「仕方ないから飼ってあげる」
私みょうじなまえはひょんなことから鬼風紀委員長の雲雀恭也さんに飼われることになりました。
……なんでこんなことに。
「いいかい?僕がいいと言うまで何があっても騒がない叫ばない出てこない。わかった?」
「あの、でも…」
「返事ははいしか聞かないよ」
「はいいいいっ!!」
きらりんと光る銀色の長い棒。あれが噂に聞く雲雀さんの仕込みトンファーか…!
もちろん私が逆らえるはずもなくて、勢い良く返事をすれば雲雀さんは満足そうな顔で小さく笑った。
(笑顔とか初めて見た…!)
「風紀の仕事は今からが本番だから」
「り、了解しました!」
私は雲雀さんの胸ポケットの縁に掴まって、かろうじて頭が出ている状況だ。でも、今からまた胸ポケットの奥深くに隠れなければいけない。なんてったって、今から雲雀さんは帰宅しながら『風紀の仕事』をしなきゃいけないから。
「君たち、なに群れてるの?」
私の何事も起きませんように!という切実な願いは見事に砕け散った。なんてこった。
胸ポケットの中からは外の様子は詳しくは分からないけど、どうやら帰宅中の公園で(雲雀さん曰わく)群れてる人たちを発見したらしい。私は一刻も早く帰りたいのに!
「ひいっ!ひひ雲雀さん!」
「下がっててください10代目!ここは俺が!」
「よ!雲雀は今帰りなのな」
「ツっ…!」
聞き覚えのありすぎる声に思わず声を出しそうになってしまった。危ない危ない!
慌てて自分の口を塞ぐ。雲雀さんとの約束は、ちゃんと守らないと後が怖そうだ。
「…なまえ?」
ツナが私を呼ぶ声が聞こえてきて、物凄く焦った。まさかさっきの声、聞こえてたの…?
私が焦ってると、雲雀さんの意外そうな声が聞こえてきた。
「キミ、みょうじなまえと知り合いなのかい?」
「えっ!雲雀さんなまえのこと知ってるんですか!?」
「…並中の生徒だからね」
「けっ、どーせあのバカのことだ。またバカなことして風紀委員に目ぇ付けられたんだろ」
「否定はしないよ」
あれ?おかしいぞ。いつの間にかみんなして私の話にすり替わってる。
というか獄寺相変わらず失礼な奴だな!そして雲雀さんも否定してくださいよ!こんな言われ方したら私がバカみたいじゃないか!
「で?キミたちの関係は?」
「え、あの幼なじみというか、小さい頃はよく一緒に居て…」
「…みょうじなまえは中学にあがるまで海外に居たって聞いたけど」
なんで知ってるんですか雲雀さん。あ、そういえば変な紙に私のこといっぱい書いてあった気がする。会話しか聞こえてこないものだからどうにも状況が理解しにくい。
どうしようかと溜め息を吐いたらいきなり胸ポケットの上から押さえつけられた。
く、苦しい…!
「あの、なんか今溜め息が…」
「なんでもない。それより早く答えなよ」
雲雀さんの声が押さえつけられた胸板越しに響いてくる。
うわ、苦しいのもあるけどこれは恥ずかしいぞ…!
「あ、えーっと、確か幼稚園の途中くらいから海外に引っ越したみたいで…」
「アイツならずっとイタリアに居ましたよ」
「えぇ!?な、なんで獄寺くんが知ってるの?」
「俺、たまにアイツとアイツの親に会ってたんスよ。ちなみにアイツの親もボンゴレファミリーっスよ!」
「なまえってマフィアだったのー!?」
ああ、ついにツナにバレてしまった。並盛に帰ってきてツナと再会してからの半年間、絶対バレないように密かに努力していたというのに、全部パーになってしまった。
だってだって、私がイタリアから帰ってきた理由がボンゴレ10代目になるツナを守るためだなんて言えるわけないじゃん!
そんな私の心境を知ってか知らずか、雲雀さんはあまり興味がなさそうにふぅんと言葉をこぼした。
「だから赤ん坊もなまえを探してるんだ?」
「そうだぞ」
「うわあっ!リボーンお前いつの間に!」
「リボーンさん!」
「おー坊主じゃねーか」
「ちゃおっス獄寺、山本。ところで雲雀、お前なまえのこと知らねーんじゃなかったのか?」
最悪な人物の登場に思わず胸ポケットの中で頭を抱えました。なんでよりによってリボーンがこんなところに…!
雲雀さんは胸ポケットの上に置いていた手をのけて、仕込みトンファーを構えた模様。
「あの後少し草壁に調べさせたんだよ。キミが気にかけるほどだから、興味があってね」
「そうか。それで、何かわかったか?」
ニヤリと笑うリボーンの顔が容易に想像できる。胸ポケットの中に居る私は向こうからは見えないはずなのに、なんだかリボーンにはバレてるような気がした。
雲雀さんはリボーンに向かって淡々と告げる。
「詳しくはなにも。これから調べるけどね」
「…雲雀、お前なまえの居場所でも知ってんのか?」
雲雀さんの発言に獄寺が不審そうな声をあげる。私ここに居るんだけどね!雲雀さんの胸ポケットの中だけどね!
「…さぁね。知っていたところでキミたちには教えないよ」
「オレにもか?」
「赤ん坊にもだよ」
一瞬、リボーンと雲雀さんの間の空気が張り詰める。お、重いよ空気が…!
「…ふ、まあいい。いずれわかることだからな」
リボーンがふっと笑うと途端に張りつめていた空気が和らぐ。思わずため息を吐いた途端、私にしか聞き取れないくらいの囁きが聞こえた。
「ちゃんと守護者と仲良くなれよ。雲雀のとこなら大丈夫だろ」
やっぱり見透かされていたみたいだ。敵わないなぁと苦笑しながらうん、と小さく呟く。どうやら私の返事が聞こえたらしいリボーンは帽子を目深に被りニッと笑うとツナの足を踏んづけた。
「いだだっ!な、何すんだよリボーン!」
「さっさと帰るぞダメツナ。じゃーな雲雀」
「…今回は赤ん坊に免じて見逃してあげるよ」
なんとか丸く収まったらしい。私は雲雀さんの胸ポケットの中で縮こまりながら遠ざかっていくツナたちの声を聞いていた。ちょっとだけ心細い、かな。
「…なまえ」
「は、はい!」
突然雲雀さんに名前を呼ばれて焦りながらも返事をすれば、再び胸ポケットの上からぎゅうと押さえ付けられた。
「ぐえっ」
「蛙が潰れたみたいな声出さないでくれる?帰ったらいろいろと聞かせてもらうからね」
覚悟しなよ?と言う声は何処か弾んでいて、私には落ち込む暇もないということをはっきりと表していた。
私、どうなるんだろ…!
Do you know it?