視界が酷くぼんやりとしていて頭も重い。春の深いまどろみの中に溺れているような感覚。手足の感覚もない。
そもそも、私手ェ付いてる? そんなことまで考えてしまうような浮遊感、無実体感。 此処が何処なのかも何故私が此処に居るのかもわからない。
わかっていることと言えば1つだけ。

誰かが、泣いてるってこと。

なんでかな、視覚も触覚も鈍い所為か、聴覚だけ が異常な程敏感に誰かの啜り泣く声を拾ってしま う。

誰?

そう声を発したはずなのに、私の口元はぴくりと引きつるだけだった。 喋れもしないらしい。



う…、おと、…さん




え、


出るわけもないのに小さく声を零す。微かに聞こえてきた声は紛れもなく、長年聞き続けてきた自分の声だった。















「…い、おい」

声が、する。 低くて柔らかくてなんだか安心するような、あったかい声。

お父さん…?

ん?あれ、お父さん? いやでも私にお父さんは居るわけないし、私1人っ子だし、お母さんこんなに声低くないし。


「ん…?」


誰、なんだろ。


「おい、起きろや。」


今度は先程のような優しい声色ではなく、人1人 脅し殺す(なんてこと本当にできるのかは知らないけど)くらいにドスの利いた声が聞こえた。
と同時に、すごい勢いでがくがくと揺さぶられる。


「起ーきーろ。」

「う…ん?」


仕方なくまだ寝起きでぼやける視界を必死に擦って覚醒させれば、目の前には顔に小さな傷が付いた怖そうな男性のドアップがあった。


「え…?あの、どちら様で…」

「どちら様、かよ!」


私が困惑していると男の人は楽しそうにくすくすと笑い、ぐいと私に顔を寄せてきた。


「きゃ、」

「よォお嬢ちゃん、人様の家の人様の寝床で何してんだァ?」


男はそう言って、悪魔じみた笑みを顔中に広げた。







グッドモーニング!



(え、人様の家って…?)
(は?此処俺ん家。)
(え?嘘ォォ!?)