「せんせ?」


小さな紅葉みたいなおててが私の真新しいエプロンをきゅうと掴む。


「ん?どうしたの晋助くん」


だらしなくにやけそうになる顔を必死で留めながら振り向けば、天使のような顔の男の子がはにかみながら折り紙で作ったチューリップを差し出してきた。


「これね、せんせいにつくったの」
「私に…?」
「うん。せんせ、おはなすきっていってたから」


照れて顔を赤らめ、恥ずかしそうに視線を逸らしながらも私にはい、とお花を渡してくれる可愛らしい天使。


「ありがとう晋助くん…!先生すっごく嬉しいよ!」


嬉しさの余りに抱き寄せれば、天使は微笑みながらくすぐったそうに身を捩った。


「や、くすぐったいよせんせ、」
「ふふふ…ほらほら〜」
「ふふっ、きゃはは」


嗚呼もう可愛すぎる死にそう…!


「…先生、なまえ先生」


何処からか私を呼ぶ声が聞こえる気がするけど気の所為だ。今は可愛い可愛い天使と戯れるのが優先だもの。


「…こらっ!なまえさん、起きなさい!!」
「ひっ、はいい!!」


突然響いた怒声は無視できなかった。ぱちぱちと目を瞬いて周りを見回すと、そこは職員室の自分のデスクでした。


「…あれ?」
「あれ?じゃないでしょう!ほら、そろそろ園児をお昼寝から起こしてきてくださいな」
「す、すみません!」


私はどうやら寝てしまっていたらしい。不覚。
私を起こしてくれた先生に睨まれながら慌てて園児たちの眠る教室へと向かい、園児たちを起こす作業に入った。


「みんな〜起きる時間だよー!」
「んん…」
「せんせい、おはよう」
「ん、おはよう小太郎くん」
「せんせい!しっし!」
「わわ、辰馬くんはトイレね!付いていこうか?」
「んーん!だいじょぶやき」
「ん、行ってらっしゃい」


比較的寝起きのいい子たちは早くも起きて外に遊びに行ったり室内でおままごとを始めたりしている。最終的に周りがワイワイ騒ぎだしても残るのはいつも目の前の2人だった。


「ほら、晋助くんも銀時くんも起きなさい!」
「るせ…」
「ぐがー…」
「ったく…!」


口元がひくりとひきつるのも仕方ないと思う。特に前者の答えとか聞きました皆さん!?あれが園児の口ぶりとは思えない。夢の中では天使だったのに…。


「ほら、銀時く〜ん。今すぐ起きたらこの甘くて美味しいチョコレートを一粒あげ「おれおきましたせんせい!」…はい、良くできました」


銀時くんはチョロい。
チョコレートに釣られて元気いっぱいに起き上がった銀時くんはもぐもぐと幸せそうにチョコレートをかじりながら出ていった。残されたのは最大の問題児、晋助くん。


「ほら、もう銀時くんも起きたよ。後は晋助くんだけだよ」
「おれはただねるだけさ。おれのなかのねむけがなくなるまでな…」
「なんでただ眠いって言うのにカッコつけたの」
「ねむい、ねかせろ」
「正直に言い直したのはエラいけどダメです」
「ちっ」


舌打ちとか他の子の教育に悪いからダメ、とぺちりと頭に手をやれば鬱陶しそうに避けられた。凹んだ。

いつだって晋助くんは私が皆を起こす担当の日だけこうやって起きてくれない。狸寝入りしてるっていうのはバレバレなのにいつもしばらく起きてくれないから、私はそんなに嫌われてるのかといつも悲しくなってる。


「…そんなに私に起こされるのが嫌なら、他の先生呼んで来ようか?」


本当は、自分の仕事くらいきちんと最後まで自分でやりたい。だけど、晋助くんが本当に嫌がってるならそうすることは私のエゴだ。だから晋助くんに直接そう訊ねると、何故だか晋助くんはいきなりガバリと起き上がった。しかも、目が真ん丸になってる。


「はぁ?」
「え?」
「いまなんていった?」
「『え?』」
「ちげぇよ、そのまえ」
「『…そんなに私に起こされるのが嫌なら、他の先生呼んで来ようか?』って言ったよ」
「…なんでだよ」


晋助くんは何故か私の言葉を聞くと今にも泣きそうに顔をくしゃりと歪めてしまった。


「あわわ!し、晋助くんどうしたの!?どっか痛い?」
「せんせいって、ほんとに、ばかだろ」
「ええっ!?」
「ばーか」
「し、晋助くん…?」


晋助くんは馬鹿と言いながらも何故か私の胸に飛び込んできた。そのまま頭を胸に寄せてぎゅうっと小さな手の平がエプロンに皺を作る。なんか、デジャブ。


「せんせいがイヤだからおきないんじゃない」
「へ?そうなの?」
「……せんせいを、ひとりじめするためにきまってんだろ」


くぐもって小さな声だったけど、晋助くんの本音はバッチリ私の耳に届いた。ついでに赤くなったほっぺもちょっと見えた。

夢の中の天使みたいに素直な晋助くんも勿論可愛かったけど、現実の晋助くんもそれに負けないくらい可愛い天使でした。





little angel





もに、もにもに

「それにしても、せんせいのおっぱいってちいせーな」
「…晋助くん?」
「おれがおおきくしてやるよ!」
「っ…ふざけるなあああああ」


訂正、天使の顔をした小悪魔でした。




120605

 

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