「で?」

「だから…その、」


目の前でにやにやと笑い続ける悪人(もとい早乙女國春さん)に仕方なくお願いをする。


「私を此処に置いてください!」

「嫌だ。」


私の必死の頼みは軽く一蹴された。


「な、いいじゃないですか減るもんじゃないし!早乙女さんのケチんぼ!」

「はァ?金が減るだろ。」


最もな言葉を返されてしまいぐっと言葉に詰まる。 闇金融業者のくせに言うことは正論だから言い返せないじゃないか!
本人は膨れ面の私に視線をやることなく我関せずという風に悠々と煙草を吹かす。


「じゃ、じゃあどうしたら…」

「…まァ、置いてやらねーこともねェぞ?」

「えっ!」


突然の優しい言葉に慌てて顔を上げる。ああ悪人だなんて思っててすみませんでしたやっぱりトリップの王道は逆ハーだもんね!


「…やっぱ止め」

「ああすみませんなんでもないんでどうぞ続けてくださいお願いします!」


私の心でも読んだのか。
慌てて床に頭が擦り付くほど懸命に頭を下げれば、早乙女さんはよし、と言ってニヤリと笑った。


「金がねェなら、その分体で返してくれりゃあいいから。」

「え、」


嫌な予感に苛まれながら顔を上げれば、有り得ないくらい満面の笑み(いやいやちょー怖いです真面目に)で私の肩を掴む早乙女さんが居た。


「仕事柄いい就職先いっぱい知ってるから。なァに、肩たたきの延長みたいなモンだ、心配すんな。」

「いや余計に心配だから!てゆうかどっかで聞いたような台詞…」


う〜ん、と考えていると浮かんだのは可愛らしい顔の不憫な女子高生探偵。
ああ、弥子ちゃんもこんな思いしてたんだねいつも…。
今まで笑って見ててごめん、と会ったこともない漫画の主人公に心中で謝罪の言葉を述べるのだった。










あの後なんとか早乙女さんを説得して、どうにか早乙女さん家の家政婦として雇って貰えることに決まった。
まあ家政婦って言っても給料はそのまま家賃と食事代に消えるから、住まわせてもらう代わりに家事をするようなものだけど。


なんとか肩たたきの延長を免れた私は上機嫌で早速掃除機をかけている。 早乙女さんはグレーのスーツを来て仕事に行ってしまった。1人だと、部屋がやけに閑散として広く感じる。


「私、どうなるんだろ…。」


掃除機を止め、ソファーに座り込んだ。
早乙女さんが居る時はまだ何がなんだかよくわからなくてただがむしゃらだったけど、落ち着いて考えたら私、トリップしちゃったんだ。

どうして、私だったんだろう。
さしてこの漫画に興味があるわけでもなく、ましてやよく知らない早乙女さんなんてサブキャラのところに飛ばされ、神様は一体私をどうしたいのやら。


「考えても仕方ない、か。」


私は勢いよくソファーから立ち上がり、再び掃除機に手をかける。 どうがんばって考えても、答えは出そうにないから。


「よっし…ピッカピカにしてやる!」


せめて今は何も考えなくて済むようにと、与えられた仕事に専念することにした。

びっくりさせてやるんだから!





お帰りなさい!





(おお…ってなんだこの匂い)
(え?キャァァこっ焦げてるゥゥ!!)
(てめっ、家燃やす気かァァ!)
(ごめんなさいィィ〜!)