とんとん、と肩を叩かれて振り向くと、目の前に伝子さんの凄まじい笑顔があった。


「ッギャアアアア!」
「ぷっ、あはははは!驚きすぎだろう!」
「え、その声はまさか…」


嫌な予感に苛まれながらも顔をガッと掴んで勢いよく剥がせば、出てきたのは見慣れた幼なじみの顔だった。


「〜っ鉢屋!アンタいい加減にしなさいよ!」
「全く、いつからかってもいい反応だなお前は」
「雷蔵の顔でそんなこと言うなァァ!」


怒り心頭の私がクナイを持って追いかけ回しても優秀な鉢屋三郎相手に追い付けるわけもなく、またもや高笑いしながら去っていく鉢屋を見送ることになってしまった。


「うわぁぁん雷蔵ー!!」
「よしよし、どうしたの?」


幼なじみの雷蔵の部屋に飛び込んで泣きつけば、雷蔵は鉢屋なんかと違って優しく私を受け止めてくれた。鉢屋なんか雷蔵の顔を借りてるくせに雷蔵の3分の1の優しさもないんだから!


「また鉢屋に騙されちゃった…」


しゅん、と私が雷蔵にすがれば雷蔵は苦笑いをしながら私の頭をぽんぽんと撫でてくれる。


「う〜ん…三郎もなにか思うところがあってやってるんだと思うけどな」
「思うとこなんてないよ!鉢屋は私をからかって遊ぶのが楽しい悪趣味な奴だもん!」


全く鉢屋なんて!と私がぷんすか怒っていたら、突然雷蔵が私の頭を撫でる手を止めて少し悲しそうな顔をした。


「三郎はよくそうやって誤解されちゃうけど、本当に嫌いな子には関わらない奴だから」
「え…?」
「僕の言ってる意味、わかる?」


雷蔵が雷蔵じゃないみたい。にこりというよりにやりと笑った雷蔵は、すっと私の頬に手を添える。


「ら、いぞ…」
「ねぇ、私の言う意味がわかる?」


だんだんと妖しい笑顔の雷蔵の顔が近付いてくる。え、うそ嘘ちょっと待って…!


「らいぞっ…」
「お待たせ三郎!ごめんね、委員会が長引いちゃって…って、あれ?」


思わずギュッと目を瞑ったら、スパンと勢いよく部屋の扉が開いて聞き慣れた声が聞こえてきた。パっとそちらを見れば、驚いたように固まる雷蔵の姿。あれ?じゃぁまさか、目の前に居る雷蔵って…


「チッ、いいところだったのに。雷蔵、もう少し空気というものを読んでくれ」


なぁ?なんて言いながら私の肩に腕を回してきたコイツは、間違いなく鉢屋三郎その人だった。




またしても騙されたーっ!




「最低最低最低っ!鉢屋三郎なんて大っ嫌い!」


今までにないからかわれ方に思わず涙目になりながら鉢屋三郎に怒鳴り付ける。恥ずかしい…!
そんな私の攻撃をひょいひょい避けながら、鉢屋三郎は軽く肩を竦める。


「おや、嫌われてしまったか。私は大好きなんだけどな」
「…は!?」
「私の言ったことをちゃんと聞いてなかったのか?」


あり得ない言葉に思わず固まると、頬に柔らかい感触。


「好きな子は苛めたくなるっていうじゃないか」


その囁きと頬に触れたのが奴の唇だったと理解した瞬間、私の顔は火を付けたように真っ赤に染まりそのまま意識が遠くなった。



(こんなのって狡いと思う!)