはじいちゃんのほうじゃないか。 がっくりと項垂れる私を見て、学園長先生はまたしてもふぉっふぉっと楽しげに笑っていた。 「まぁ、そういうわけじゃ。お主は実技は六年でもよかったんじゃが、如何せん座学が芳しくないようじゃから五年ろ組に入ってもらう」 「うっ…はい」 確かに、私には座学の知識が足りていない。だって勉強嫌いだし。仕方ない、と1つ息を吐くと学園長先生がスッと真剣な表情になる。 「婿探しもじゃが…勉学や忍務にも励むことじゃ。勿論、秘密は悟られるでないぞ」 「…はっ」 やはり、老いても流石と言わざるを得ない気迫。思わず、忍務を与えられた時のように、片膝をついて頭を垂れた。 「…宜しい。では、後はシナ先生と土井先生にお任せしようかの」 「はい」 「お任せください」 先ほどから気になっていた気配が二つ、私の隣りに降りてきた。若い綺麗な女の先生と、此方も若い優しそうな先生。シナ先生はにこりと微笑むと、私に手を差し出した。うはっ、美人だ!眼福眼福! 「事情を知るのは各先生方だから、何かあれば頼って頂戴ね」 「はい!ありがとうございます!」 「あ、これが五年の制服だ。今から部屋に案内しよう」 「はい、お願いします」 先生方もいい人ばかりだし、なんだか幸先のいいスタートがきれたみたいだ。 よーし、楽しむぞ学園生活!とりあえず婿探しは置いといて。 |