え、何これなんでこんな状況?


「あ、の…?」

「ん?なんだ?」

「退いてもらえます?」

「そりゃあ無理だなァ。」


なんでだァァ! ちょっ、いい加減にしろ! と思わず突っ込む。(しかし相手は怖そうなお兄さんなのでとりあえず心の中に留めておく)

まあアレですよ、私は今いわゆる“押し倒された”状態なわけです。
いやいや不味いっしょこれは、だってなんかちゃっかり布団の上だしお兄さん思いっきり裏稼業やってそうな面構えだし私寝間着だし。

寝間着って言ってもパジャマでもなけりゃスウェットでもない薄っぺらなひらひらのキャミを ワンピみたいに着たもの。 (だって夏だもん!暑いし!)



つまり状況は最悪という訳で。


「ちょっ、お願いします頼むから話を…ってどこ舐めてんですか!」

「え?耳と首す」

「ぎゃあああ!もう良いです言わないでくださいすみませんでしたァァ!」

「っ…くく、」

「…は、…え?」


私が必死に抵抗していると、男の人は私からさっと退いて爆笑しだした。(なんて失礼な!)


「ぷっ、はは、悪かったな嬢ちゃん。てっきりその手の業者が返済日の延期かなんかの為に送ってきた奴かと思ってな。」

「は、はあ…。」


全く話しについていけない。 が、1つわかることは、やはりこの人が裏の世界で働いている人だということ。(返済日とか聞こえた気がする)
男の人はしばらく笑った後、さて、と一息吐いて私に向き直った。


「で?じゃあお前は何者だ?」


小馬鹿にするような言い方に、やんわりとした笑顔。なのに、私の背筋には冷たいものがぞくりと這った。 この人、瞳が全く笑ってない。

がらりと変わった雰囲気にとてつもなく焦る。 一瞬、殺されるかも、なんて考えが浮かんできて、 慌ててそれをかき消した。


「あ、の、私は…」


自分でもよくわからないことを他人に説明するのは難しい。 だからといって、此処でこのまま黙っておくこともできない。
一旦深呼吸をして、覚悟を決めて話し出す。


「私は普通のしがない女子高生でしていつも通り学校行って家に帰ってきてお風呂入って明日の準備して寝て起きたらここに居ました。」

「ほォ…。」


息継ぐ間もなく全てを正直に語れば、男の人は面白そうな声を上げた。


「んじゃあなにか、帰る家なんかもねェのか?」


男の人の言葉にはっと大事なことに気付く。そうだ、私はまだ自分がどんな状況に居るのか把握できてない。
とりあえず一度状況を把握しないと、と自分を落ち着かせる。


「あの、此処ってどこですか?」

「東京。」

「…え?」


一瞬自分の耳を疑うが相手は間違いなく冗談を言っている顔じゃない。 しかし、どうやったら我が家のあるあの田舎町から東京のマンション(しかも悪人ぽい男の人の部屋!)に移動できるのか。
しかも私やこの人には気付かれない方法で。


「ないよねそれは…。」

「あ?」

「え、いやあの、そっ、そういえばお名前なんて言うんですか?」


小さく呟いた独り言を聞かれてしまい慌てて話題を逸らすと、男の人はなんでもないようにとんでもない言葉を吐いた。


「ん?ああ、俺は早乙女國春。」

覚えときゃ便利だぞー、と笑う彼の顔と名前は、私のよく知っている漫画の登場人物と瓜二つだった。






誰か夢だと言ってください





(何これ、まさかのトリップ?)
(は?ストリッパーなのかお前ェ)
(違いますけど…ああなんでこの顔見て気付かな かったんだろォォ!この顔の傷とか!)
(おい、)
(サブキャラすぎて覚えてなかったし…)
(てめ、誰がサブキャラだァ?)
(え、いや…あはは)