ぱちりと目を開けると、すでに日は沈んでいて部屋の中は薄暗かった。しかしそんなことなんて気にもならないほど、私の心臓は早鐘を打っていた。

今見た、夢。 内容はぼんやりとしか思い出せないのに、私の両頬には涙が伝い、嫌な予感にお腹の中心がぐるぐると渦巻くような感覚がした。


「だめ、だよ。」


ぽつりと震える声で呟いた言葉は、主の居ないがらんとした部屋に吸い込まれる。
いけないいけないいけないいけないいけないいけないいけないいけないいけないいけない!


「だめっ!」


私は弾かれたように立ち上がると、早乙女さんのサンダルを適当に選び突っかけて、慌てて部屋を飛び出した。







「っはあ、はあ…」


全速力で走る。 前の世界ではど田舎に住んでいた私にとって、都会はまさにコンクリートジャングルだ。
毎日近所のスーパーに行くだけしかマンションを出ないので、すぐに道がわからなくなる。

「どこ…っはあ、はあ、」


マンションのベランダから見た景色を思い出し、早乙女さんの会社らしき場所へ向かって走っていたが現在地がわからない。


「っ、とりあえず行くしかな…きゃっ!」


慌てて回れ右して走り出そうとすると、誰かに勢いよくぶつかってしまった。


「ご、めんなさ…」

「ってェな嬢ちゃん、あァ?」


慌てて顔を上げれば、そこにいたのは早乙女さんに負けず劣らず顔の怖いお兄さんたち。


「いってェ〜これ慰謝料いるって。」

「ほら、有り金で許してやるから出しな。」


お兄さんたちは私の肩を掴み逃げられないようにする。こんなことしてる場合じゃないのに!
私が焦っていると、バキッと鈍い音がして私の肩を掴んでいた男が鼻血を出しながら倒れた。


「おいおいてめェら、こんなガキからカツアゲかァ?かっこ悪ィ真似してんじゃねェよ。」


声に振り向くと、目の前には真っ赤なシャツに金髪の目つきの悪いお兄さん。


「ひっ吾代だ!」

「逃げろォ!」

「けっ、弱ェ奴らだな。」


一目散に逃げて行く男たちを確認すると、吾代さんはくるりと回れ右をする。


「てめェもガキのくせにこんな時間にこんなとこに居るんじゃ…」

「吾代さんっ!」

「おわっ!」


思わず飛び付いてしまった私に吾代さんは驚いたようによろめく。 でもそんなのに構ってられない。
吾代さんの手にはお話通り、集金袋が握られているのだから。


「事務所ってか会社の場所教えてください!」

「あァ?んだてめェ、社長になんか用が」

「早乙女さんが危ないんです!」

「はァ?社長が?」


吾代さんは未だに纏わりつく私を鬱陶しそうに怪しそうに見ながらも私の切迫した様子が見て取れたのか着いて来い、と手を引いてくれた。


間に合って間に合って間に合ってお願いします神様。


速いのに一向に走る速度を緩めない吾代さんに半分引きずられながら、必死に涙を堪えて走り続けた。







私の役目を果たします






(きっと私はこの為に来た)
(大事な貴方を守る為)